訓練が活きるとき―東日本大震災―陸上自衛隊看護師(後編)|病院外の看護現場探訪【6】
看護師であると同時に、陸上自衛官でもある『自衛隊ナース』のFさん。
前編、中編では、看護学校入学から現在までと、一般的な病院勤務との違いについて紹介しましたが、最終回は災害派遣や国際平和協力活動などの任務についてお聞きします。
Fさんが初めて災害派遣を経験した、東日本大震災の経験もお話いただきました。
災害地や海外に派遣されることを常に想定
自衛隊ナースが日頃、病院や駐屯地の医務室などでの業務以外にさまざまな訓練を行っているのは、自衛官として国の防衛、国際平和協力、災害派遣などの任務を行うためです。
陸上自衛隊のヘリコプター「CH-47」での患者輸送訓練
こうした任務は、すべて防衛省からの指示で行われます。
派遣される隊員が指定され、そのメンバーに入ると指定教育を受けるのです。
こうしたシステムがあるため、派遣前にある程度心構えができますが、指定されなかったとしても常に派遣されることを想定しているそうです。
「特に災害などはいつ起こるか分かりませんから、3日分の着替えやコンタクトレンズなど、派遣された時の持ち物は常に病院に置いてあります。
わが家は夫も自衛官なので、夫婦で家に帰れない可能性があり、中学生の娘は数日間、1人で過ごさなければいけないことも予測されます。そのため、いざという時は地域の避難所に行くように小さい頃から教え込んできました。近所の方にもいざという時のフォローをお願いしています」
病院内での訓練
はじめての災害派遣は、東日本大震災
長年、自衛隊ナースとして活動してきたFさん。これまで地下鉄サリン事件の際に中央病院で患者を受け入れた経験はあれど、実際に災害の起こった地域に派遣されたことはありませんでした。
被災地域で脈を計る看護師(写真提供:陸上自衛隊)
そんなFさんが初めて災害派遣を経験したのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災。
宮城県仙台市にある自衛隊仙台病院が医療活動の拠点となり、震災発生の翌日に自衛隊中央病院から看護師が派遣されました。
「まわりにはこれまでに災害派遣を経験してきた看護師も多く、その話を聞いて心構えができていたつもりでしたが、実際、仙台に派遣されると決まった時はとても緊張しました。
私が仙台に派遣されたのは4月15日でした。
発生直後に派遣されたメンバーは被害の状況も分からないまま現地に入り、沿岸部の避難所をまわり、1日がかりで遠方の避難所に行くこともあったそうです。
約1カ月後に派遣された私は救急の対応ではなく、避難所での生活を余儀なくされている方の健康管理が中心でした」
震災後、仙台病院では特別に一般患者の受け入れを行ったため、午前中は病院に来た患者さんや入院患者さんのケアが中心。午後は医師1名、看護師2名、ドライバー1名の4名でトラックに乗り、避難所に巡回診療に出かけました。
避難所での医療支援(写真提供:陸上自衛隊)
避難所で患者さんの気持ちに寄り添う
「避難所での相談は高血圧などの慢性疾患のために、飲んでいた薬がないといった内容が多かったです。眠れないと訴える方もたくさんいらっしゃいました。
中には名前もおっしゃらない方もいて、大変な経験をされてストレスを抱えている方が本当に多いと感じました。
そんな中で活動するにあたって、私自身は被災していないので、その思いを簡単に理解できると思ってはいけないなと。その代わり、話を聞いたり、少しでも気持ちが休まることがあれば、何でもやりたいと思っていました。いわゆる医療活動というよりも、気持ちに寄り添うという面が強かったです」
自衛隊ナースを選んでよかった
これまでFさんは、病院で元気になった患者さんの笑顔を見ることに喜びを感じていたそうです。
「被災地で『自衛隊さん、来てくれてありがとう』と声をかけていただくことが多く、さまざまな経験を積み重ねてきた自衛隊ナースだからこそお役に立てていると実感できたんです。
いつ何が起こるか分からない中、これまでやってきた厳しい訓練が、備えとして大切なものだと改めて感じましたし、自衛隊ナースになってよかったと思いました」
東日本大震災以前、Fさんたちは、阪神大震災、地下鉄サリン事件などでの災害支援の経験を元にした教育を受けてきました。
自分が仙台に派遣された時、こうした教育や先に派遣された同僚からの「どのような心持ちで臨むべきか」といったアドバイスが役に立ったそうです。
経験を伝え、教訓を積み重ねていく大切さを、今度は自分が伝えていく側になろうと決めたFさん。現在は中央病院の災害教育の推進チームの一員として、活動を行っています。
勤務する精神科病棟のメンバーとミーティング中
「何かが起こった時のために日頃から準備をして、いざという時に実際にしっかり働けるということが誇りです。国民の皆さんのために働く自衛隊員を健康管理という面で支えることにも責任を感じます。常に国のため、国民の皆さんの安全のためにという思いが基本となります。」
訓練の厳しさをはじめ、全国転勤、病院勤務以外もあるなど、さまざまなハードルがある一方で、特別職国家公務員としての給与、休日、保険、福利厚生などの待遇面でも魅力がある自衛隊ナース。
病院で患者さんに接しているFさんの姿は穏やかで、一般の病院で働く看護師さんと全く変わりませんでした。
でも、日本はもちろん世界で困っている人、傷ついている人の役に立てるという自負や国民を守り、平和に貢献するという覚悟と使命感は、『自衛隊ナース』にしか味わえないやりがいにつながっているのではないでしょうか。
【自衛隊看護師インタビュー】
(後編) 訓練が活きるとき―東日本大震災
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