基礎教育4年制化の必要性 地域・在宅看護を視野に入れた教育へ|日本看護サミット2017
2017年6月6日(火)、日本看護サミット2017が開催されました。テーマは「地域包括ケア時代の看護基礎教育」。プログラム全体を通して、看護基礎教育の4年制化に向けた議論が交わされました。
ここでは、プログラムのなかから鼎談「看護教育の将来と看護への期待」と講演「看護教育におけるこれからの政策課題」の要旨を紹介します。
【目次】
生活モデルへの転換と、2035年、2045年を見すえた教育を
鼎談で登壇した、公益社団法人日本看護協会副会長(当時)の真田弘美氏(写真左)、昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子氏(写真中央)、参議院議員の石田昌宏氏(写真右)
看護基礎教育4年制化が求められる理由とは
冒頭、真田氏は、日本看護協会が看護基礎教育4年制を推進する3つの理由について説明しました。
「治す」から「支える」に医療が変化する中で求められる看護師の力
現在、日本は少子超高齢化によって、医療は「治す」から「支える」に大きく変化しています。看護師には、患者さんの生活モデルのなかで力を発揮することが求められており、そのための教育が必要になるというのが、看護基礎教育4年制化を求める一つ目の理由です。
期待される力とは、具体的には、一人の看護師として意思決定する力、オートノミー(自律)、管理能力、成熟さ、コミュニケーションなどの「リーダーシップ」です。「地域・在宅に向けてこれらの教育が重要になっているものの、まだ基礎教育では充実しているとはいえない」と真田氏は説明しました。
テクノロジーの発展により「看護」の役割が変わる?
理由の1つめにもあった「支える」医療の目標は、人々が最後まで在宅で暮らせることです。真田氏は、そのときに求められるのは「最後まで痛くないこと、苦しくないこと」だと説明しました。
では、看護師の役割拡大によって実現した現在の38項目の特定行為は、目覚ましいテクノロジーの進歩のなか、どのようになっていくのでしょうか?
たとえば、褥瘡のデブリードメントは特定行為に含まれていますが、テクノロジーが進歩し、出血しないデブリードメントが可能になりつつあります。そうなると、これまでは当たり前でなかった診療の補助行為が一般化していくことになります。真田氏は、このような変化が起こるなか、基礎教育でAI、ロボット、テクノロジーなどに関する基本的な知識を習得した人材が求められていると訴えました。
現状の基礎教育は院内での看護のため―地域・在宅を視野に入れた教育を!
真田氏は、現在の基礎看護教育のカリキュラムは、病院で看護ができるようになるための教育であり、これを地域・在宅を視野に入れた教育に変えていかなければならないと説明しました。
以上の3つの理由から、真田氏は、看護基礎教育の4年制化が必要であるとまとめました。
総合的な人間力を持った看護師の育成を
坂東眞理子氏は、長きにわたって女性の大学教育に携わってきた経験から、これからの看護基礎教育と専門教育について、次のように3つの提案をしました。
知識だけでなく、人間性を養うために、非認知的能力を身に付ける
坂東氏は、社会全体の価値観が多様化するなか、看護に限らず基礎教育では知識だけでなく人間性を培うための「非認知的能力」を身に付ける必要があるとして、以下の5つを挙げました。
1)仕事に役立つとは限らない広い分野の基礎的な教養
2)与えられた問題への正しい答えを出すのではなく、何が問題か、自分に何ができるかを考え、課題に気づく力
3)双方向の思いが伝わりあうコミュニケーション能力。相手の言いたいことを受け止め、理解する能力
4)やりぬく力。挫折したらそこから立ち上がる力
5)さまざまな経験を積んで、人間としての引き出しを多く持つこと
専門知識の習得と、継続的な学習習慣を身に付ける
続いて、前述の非認知的能力を基盤とした専門知識の習得が必要であり、プロフェッショナルとしての能力やスキルを可視化することの重要性を訴えました。
さらに、学校を卒業した後も、技術の進歩に対応するため、勉強する習慣を身に付け、生涯にわたって勉強していくことが大事であり、専門職としてキャリアを積む人、組織のリーダーになる人、少しペースを落として働く人など、いろいろな働き方を受け入れ、それを可能にするような教育体制が望まれるとしました。
また、リーダーシップ教育の重要性にも触れ、「命令する、ひっぱっていくことが強いリーダーシップだと思われがちですが、スタイルは変わり始めています。患者さんを支えるという目的のために、いろんな専門職が協力する体制をつくり、力を発揮しやすいようなマネジメントをすることが新しいリーダーシップです」と説明しました。
地域包括ケア時代に求められる看護師の力
看護師は、地域に出たら、組織的に動く病院とは異なり、個々が主になって対応しなければなりません。患者の変化にしっかり対応するための信頼関係を築くことや、「この人になら任せられる」と思ってもらえるような人間性が求められます。
坂東氏は、「人間として人間を支えること、病む人に共感すること、心のコミュニケーションは人間でなければできないことです。総合的な人間力を持った看護師に育ってほしいと思います」と期待を述べ、話を締めくくりました。
生活モデルへの転換と、2035年、2045年を見すえた教育を
