高齢者施設で働く人々~職員間で起こりがちなトラブル|知らずには働けない?施設看護のリアル【6】

これまで数回に渡って、病院と施設での看護師の仕事の違いをお伝えしてきました。
今回は施設で働いている人々と、施設ならではの職員間のトラブルについてお届けします。

 

高齢者施設では様々な価値観の職員が働いている

病院では、医師・看護師をはじめ働く多くの人が何らかの国家資格をもっているのに対し、高齢者施設では様々な人が様々な価値観をもって働いています。

 

病院が、医師をトップにした直線指示型の関係性であるのに対して、施設では職種間の立場は平等でチームとしてケアを行っています。

言葉を選ばずに言うと、高齢者施設ではそれぞれの職種が好き勝手なことを言い、だらだらと時が流れいくという印象があります(指示系統のハッキリした病院と比較すると、という話ですが。)

 

では、そこで生まれる人間関係・トラブルにはどんなものがあるのでしょうか?

各職種ごとにご紹介します。

 

 

【目次】

看護職:人数が少ないので、ウマが合えば◯、合わないと・・・

介護職:看護師との関係は、嫁と姑?

介護支援専門員・生活相談員・営業関係職

施設長:良好な関係を築くには配慮が必要

医師:施設看護では遠い存在

まとめ:多様な価値観を受け入れられるかどうか

 

看護職:人数が少ないので、ウマが合えば◯、合わないと・・・

高齢者施設で働く看護師は、野心は低めで経験は中程度、お金を稼ぐよりも自分の暮らしを大切にしたいと思っている人や、ブランクが長く病院で働くのに不安を感じて生活の場で仕事をしたいと思っている人が多いように思います。

 

年齢は様々で子育て中のママさんナースから、身体は元気な70代まで幅広く、総合病院ではめっきり減ってしまった准看護師もたくさん働いています。

 

「看護師は70歳まで働ける」とよく言われますが、それがどういうことなのかを実際に目にすることができます。

細かい処置などおぼつかないこともありますが、それ以上に年齢を重ねたからこそわかることもあり、入居者や家族にとって話をするだけで癒されることもあります。看護師は本当に生涯を通して活躍できると教えてくれるのです。

 

なお、看護師の人数は1施設につき数名なので、そりの合わない人がいると厄介なことになります。

 

例えば、糖尿病の入居者家族が「誕生日だからケーキを食べさせたい」と言った時。

「制限食を食べているから駄目だ。」とばっさり切り捨ててしまう看護師と、そんなことは分かっていて、それでも思い出を作りたいと思う家族の心を思いやり、「食べ過ぎないように」一言添えて許可する看護師がいます。 

どちらの看護師も入居者のことを思っているのですが、大事だと思うこと・判断基準が違い、お互いがそれを曲げないと、看護師同士がうまく連携できなくなってしまうのです。

 

その反面、同じ感覚を持った看護師同士だと、相談しながらとても楽しく働くことができます。

 

介護職:看護師との関係は、嫁と姑?

① 看護師と介護職は嫁と姑?

介護職の職員は看護職以上にバラエティー豊かです。

資格ひとつをとっても介護福祉士(国家資格)を持っている人から、まったく介護の勉強をしていない無資格の人までいます。中には介護職としてプライドを持ち看護職には負けないとライバル心むき出しのベテランさんもいます。

 

病院の中ですくすくと育った看護職は“医師から指示を受け、看護助手に指示を出す”ということはいたって普通のことです。

しかし、介護職は、看護助手ではないので、看護師の指示を「はい喜んで」と受け取ってくれるとは限りません。それどころか、こちらは普通にお願いしているつもりでも「威張っている」「指示的態度が気にいらない」と言われてしましまいます。

 

施設はあくまで介護職を中心として、入居者の生活のお世話をしています。だから、介護職が必要と思わない情報は、すべて小言になってしまい、トラブルを生む火種になりかねません。

看護師は介護職に対して指示を出すのではなく、「入居者の生活を良くするために入居者の状況を介護職に伝えながら共に考えていく。」といったスタンスで関わることがいいのではないかと思います。

 

介護職との関わりは、例えるなら、嫁と姑のようなものです。お互いに気を使い合わなければうまくいきません。

 

看護師に批判的な介護職は声が大きいので、目立ってしまい、すべての介護職がそうだと思ってしまうこともあります。

しかし冷静に考えると、看護師の立場を尊重して関わってくれる介護職もいます。そんな人は声が小さいので目立ちませんが、大多数はそうなのかも知れないと感じています。

 

② 看護師と介護士は業務が重なることが多い。まずは看護師として自信をもつこと

施設の入居者は、病気と障害を持っているので、介護職と看護師の仕事はかなり重複します。施設によって、介護職も看護師もなんでも同じようにかかわるところから、役割をはっきりと分け「看護師は介護業務をやらない」ことを求人のウリにしているところもあります。

 

私の印象では、同じことをやればやるほど職種間の垣根が低くなり連携が取れやすいように思います。

しかしそれも程度問題で、中には過剰に介護業務を手伝う看護師もいます。一見良いことのように感じられますが、そのせいで普通に業務を行っている看護師が「あの人はあまり手伝ってくれない」という評価を受け看護師同士の連携を保つのが難しくなったりします。

 

