「風邪薬が欲しくて」救急要請!?-救急車の適正利用で医療者らが本音トーク
「こんなに軽症なのに、どうして救急車で来たの?」-。皆さんの施設で、そんなふうに思う患者さんが来院されたことはありませんか? ご存じのとおり、全国の救急車による出動件数は増加の一途をたどり、2015年には600万件を超え、605万4,815件となりました。これまでにも、救急車の適正利用については、有料化も含め、さまざまな議論がなされています。
今回、「第20回日本臨床救急医学会・学術集会」では、事前に参加者の医師や看護師らに実施したアンケート調査を基に、軽症者の救急車の利用についてフリートークが行われました。「『交通事故=救急搬送』と一律に考えないでほしい」「このままでは救急医療が破綻する」など、さまざまな意見が飛び交いました。
フリートークのパネリストら
【目次】
医師より看護師の方が、救急車の必要がない患者さんが多いと感じている
アンケートから見る、「本当に救急車が必要?」と思われる患者さんの例
1)救急車で来院すれば優先的に診てもらえると考えた、風邪薬が欲しい患者さんの例
3)食欲がなくて起き上がれず、家族が病院に連れていけない患者さんの例
4)かかりつけ医から「何かあったら救急車を呼べ」と言われていて、本当に呼んだ患者さんの例
医師より看護師の方が、救急車の必要がない患者さんが多いと感じている
アンケートは、同学術集会の事前登録を行った医療従事者を対象に行われました。設問は(1)日常業務で経験する救急車による搬送で、必要性が低いと感じる事例の割合とその理由(500)、(2)具体的な事例(361)、(3)救急医療制度に対する意見や提案(171)-の3つです〈回答数は571で、( )内は有効回答数〉。
救急車による搬送の必要性が低いと感じる事例の割合は、医師が3割ほどであるのに対し、看護師は5割ほど(中央値)。つまり、看護師の方が、より「救急車で来院する必要性が低い患者さんが多い」と感じているという結果でした。また、医療機関別では、二次救急の医療機関で必要性が低い患者さんが多いと感じている割合が高い傾向が見られたといいます。
ちなみに、必要性が低いのに救急車を呼ぶ理由としては、「自分では緊急度が判断できないため」が最も多い結果でした。
アンケートから見る、「本当に救急車が必要?」と思われる患者さんの例
フリートークではアンケートで寄せられた具体的なケースが幾つか紹介され、それぞれ意見が交わされました。
1)救急車で来院すれば優先的に診てもらえると考えた、風邪薬が欲しい患者さんの例
会場からは「明らかに不適切」や「まれにあるケース」との声もありましたが、同学術集会会長の坂本哲也氏(帝京大学)は、「歩いてだったらよいのか。そもそも(こういう患者さんが)夜間に受診するのはどうか」と述べ、このケースのような軽症者が、重症者の治療が優先されるべき救命救急センターを受診すること自体どうなのかと問題提起しました。
一方、鈴川正之氏(自治医科大学)は、「地方だと病院の数が少ないので、二次救急がいっぱいだと言われたら行く場所がない。そのため、こうしたこともあり得る」と述べ、制度を含めて解決策を考えていく必要性を訴えました。
2)周りから説得されて救急要請をした交通事故の患者さんの例
会場の医師からは、「警察も『交通事故の負傷者は救急車に乗るもの』と思い込んでいます。そこを変えなければならない」とし、警察に働きかけることで不要な交通事故による傷病者の救急搬送を減らせるのではないかとする意見が出ました。
別の医師も、「現場検証で1時間くらい経ってから救急要請がある」と述べ、1時間も耐えられる状態であれば、明らかに緊急性は低いとし、交通事故の傷病者が一律に救急搬送される実態を問題視しました。
一方で、会場からは、「重症者であるにもかかわらず、警察官が救急車に乗り込んできて、なかなか出発できなかったケースもある」という声も聞かれました。それに対し、鈴川氏は、茨城県の一部の地域では、イエローカードとレッドカードを作り、すぐに搬送しなければならないケースには警察にレッドカードを見せるという方法を紹介し、警察と消防、医療機関とで話し合いを行い、事前に取り決めをしておくことも一つの方法だとしました。
3)食欲がなくて起き上がれず、家族が病院に連れていけない患者さんの例
この例では、救急車に代わる搬送手段などについて話し合われました。
会場からは、緊急性が低い場合には民間救急車や介護タクシーの利用が考えられるものの、まだ十分に広まっているとは言えず、代替手段がなければ救急車を利用せざるを得ない状況もあるという意見が聞かれました。石原哲氏(東京曳舟病院)は、病院救急車は補助金がないと運用が難しく、介護タクシーは運転手が介護福祉士などの資格を持っていないと体に触ることができず、家の中にも入れないなど、救急車以外の搬送手段については、さまざまな難しい問題があると指摘しました。
一方、坂上祐樹氏(厚生労働省医政局地域医療計画課救急・周産期医療等対策室)は、搬送の必要がない患者さんであれば、介護福祉士などが行くことで対応可能な場合もあるとし、搬送以外の手段で解決できる可能性を示唆しました。それに対し、石原氏は、「高齢でも介護サービスの認定を受けていない人もいる」と指摘し、こうしたケースでは、地域の中でどう対応するかの方向性を示してもらう必要があると訴えました。
4)かかりつけ医から「何かあったら救急車を呼べ」と言われていて、本当に呼んだ患者さんの例
この患者さんは、病気に対する不安があり、かかりつけ医と連絡が取れなかったから救急要請をしたとのことです。こうした、緊急度を自分で判断できない患者さんには、野村政樹氏(消防庁救急企画室)が、現在4都府県、3市町村で導入されている救急車を呼ぶか判断に迷った場合の電話相談に応じる救急相談センター「#7119」や、消防庁が開発した全国版救急受診アプリ「Q助(きゅーすけ)」などの利用を患者さんに案内することを提案しました。
介護との連携強化や救急車の有料化などの話も
アンケートに寄せられた意見を紹介する場面では、「高齢者施設で、かかりつけ医や嘱託医の責任範囲が明確でなく、安易に救急搬送される」「救急車有料制の導入が必要」「診察の結果、非救急・軽症と認められた場合は何千円かを課金する制度があれば効果的」などの意見が発表されました。
高齢者施設のかかりつけ医や嘱託医の責任が不明瞭な件については、石原氏が、「ヘルパーを対象にした急変対応の研修や、地域にまだ溶け込んでいない新しい高齢者施設との連携会議の開催などが、不要な救急搬送を減らすのに有用ではないか」との考えを示しました。
救急車の有料化については、「自治体だけでは実現は難しい」とする意見や、「救急車内で徴収するのは難しい」とする意見などがあり、坂本氏は「実施が難しいことと、それが適切かどうかの議論がまだ必要だということだろう」と述べ、今後、議論が活発になることを期待しました。
最後に、坂本氏は、これまでの議論を総括し、「現場の生の声を伝えていかなければ」と力強く語り、社会を変えるために声を上げていく必要があると参加者らに訴えました。
看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
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