「メディカルラリー」って何?救命医療技術を競う国内最大規模の「千里メディカルラリー」に密着!

メディカルラリーとは、医師や看護師、救急救命士から成る数人のチームが救急救命の腕を競う大会のことです。各チームが指定された場所(シナリオステーション)で模擬患者さんに対して診察や処置を行い、横にいるジャッジがその的確さや職種間の連携など、さまざまな評価ポイントに沿って採点します。チームはいくつかのシナリオステーションを回り、最終的にその総合得点で順位を競います。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション1

 

 

メディカルラリーって?

メディカルラリーは、冒頭で示した通り、救急医療技術の競技会です。しかしながら、単に得点を競うだけではありません。メディカルラリーのシナリオステーションは、大規模なものになれば、「多重衝突事故現場」や「トンネル崩落事故現場」といった、実際の現場を再現し、さらに流血や傷口などの特殊メイクを施した模擬患者役も配するなど、よりリアルな現場が再現されていることもあります。
そういった、リアルに再現された模擬現場で、実践さながらに動くことにより、個々人の技術力の確認はもちろん、何より他職種との協働や情報共有の大切さといった、チームワークの必要性を「体感」できる貴重な場でもあります。

 

メディカルラリーの発祥は、1990年代のチェコ共和国です。そして、日本では、2002年に千里救命救急センター(現 大阪府済生会千里病院千里救命救急センター)主催により、「第1回千里メディカルラリー」が開催されました。以降、年に1度開催されており、日本では最も規模が大きいメディカルラリーの一つです。

 

そして第16回を迎える「千里メディカルラリー」が、2017年10月21日(土)、大阪の万博公園近くにある「エキスポシティ」周辺で開催されました。全国から参集した20チームが、施設内に設置された5ヵ所のシナリオステーションを回り、救命医療技術を競いました。今回は、その中から2つのシナリオステーションの様子を紹介します。

 

 

 

 

いよいよスタート! 注目の「千里の道も一歩から」チームに密着開始!

 

看護roo!編集部は、同メディカルラリーの主催施設である大阪府済生会千里病院の千里救命救急センターの精鋭たちで結成された「千里の道も一歩から」チームに密着することになりました。
同センターは、元は日本初の独立型三次救急医療施設であり、救急医療施設としては、いわば老舗中の老舗。そんな施設所属のチームですから、上位入賞が期待できそうです!(ちなみに、当然ながら、主催施設から参加のチームといえど、今回どのようなシナリオかは知らされていません)

 

第16回千里メディカルラリー_集合写真

 

メンバーは河本晃宏さん(医師)、小川裕子さん(医師)、齊藤周作さん(看護師)、黒木伸治さん(看護師)、堀口昌信さん(救急救命士)、南佐武郎さん(救急救命士)の6人です。
このラリーには全員初参加で、チームは大会の2ヵ月前に結成されたばかり。忙しい業務の合間をぬって、シナリオを想定して練習を行うなど、短時間でチームづくりを行ってきたとのこと。

 

ちなみに、各チームにはくじ引きで決定した誘導係が同行します。誘導係は各ステーションまでチームを連れて行ったり、現場が混雑しないよう時間を調整したりする世話役を務めます。
同チームを担当したのは、自称「しあわせのうさぎちゃん」こと松田健太郎さん。日ごろは西宮市の病院で看護師として働き、ラリーに参戦したこともあるそう。今回はボランティアスタッフとしての参加で、うさぎの着ぐるみもまさかの自前!

 

大会運営には誘導係や模擬患者さん役など、さまざまな形で大勢のボランティアスタッフがかかわっており、盛り上がりを支えています。

 

 

シナリオステーション1 運動会に車が突っ込み、多数の傷病者が発生!

当日は超大型台風が接近中で天候は大荒れ。次第に強くなる雨の中、同チームが最初に臨んだステーション1のテーマは「多数傷病者発生時の処置と混乱する現場での対応」。

 

設定状況は、大人や子どもが大勢参加している地域の運動会会場です。その会場に男性が運転する車が突っ込み、人をはねた上にナイフなどで刺して多数の傷病者が出ているという一報が入り、救急隊が先に現場入り。その後、要請に応じて医師と看護師のドクターカーチームが到着。混乱する中でトリアージを実施し、刻一刻と状態が変化する傷病者に適切な対応ができているかなどをジャッジが評価します。

 

チームはまず、救急救命士から成る救急隊チームと医師・看護師から成るドクターカーチームに分かれ、それぞれ次のような事前説明を受けました。

 

第16回千里メディカルラリー_SS1指令

 

救急隊チームの堀口さん(写真左)と南さん(写真中央)が出動司令を受けています。別のテントでは、医師と看護師のドクターカーチームが同じように司令を受け、現場に向かいます。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション1

 

到着した救急隊の堀口さん(EMT・写真中央)は、「こっちにけが人がおる!早く見てくれ!」と群がる傷病者たちを落ち着かせ、歩ける人は安全なエリアに誘導しながら、現場の状況を把握していきます。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション1

 

