タンザニアの妊産婦を救いたい!国際医療の現場に生きる助産師・マガフ範子さん【1】
「タンザニアで働いていた助産師に会える」と聞いて、取材陣が案内されたのは、ある産婦人科の病室。
ドアを開けると、小さな赤ちゃんを抱えた女性がそこにいました。
彼女がマガフ範子(なおこ)さん。
日本から約1万1千キロ離れた場所、アフリカ大陸にあるタンザニアで約3年間、日本人助産師として活動しました。
なんと取材日は、第二子であるダマス君の産後3日というタイミング。
「ちょうど授乳しておなか一杯になったから、静かに寝てくれてよかった」と、笑うマガフさんは優しい母の顔。
“1,000人の妊婦さんのうち、5~6人は亡くなってしまう”という過酷なタンザニアの地で働いていたイメージとは、どうしてもギャップがあります。
しかし、「私自身、こうして日本の恵まれた環境での出産を経験すると、タンザニアのことを思わずにはいられません。ここだったら、みんな助かるのに・・・」
と話すマガフさんは、やはり世界を知る「助産師」の顔でした。
今回のインタビューでは、タンザニアで活動をする中で感じたこと、母となって変わったこと。そして、これからのことなど、マガフさんにお話を伺ってきました。
タンザニア赴任時のマガフさん
第1回:妊産婦を救えない厳しい現実
「1つ1つの命を自分に選ぶ権利があるのか・・・」
「ンダラ病院」の小児病棟
子どものころ、ヒロインが看護師になるアニメ『キャンディ・キャンディ』にあこがれて、看護師を目指したというマガフさん。国際援助などにも関心があり、海外で働きたいという思いも強かったそう。
2つの思いがつながったのは、看護大学に入学した後でした。
「助産師のほうが、海外で働けるチャンスが多いわよ」との大学教授からの助言を受けて、助産師と保健師の資格を取得。
そして卒業後に3年半の臨床経験、さらに大学院での2年間を経たのちに、2007年9月、満を持してタンザニアの地に立ちました。
最初の赴任先は、タンザニア・中西部のタボラ州。200床を構える「ンダラ病院」の分娩室でした。
タボラ州は、タンザニアで最もインフラ整備が遅れており、教育や健康の水準が低い場所。
そこでは、日本の病院とは全く違う、厳しい医療環境がマガフさんを待っていました。
「病院には、電気も水道も満足にそろっていませんでした。電気は太陽光発電でまかない、水は雨季(10~4月)に貯めた水でやりくりをして、何とかオペを回していました」
日本とタンザニアのギャップに、マガフさんはとまどったと言います。
「必要な物品も全く足らないため、日常的なケアはおろか、救急時の蘇生さえうまくいきませんでした。
例えば、マラリアになり、重症貧血に陥った赤ちゃんが5人いても、投与できる輸血パックの数は1つしかなく、『それを誰にあげるのか』を選ばなきゃいけない。毎日が過酷な選択の連続。『1つ1つの命を、自分に選ぶ権利があるのか・・・』、そんな葛藤が続きました」
もともと分娩介助がしたくて助産師になったマガフさん。タンザニアでも、安全な分娩のお手伝いをすることが、ミッションだと考えていたそう。
しかし、分娩室で亡くなるたくさんの妊婦さんや赤ちゃんを目前にして、助けることができない自分に、やるせなさと、もどかしさを感じるようになりました。
妊婦健診で救える命がある
もがく日々のなかで、マガフさんは、ある妊婦さんと出会いました。
「17歳の妊婦さんでした。彼女が病院にやってきたとき、ひどい高血圧で、意識もほとんどなくて。妊婦健診も受けていないから、血圧コントロールはおろか、妊娠何週目かもわからない状態。
『この大きさだと30週ぐらいかな?』と推測するしかなくて。でも、推測できたとしても、もう手遅れで・・・」
すぐに帝王切開をしましたが、赤ちゃんを助けることはできず、母親も追いかけるように息を引き取りました。その17歳の妊婦さんのことが、今でも忘れられないと言います。
「本当に悔しかったです。早い段階で妊婦健診をしていれば助かる命でした。だけど、彼女のおかげで気づけたことがありました。
妊婦健診を徹底すれば、妊産婦死亡も、母子感染のリスクも減らせる・・・タンザニアの妊婦さんと赤ちゃんを救うためには、分娩室で待っているだけじゃダメだと思ったんです」
マガフさんは、分娩介助ではなく、妊婦健診活動に注力を入れることを決意し、次の赴任先「イプリ保健センター」へ向かいました。
【第2回に続く】妊産婦死亡阻止ための2つの活動
【看護roo!編集部】
【目次】
(1)妊産婦を救えない厳しい現実
【マガフ範子(なおこ)さん】
助産師。大学卒業後、3年半の病院での臨床経験、さらに大学院での2年間を経て、JOCS(日本キリスト教海外医療協力会)に入職。2007年9月から海外派遣ナースとして、アフリカ大陸にあるタンザニア・タボラ州にあるイプリ保健センターに赴任。妊産婦死亡率を下げるために、妊産婦への検診活動や産褥ケアなどの母子保健活動を行った。約3年間の任期を終え、2010年11月に帰国し、JOCSを退職。その後結婚をし、現在はボツアナ共和国在住で、2児の母。
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