肩書きはナース兼『1等陸尉』―陸上自衛隊看護師(中編)|病院外の看護現場探訪【6】
看護師であると同時に、陸上自衛官でもある『自衛隊ナース』のFさん。
前編では、看護学校入学から卒業までをお話いただきました。今回は実際の勤務に就かれてからの様子をお話いただきます。
自衛隊病院の役割は、隊員が訓練できるまで回復させること
卒業後は自衛隊中央病院をはじめ、全国の8つの病院に配属になります。Fさんは他の約20名の卒業生とともに中央病院に配属され、初めは内科病棟の勤務になりました。
Fさんが勤務する自衛隊中央病院
自衛隊中央病院は、以前は自衛隊員とその家族が診療対象の施設でしたが、平成5年からは保険医療機関化され、一般の患者さんも診察を受けられるようになりました。
ただし、入院施設については、自衛隊関係者以外は利用できない科もあります。この他、札幌病院、富士病院、阪神病院、福岡病院でも一般の患者さんを受け入れています。
実際に中央病院外来の待合室を見てみると、さまざまな年齢層の患者さんがいますが、時間帯によっては迷彩服を着た自衛官ばかりということも。
「一般の患者さんも多いのですが、一般の病院に比べると患者さんの年齢が低いですね。
例えば整形外科などは高齢者が少なく、20~40代の自衛官が圧倒的です。
自衛隊員が受診する場合、各駐屯地の医務室ですでに治療を行っているため、大きな病院でなければ治療できないケガや病気が中心となります」
病院勤務後は学生時代よりもハードな訓練も
また、病院に勤務してからも陸上自衛官としての教育は続きます。
看護師として仕事を始めてから4年目に、幹部になるための試験を受け、この試験に合格すると3等陸尉に階級が上がります。その先も、陸上自衛隊での階級が病院の中での階級となっていきます。
陸上自衛隊看護師の階級図。2等陸曹からはじまり、1等陸佐が最高位となる。陸上自衛隊の場合、この上に陸将補、陸将がある
そして、幹部試験に合格後、待っているのが4カ月間の幹部初級課程です(現在は教育が強化され、幹部基礎課程、初級課程に分かれ、計6カ月)。
この一環として有事の際などの野外病院の訓練が行われます。約30キロの荷物を背負って20キロ歩く徒歩行進やほふく前進、射撃訓練などがあり、雨でも行われるハードな訓練です。
徒歩行進の様子(写真提供:陸上自衛隊)
「学生時代もこうした訓練はありましたが、幹部としての行動を意識したさらに厳しい内容となっています。早朝から夜まで訓練があり、夜はテントを張って野外で寝るのですが、終わった後、体重が減ってしまったぐらいハードでした」
この課程を終えると、幹部としての生活がスタート。ここから転勤や災害派遣も始まります。
負傷者搬送訓練の様子(写真提供:陸上自衛隊)
Fさんの場合、幹部になった後は集中治療室に10年勤務しました。その間、階級が1等陸尉に上がるタイミングで、2カ月間の特技課程に入校。再び野外病院を想定した訓練を行いました。
特技課程以降は全員に義務づけられた訓練はありませんが、横田基地や座間基地などで行われる米軍との合同訓練で、再び野外病院を想定した訓練などに参加。他には英語を勉強する課程にも入校したそうです。
「実際に海外への派遣、災害派遣を経験していなくても、訓練を重ねることで、いざという時に役に立ちたいという使命感が強くなっていきました」
配属先によって大きく異なる業務内容
看護師になって10年以上経ち、着実にステップアップしてきたFさんの生活が大きく変化したのは、自衛官と結婚し、3年後に出産してからでした。
実は自衛隊ナースの多くが自衛隊関係者と結婚しているそうです。
「結婚した時、夫は北海道勤務だったため、最初から離れ離れに暮らしていました。自衛官は2~3年ごとに勤務地が全国規模で変わることが多いため、結婚してから15年以上経ちますが、一緒に暮らしたのは数年しかありません。
その後、出産して1年間、育児休業を取得して復帰しましたが、それからが大変でしたね。
夫は一緒に住んでいないので、娘が病気になると、実家の九州から母に来てもらっていました。今は病院近くに託児所もできたので、ずいぶん働きやすいと思います」
お子さんの小学校入学までは、希望して中央病院の外来勤務となったFさん。こうした希望はある程度は考慮してもらえるそうですが、それでも救急当番のため、定期的に泊まりの勤務がありました。
その後、小平駐屯地にある陸上自衛隊の教育機関である小平学校の医務室に転勤し、2年間勤務した後、再び中央病院へ。今度は自衛官の健康診断を行う検診病棟の勤務になりました。隊員は宿泊して検診を受けるため、ここでも夜勤があったそうです。
「東京に住む妹やご近所の方に助けていただきながら両立してきました。今は娘も中学生になり、ずいぶんラクになりました」
小平学校勤務時代、駐屯地の夏祭りで救護所を担当するFさん。自衛隊ナースの大事な仕事のひとつ
Fさんの場合、病院勤務と駐屯地の医務室で勤務する業務隊勤務ですが、他には部隊勤務があります。
部隊勤務とは全国の衛生隊での勤務で、活動は国内外への被災地などへの派遣の他、平時の訓練が中心です。
病院勤務の場合は配属となった科に応じた専門知識が求められ、業務隊勤務では自衛隊員の健康管理、部隊勤務となると野外での訓練が年間を通して行われるなど、配属先によって任務が大きく変わり、その都度対応していかなければいけません。
その後、中央病院の精神科病棟勤務となったFさんは、初めての任務を経験。
2011年3月の東日本大震災の災害派遣です。
後編では、災害発生時の対応や東日本大震災での医療活動について伺います。
【自衛隊看護師インタビュー】
(中編) 肩書きはナース兼『1等陸尉』
※2014/4/16更新 Fさんの階級に誤りがあったため、訂正いたしました。
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