南さん(EMT・写真左)は、すでに立ち上がっていた本部から、現場のトリアージを指示され、他チームの救命士とペアで傷病者のトリアージを行っていきます。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション1

 

赤エリアの救護所をまとめて指示を出すリーダー役に立ったのは小川さん(Dr)。複数のチームと連携を図りながら、変化する現場の状況を読み、冷静に対応します。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション_赤タッグエリア

 

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション_赤タッグエリア

 

犯人が再び会場に乱入し、「全員退避!」の号令がかかったところでシナリオは終了。通常では、競技時間はだいたい10分前後のところ、このステーションは異例の40分という長さ。競技者らは緊張感が続く中、ずぶ濡れになりながら全力を尽くしました。

 

シナリオステーション1での競技を終え、小川さんは「楽しかった!」と満面の笑み。一方で、「同じような想定の練習は行っていたものの、半分ほどしか実力を出せなかったです」と悔しさもにじませ、他チームと息を合わせることの難しさを痛感したようです。

 

 

シナリオステーション3 「3ヵ月の男児が息が苦しそう」と救急要請。さらに母親は日本語が通じない?!

同チームの行動が最も高く評価されたのがステーション3でした。
テーマは「先天性疾患を持つ小児への救急対応」です。生後3ヵ月の男児が息が苦しそうと救急要請があり。救急隊チーム(EMT2人、Ns1人)とドクターカーチーム(Dr2人、Ns1人)に分かれ、先発で救急隊チームが現場へ急行。現場に着くと母親はタイ人で、意思疎通が困難という設定です。

 

このステーションでは、なまりがきついタイ人の母親からどう素早く患者情報を聴取するか、また、男児に適切な身体管理を行い、ドクターカーの要請・合流(ドッキング)するタイミングをいかに的確に見極めることができるかが試されました。

 

まず先に現着した救急隊チーム。黒木さん(Ns・写真左)が男児を抱いた母親に話しかけるものの、いまいち通じていない様子。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション3

 

身振り手振りでなんとか母親に説明し、男児にモニター心電図とバッグ・バルブ・マスクを取り付け処置を行おうとするも、今度は興奮した母親が男児に取りすがります。一生懸命母親をなだめて落ち着かせようとする黒木さん(写真左)。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション3

 

ここで南さん(EMT・写真右)のファインプレー!母親から母子手帳やかかりつけ病院の診察券を見せてもらうことに成功します。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション3

 

その診察券を元に、南さんは直接かかりつけ医に電話し、男児に先天性の心室中隔欠損症があることが判明。欠損孔が大きく、肺高血圧にならないように現在ラシックス®を投与しながら体重増加の具合を見てオペの予定があることも分かりました。

 

実はこのステーションのポイントは、母親から母子手帳か診察券を見せてもらうことでした。それがないと、かかりつけ医と話をすることができず、男児の持つ先天性心疾患も知らないまま、高流量酸素投与を行い、男児は心停止に陥るという落とし穴になっていたのです。

 

しかしながらこの対応、南さんにとって特別なことではなく、普段から現場で実践していることだそう。「小児患者さんの場合、母子手帳や診察券から情報収集するのは日ごろから行っていること。自宅に電話をかけて家族から情報を聞き出すこともあります」。
いつもの行動が大きく評価され、南さんは自信が持てたようです。

 

南さんのファインプレーにより、千里の道も一歩からチームは男児の既往歴の情報を聞き出した上でドクターカーを要請し、ドクターカーチームが到着。早期ドッキングに成功しました。

 

第16回千里メディカルラリー_シナリオステーション3

 

そしてなんと、参加者の中で迅速にかかりつけ医と接触したのは南さんだけ。その判断力と行動力にジャッジの1人が感動で目を潤ませる一幕も……。

 

 

結果発表!「千里の道も一歩から」チームの順位は?

すべてのチームが競技を終えた後は、懇親会と結果発表。参加者はリラックスムードの中、結果発表を待つことになります。

 

審査の結果、「千里の道も一歩から」チームはなんと第3位でした!
代表して壇上で小川さんは「チームのみんなでやってきていい経験ができました。ありがとうございました!」と感想を述べ涙。

 

第16回千里メディカルラリー_結果発表_千里の道も一歩から

※編集部注:齊藤さん(後列左から2人目)が、歌舞伎ばりのメイクをしているのは、順位発表の前に行われた各チーム紹介を兼ねた余興で熱演した結果です。

 

今回、ご紹介したのは2つのシナリオステーションでしたが、ほかにも、夫婦で宿泊していたホテルで妻が買い物に出た間に、妄想癖のある夫が4階のテラスから2階に転落。転落先には電気工事中の男性がいて、電動ドリルが太ももに刺さり動脈を損傷するも、夫はその男性がクッションになり軽症。たまたま別要請で来ていたドクターカーチームが対応するが、「銃で打たれた!」という夫の妄想による訴えに翻弄され…。といった、ドラマのような展開のシナリオステーションもありました。

 

来年も開催予定の大阪千里メディカルラリー。「我こそは!」と思う人はぜひチームを組んでチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

【看護roo!編集部】

 

 

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