1人でも多くの方に、旅の幸せを | ペンション経営ナースライフ【5】

現役ナースがペンション経営!?

「健康に不安がある人にも旅行を楽しんでもらいたい」そんな想いをカタチにしたナースマン・桐木智一が、ペンション経営ナースライフをお届けします。


 

第5回:一人でも多くの方に、旅の幸せを

 

いよいよ今回は最終回。ペンション「和みの風」のこれからについてお話しします。

 

「旅」だからこその、接し方の難しさ

旅行という特殊な状況下にあるお客さんと、どのように接するべきか。この点についてはまだまだ課題を感じています。

私たちの介入を必要とされているお客さんもいれば、そうではない方もいらっしゃいます。「どこまで踏み込むべきか」の判断が難しいのです。

 

私たちの接し方がお客さんの満足につながった事例と、懸念の残った事例をご紹介します。

 

あるとき、3人の女性客が宿泊されました。1人は車いすを利用する脳性麻痺の女性。他の2人は、その方と何度も一緒に旅行をしているボランティアの方と、以前ヘルパーとしてその方の自宅を訪問していた方です。

予約時には私の妻が入浴介助をすることになっていましたが、急遽予定を変更されました。

 

「いいよね、女同士だもん。一緒に入っちゃおう」

3人での楽しい入浴は、介護する側・される側ではありませんでした。友人として一緒に旅行を楽しんでいらっしゃって、皆さん満足のようでした。

私たちによる入浴介助では、このような素晴らしい時間を持つことは難しかったことでしょう。

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浴槽内にリフトを設置することができるほか、浴室用の椅子も用意しています

 

上記の例とは逆に、お客さんへの配慮が裏目に出てしまったケースもあります。

 

麻痺となり施設にご入居中の方が、3人の娘さんと一緒に宿泊されたときのことです。娘さんたちは、「母親にも旅行をさせたい」と4人での旅行を計画されました。

 

入浴介助の依頼があったので妻が介助に入り、娘さんたちは見学していました。お母さんがリフトで浴槽に浸かった後、妻は「ご家族の時間を大切にしたい」と浴室から出ました。しかし、間もなく娘さんから声がかかり、再び介助をすることになりました。お母さんは普段、臥床したまま入浴しているため、久しぶりの坐位での入浴が不安だったそうで、娘さんたちはどうしたらよいのか分からず、近寄れないようでした。

  

他にも排泄、体位調整などで娘さんたちは四苦八苦され、所々で私たちが介入しました。

  

皆さん、「旅行できた」という満足感は得られた様ですが、リラックスできたかというと疑問が残ります。お母さんも娘さんたちもお互いに疲れたのではないでしょうか。

 

病院や在宅では、入浴などのさまざまな場面において看護師が介入します。しかし、治療とも日常生活とも異なる、旅行という「非日常」の中では、「私たちがどう接すれば満足につながるだろう」と常に考えさせられます。中には、病気や障害について旅行中に聞かれること自体、違和感を覚える方もいることでしょう。

 

いかにお客さんの気持ちを汲み取り、接していくか。今後の課題の1つです。

 

少しずつ行動範囲を広げて、「幸せな旅行」を

要介護者の方の旅行に関するある調査(※)によると、介護者のうち「旅行することは要介護者の心身のためになる」と思う人は全体の77%、「要介護の親を旅行に連れて行くことは孝行になる」と思う人は72%にのぼっています。多くの介護者が、要介護者と一緒に旅行をしたいと希望しているのです。

 

しかしその一方で、「要介護者が旅行するための設備やサービスは不足している」と思う人が85.8%という結果になっています。

 

実際、要介護者の旅行環境はまだまだ十分ではないため、先述の例のように施設からいきなりの宿泊旅行だと、本人・家族ともに疲れて「もう旅行はこりごり・・・」となりかねません。せっかくの旅行が最初で最後の旅行になり、「冥土の土産」になってしまうのはあまりにも残念です

 

 

医療者とケア方法についてよく相談し、数時間の外出や自宅への外泊から始めて、少しずつ行動範囲を広げた上で「幸せな旅行」をしていただきたいと思っています。

 

 

※『要介護者の旅行に関する調査

「要介護の親を旅行に連れて行くことは親孝行になる」と思う人は72%。要介護者との旅行の最大の不安は「宿泊先で入浴すること」。(第一生命経済研究所、2012年6月)

 

宿の課題と今後の取り組み

オープンして5年経った「和みの風」ですが、まだまだ「できていないこと」や「やりたいこと」が山積みです。

 

「和みの風」の知名度はまだ低いため、「もっと宣伝に力を入れなくては」と思っています。

 

 

また現在、日中に私たちが不在になることや食事の関係から、お客さんに連泊してもらうのが難しい状況です。いずれはキッチンを備えた離れを造り、長期宿泊を希望される方にも対応できるよう整備したいところです。

 

訪問看護を希望される方や末期がんの方にも、旅行という素晴らしい時間を提供するため、これからもよりよい宿づくりを進めていきたいと思います。

 

5回にわたり、私の想いを連ねてきました。興味のある方は是非、ホームページを覗いてみてください。宿ブログ「和みの風日記」も書いています。宿と訪問看護の両立は大変ですが、私たちの宿を通して一人でも多くの方が、旅の幸せを感じて元気になれるよう、頑張って続けていきたいと思います。

 

お付き合いいただきましてありがとうございました。

 

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看護師夫婦と、やんちゃな子どもたち。そしてロバ。家族みんなでお待ちしています

 


■執筆者プロフィール

名前:桐木智一

経歴:外科病棟・緩和ケア病棟に勤務後、訪問看護に転身。さらにそののち、バリアフリーの宿「和みの風」をオープン。訪問看護の仕事でケアにも携わりつつ、宿の経営を続けている。

和みの風HP:http://www9.plala.or.jp/nagominokaze/

和みの風日記:http://nagominokaze.at.webry.info/


【ペンション経営ナースライフ|連載記事】

【1】「看護婦さんが一緒だったら、旅行するのになぁ。」

【2】開業へひた走った5年間

【3】「看護師ならではの宿」とは? 

【4】「宿のオーナー」と「訪問看護」の二足のわらじ

【5】1人でも多くの方に、旅の幸せを

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