私自身も介護職の評価を気にしてしまうこともありますが、それを気にしていてもキリがありません。看護師の仕事がきちんとできているという自信が持てなければ、どうしても介護職の評価に振り回されてしまいがちです。

 

介護職に「いい看護師」と思ってもらうよりも看護師として自信を持って仕事をしていることが大切だと思うのです。

 

介護支援専門員・生活相談員・営業関係職

●介護支援専門員(ケアマネージャー)

介護支援専門員(ケアマネージャー)は、一人ひとりにあわせたケアプラン(介護サービスの利用計画書)の作成を行います。

 

サービスが適切に提供されているかなども定期的に見守る、いわば介護のコーディネーターです。しかし高齢者施設の中では提供されるサービスは限りがあるので個別的な援助をコーディネートするというより、よろず悩み相談所となり「何かトラブルがあったらケアマネに」とった格好になることが多いです。

 

またケアマネだからと言ってきちんとマネージメントできる人ばかりではなく、いろいろなごたごたに巻き込まれて終わってしまう人や、施設長以上の権限を持ち「ケアマネの指示だから」と言って日常の細かいことにまで指示を出す人もいます。

 

●生活相談員

生活相談員は、介護サービスの利用者本人・家族の相談にのりながら、連動する機関との連絡や調整、手続きを行います。

入居や施設利用、介護サービス開始時の相談や契約だけでなく、利用中の相談・サポートなど仕事は広範囲に及びます。

 

●営業関連職

最近では施設も増えてきて入居者獲得のための営業活動が必要になってきました。

先ほど紹介した生活相談員が営業を兼ねる場合もあります。

「頑張って営業してきたのだから入居させたい」という営業職の思いと、「こんな重症な人ここで見れないよ。」といった看護師の攻防が日々繰り広げられています。

 

施設長:良好な関係を築くには配慮が必要

施設長は、看護師にとって、施設を統括する上司で指示を出す立場です。一方で、医療に関しては、施設長が看護師からアドバイスをもらうこともある。そんな微妙な関係なので、良好な関係を作るためにはお互い配慮が必要になります。

 

例えば、施設長が看護師に向かって「ちゃんと入居者さんのこと看てるの?あの時受診すれば、入院しなくて済んだんじゃない?」などと過去を根拠なく、ほじくり返したときは関係が悪化することが多いのです。

 

看護師は、不測の事態も予測していろいろなことを判断しますが予言者ではないので思いのほか入居さんの体調が悪化することがあります。

質問している方は、軽い気持ちで聞いているだけかも知れませんが、言われた方は自分の仕事を全否定されたと感じてしまうのです。

そして看護師が「施設長は素人だから口出ししないでください」なんて言い出すと、もう止まりません。

 

話の本筋がどんどんずれて「看護師は上司の指示に従わない困った存在だ」なんて話になり、それぞれのプライドを傷つけられたと主張し始めそれにとらわれてしますのです。

 

また介護職を経験してきた施設長は介護職の立場から物事を考えたり判断したりしがちです。
「看護師にバカにされたくない」という気持ちを強く感じることもあるようです。

 

いずれにしろ、施設長が上司であることは変わりませんので、看護師としては、敬意をもって接することが必要だと思います。

 

医師:施設看護では遠い存在

高齢者施設では、多くの場合、医師は訪問という形で施設を訪れます。(ただし、老健の場合は、医師が常勤でいて施設長を務めます)

医師は、自ら希望して施設の高齢者を訪問している人から、病院の中で言われてしぶしぶ診ている人もいます。こちらが連絡した時に、訪問してくれるととても心強いのですが、中には入居者の状況も見ずに点滴の処方箋をFAXしてくる医師もいました。

 

施設と提携している医師しか来ない施設もあれば、入居者本人と契約するので何人もの医師が出入りする施設もあります。医師の感覚としては外来で患者を見ているといったイメージかもしれません。

当然、看護師と医師との関係は直接的なものではなくなります。医師からすると、施設の看護師は外来に付き添った家族のような立場です。

看護師はただ医師の指示を待つのではなく、自分なりの診立ても加味して報告します。信頼関係ができれば比較的看護師に任せてくれる医師が多いように思います。しかし、「看護師の意見や診立ては一切不要だ」と思っている医師ももちろんいるので、細心の注意が必要です。

 

まとめ:多様な価値観を受け入れられるかどうか

これまでお伝えしてきたように、施設では、いろいろな職種の人に囲まれて働くことになり、病院とは比べ物にもならないほどの多様な価値観を受け入れる柔軟性が求められます。

看護師の中には「こんな人たちと一緒に働きたくない。」といった捨て台詞を残して病院に戻って行く人もいました。

 

私もさまざまなトラブルに見舞われ、何もかも投げ出したくなることもあります。しかし逃げ出さずそこにとどまると「へえ~こんな価値観もあるんだ」と違いを楽しむ余裕さえ生まれるのです。

 

高齢者施設で働くためには、自分とは違う考えをまず受け入れ、そして自分の考えもしっかりと持つことが大切なのでは、と思います。

 

【春野すみれ】看護師・介護支援専門員。総合病院で6年勤務後、介護保険開始以降施設系在宅系さまざまな事業所で老年看護に特化して携わる。現在は高齢者施設に勤務するかたわら、研修講師なども務める。

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