意思を伝えられない重症患者さんの「苦痛」をどう取り除くか? 症状緩和ケアはナースの腕の見せ所

鎮静をかけられ、人工呼吸管理が行われているような重症患者さんは、思うように意思を伝えることはできない。それでも、「なんとか患者さんの意思を汲み取れないか」「患者さんの苦痛をどうにか取り除けないか」とケアを行っている看護師の方も多いのではないだろうか。「第44回日本集中治療医学会学術集会 シンポジウム9 重症患者の症状緩和ケア」では、意思を伝えづらい、伝えることができない重症患者さんに対し、看護師として何ができるかについて、4人の演者が発表した。その一部をレポートする。

 


津田泰伸_高田弥寿子_櫻本秀明_伊藤真理

右から、発表者の津田氏、櫻本氏、高田弥寿子氏(国立循環器病研究センター)、伊藤氏

 

患者さんの「苦痛」をどう汲み取るか?
医療者が行う口腔ケアは「VAP予防のため」、患者さんが望むケアは「口渇感・ドライマウスの緩和」
ICU退室後、患者さんから話を聞いて学ぶ機会を

 

患者さんの「苦痛」をどう汲み取るか?

まず、「重症患者さんに対して、ナースとして何ができるでしょうか?」と会場に問いかけたのは、津田泰伸氏(聖マリアンナ医科大学病院)。津田氏は、患者の苦痛をどのようにアセスメントするかを中心に話をした。

 

一口に「苦痛」と言っても、さまざまなものがある。津田氏はICUの患者さんから聞かれる苦痛として、「会話ができない」「(気管挿管により)のどが痛い」「同じ体位のため、背中が痛い」「さみしい」「不安で眠れない」などを挙げた。そして、「苦痛には身体的なもの、精神的なものがある。多面的に評価することが必要」だと話した。

 

また、現在、患者さんの苦痛の評価には、NRSやFPSなど、さまざまな疼痛アセスメントツールが使用されている。津田氏はそれらの指標を一覧にしたスライドを示し、それぞれがどのような指標で評価しているかを説明した(表1)。

 

表1さまざまな疼痛アセスメントツールと評価している指標

疼痛アセスメントツール

発表者スライドより編集部作成

 

苦痛は主観的なもののため、基本的には自己報告を指標にしたツールが使用されるが、自分の意思を伝えられない重症患者さんには、生理的・行動的指標により推測するツールが使用されていると津田氏は述べる。そして、「しかしながら、その妥当性の判断は難しい場合がある」と指摘し、苦痛緩和に対してのエビデンスの構築と、患者さんの苦痛緩和にナースとしてどう対応するか、対応できるのかという教育が必要だと話して発表を終えた。

 

医療者が行う口腔ケアは「VAP予防のため」、患者さんが望むケアは「口渇感・ドライマウスの緩和」

人工呼吸器管理中の患者さんが何を苦痛に思っているか、医療職者はそれをきちんと理解してケアを行っているかを、データを交えて説明したのは、櫻本秀明氏(筑波大学附属病院)。

 

人工呼吸器管理中の患者さんへのケアと言えば、VAP予防のために行われる口腔ケアがすぐに思い浮かぶが、櫻本氏によると、口腔ケアのエビデンスは不明であり、「口腔ケアで行うブラッシングがVAP予防に効果的だという明確なデータはない」と言う。

 

櫻本氏が示した、過去の研究論文のデータによると、人工呼吸器管理中の患者さんは、人工呼吸器装着の不快感とともに、のどの渇きを訴えることが多いことがわかる。また、別の研究論文では、「人工呼吸器を抜管した後の患者さんの口腔内粘膜が傷ついている場合が多い」という結果も出ており、入院直後は正常だった患者さんの口腔内粘膜が、1週間、2週間経つごとに何らかの問題を持つようになっているのが伺えた。
櫻本氏は、「口腔ケアを嫌がる患者さんも多いが、こういったことが、その理由の一つではないだろうか」と推察し、口渇感やドライマウスを緩和する方法として、以下の方法を紹介した(図1)。

 

図1口渇感やドライマウスを緩和する方法

口渇感軽減_ドライマウス緩和

発表者スライドより編集部作成

 

さらに、この方法により、口渇感の強さや辛さを訴える患者が有意に減っているというデータも示し、「氷水やスワッピングで、患者さんの口渇感やドライマウスのつらさを軽減することができます」と話す。

 

櫻本氏は、「VAPの予防も大切だが、患者さんは、口渇感、ドライマウスの緩和や口腔内炎症や疼痛の改善、口臭対策や見た目(残数)の保存などを望んでいると考えられます。ケアを多面的に捉えて、患者さんの症状緩和について目を向けてほしい」と述べて発表を終えた。

 

 

ICU退室後、患者さんから話を聞いて学ぶ機会を

各発表者による発表後は、フロアとの質疑応答が行われた。

 

座長の茂呂悦子氏(自治医科大学附属病院)、稲垣規子氏(摂南大学)からは、「緩和ケアと聞くと、終末期を想像しがちだが、終末期だけではなく、あらゆる領域で必要なことだ」という意見が聞かれると、発表者たちからも、「『緩和ケア』と聞くと、終末期だけだと思っている医師は多い」「医師は、『鎮静したほうが(患者さんは)楽だろう』と思うが、患者さんは、『鎮静している時に、せん妄が起こるからこわい』」といった意見が聞かれるた。

 

また、フロアから「重症患者さんの意思をどう汲むか、具体的な方法があれば教えてほしい」という要望について、「最初の1文字を文字盤を使ったり、患者さんに書いてもらったりして、その文字をご家族に伝えると、それだけで分かることもある」という経験を話す発表者もいた。

 

最後に、がん緩和ケア領域の事例から、患者さんが求める「緩和ケア」とはどういうものかについて話をした伊藤真理氏(岡山大学病院)は、「がん領域では、『がんサバイバー』というように、がん患者さんから学ぶ会がある。難しいかもしれないが、ICUなどの重症患者さんからも、ICU退室後に、話を聞いて学んでいける機会を作っていければいいのでは」話し、シンポジウムを終了した。

【看護roo!編集部】

 

 

2017年3月9日(木)~11日(土)
第44回 日本集中治療医学会学術集会

【会場】

ロイトン札幌

さっぽろ芸文館

札幌市教育文化会館

札幌プリンスホテル(国際感パミール)

【会長】

丸藤 哲(北海道大学) 
 

【学会HP】

一般社団法人 日本集中治療医学会

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