石田昌宏氏は、2015年6月に日本看護協会が出した「2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン~いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護~」に触れ、「この将来ビジョンが掲げている『生活を重視する保健医療福祉への転換』は非常に大きな視点であり、これを成し遂げるには私たち看護師の覚悟が必要になる」と訴えました。
医療モデルが治療から生活中心に変わると、治すことは目的ではなく手段になり、それによって人々が幸せな生活を取り戻すことが目的になります。石田氏は、「それをもっとも実感する看護師こそがリーダーシップを発揮するべきで、そのための教育が重要になる」としました。
次に、領域別の将来を俯瞰し、次のようにまとめました。
「急性期は技術進歩のスピードに教育のスピードも合わせるべきで、そのためには教育機関だけでなく、病院や施設も一緒になって4年制の基礎教育、卒後教育、ラダーや特定行為の研修などを全体として体系付けて考えていくことが必要。
慢性期は、『生活モデル』が重視されることでいっそう重要になる。急性期病院からの退院を喜ばしいものにするには、慢性期・在宅の充実が不可欠である。一人ひとりに合わせた生活の支援という観点から考えると、自宅と同じような施設の環境をつくれる可能性もあり、看護師のチャレンジに期待したい」
さらに、基礎教育については、以下のように訴えました。
「基礎教育は、今教育を受けている20歳前後の若者たちがリーダーシップを発揮する20年、30年先を展望して考えることが必要。2035年には高齢者数は減少し、看護師数は200万人超くらいになる。そうなると、『看護職が増えれば良い看護ができる』という考えに依存するのではなく、今の人数でどれだけ良い看護ができるかを追求する視点が重要になる。そのためには、教育においても量だけでなく質を追求していかなければならない。
2045年は人工知能やテクノロジーが発達し、人間の力より機械の力が勝ってくる時代になる。今の子どもたちは、そのような時代に、看護師は何をするのかという課題に直面することになるため、それに対応する力をつけられるように基礎教育を変える必要がある」
最後に、石田氏は「将来を見すえて必要な力とは、やはり人間力です。基礎教育の4年制化と質の向上を進めるのと同時に、先輩の皆さんにはぜひ看護を語ってほしいと思います。看護を語るときの熱や思いが後輩の人間力を育てる重要なエネルギーになります」と会場に語りかけ、「人工知能や機械との共存によって、私たちが思っていた『やりたい看護』が実現するかもしれません。私もそこを目指して政策的な支援をしていきます」と締めくくりました。
基礎教育4年制化への第一歩を
講演「看護教育におけるこれからの政策課題」では、公益社団法人日本看護協会会長(当時)の坂本すが氏が登壇しました。
これまで、長い間、議論され、またこの「看護サミット2017」のなかでも再三言われた4年制化に向けた課題や問題について、坂本氏は、現場での苦労をねぎらい、あらゆる関係者が一堂に会して看護基礎教育を語るこの看護サミットは歴史的な第一歩であると訴えました。その上で、「看護基礎教育を何とかしなければ、と語るのは今日で終わりです。これからは4年制に向けた第一歩を踏み出すときです」と強調しました。
これまで、看護は社会のニーズに応え、量的にも質的にも拡大してきました。基礎教育のカリキュラムは、平成元年以降、「老年看護学」「精神看護学」「在宅看護論」「看護の統合と実践」が新設されてきましたし、養成機関の定員も増加しています。また、診療報酬や施設基準での評価の拡大、専門看護師・認定看護師の創設と拡大がなされ、さらに特定行為にかかる研修制度では特定行為の定義のなかに「看護師の判断力」という文言が明記されました。
2025年に向けて、患者像が大きく変わるなか、これからも看護が社会のニーズに応えるためには、主体的に考えて行動する能力を育てるためのさらなる教育の拡充が必要になります。しかし、前述のとおり、科目数は増えたものの、総時間数は増えておらず、すでにめいっぱいの状態です(図)。このため、看護基礎教育の期間を4年にすることが求められるのです。
図専門科目数の増加と教育時間数の不足
日本看護協会の資料より編集部作成
そして、これから求められる教育について、坂本氏は次のように説明しました。
「看護師は、関係性で成り立つ職業であるため、ケアを提供する側、される側が信頼関係を築けるような教育が必要であり、それを行うのが実習です。実習ではリアルな状況に身を置く経験をしながら、自分で考えていける力を養っていきます。
人同士のかかわりのなかから、相手の生きようとする力を引き出すためには、技術や知識のみならず、相手の言葉の背景を読みながらかかわることが大切です。そのような力を学校で培っていくことが必要です」
さらに、政策実現に向けた戦略について、看護基礎教育が4年制になった場合でも、看護師の供給に影響が出ないよう、スライド的に移行すること、看護師養成にかかる教育費については、関係機関での教室の共有や基金などによる財政措置を考えていることに加え、地方自治体や医療法人の補助金の活用をPRしていくと説明しました。
最後に、「看護の質を向上することに反対する人はいません。後輩の看護の質向上について、身内で反対する人はいませんね」と繰り返し、「反対がなければ、実行に向けて舵を切りましょう。看護職164万人の知恵を集めればこわいものはありません。『後輩の看護師の教育をどうしなさい』とは誰も言ってくれません。私たちが言うことです」と訴え、「GOOD JOB!」と力強く締めくくりました。
【看護roo!編集部】
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