ナースの被災地支援【4】岩手県野田村・地元の保健師として
この連載では、さまざまな形で支援活動を行っているナースにお話を伺い、元精神科ナースのイラストレーター・松鳥むうがご紹介します。
今回のナース:大上有子さん(野田村役場/保健師)
岩手県九戸郡野田村の役場に勤務する保健師。野田村は、岩手県北部沿岸に位置し、人口は約4,300人。今回の災害では、村の中心部が津波の被害を受けた。大上さんは、勤務16年目に今回の震災に遭い、震災直後から様々な活動を続けている。
「家に帰らなくてもいい」保健師としての自分になった瞬間
―震災当日は、村役場におられたのですか?
当日、私は研修で県内の山側の町にいたんです。研修は揺れの直後に中止になり各自帰路につきました。村の入口まで帰ると、そこから村に入れなくなっていて、役場に戻りたいと言っても消防団の人たちに「死にたかったら行け!」と怒られました。まさか、津波が村の中心部まで来ているとは思ってもいませんでした。村からは火災の煙もあがっていて、ただごとではないなと感じましたね。
―ご家族は野田村におられたのですか?
私の自宅は野田村ではなく、近くの沿岸沿いの村なんです。だから、山の方にある保育園に行っている次女以外はみんな流されたなと思いましたね。当日の夜は、自宅には帰れず、山側にある実家に帰りました。ラジオもパニック状態でしたので、今、何が起きているのかという情報収集をしたり、よく覚えてないのですが一睡もできなかったと思います。
家族と連絡が取れたのは震災4日後。家族も家も無事だということを知り、安心した瞬間、保健師としての私になりましたね。「もう、家に帰らなくてもいい」と思ったんです。それから本当にずっと出ずっぱりで、結局、自宅に帰ったのは震災9日目でした。
―保健師の仕事は、まず、何からはじめられたのですか?
同じ部署の保健師、Ns.、ヘルパーがバラバラのままだったので、まずは皆がどこにいるかの確認からでした。震災翌日は、怪我した方や津波でずぶ濡れになってしまった方が何人も役場に来られ、その対応に追われていましたね。役場も津波が押し寄せ、周りは流れて来たもので埋まってしまっていました。夜になって各避難所にいた役場の職員たちが少しずつ集まって来たので、同じ部署のメンバーの居場所などの情報が入って来ました。そこで、「いったん、役場に集合して、今後の計画を立てよう」と、各避難所に出向いて声をかけ、震災3日目にしてはじめて全員が集まりました。
各自が入っていた避難所の状況やDMATなどがいつ来てくれるなどの情報を共有し合い、まずは、村民の健康状態をチェックするために2人1組で各避難所を回ることにしました。
阪神・淡路大震災とは違う問題点
―当初は、どんな点が1番問題になっていましたか?
慢性疾患の薬がなかったことですね。みなさん、着の身着のままで避難されて来たので、血圧や糖尿病、心疾患など、慢性疾患の内服薬を持って逃げる間がなかったんです。薬を飲まずに過ごしている方が圧倒的に多く、しかも、薬の名前などもわからないので薬の形状や色、数などを聞いて回りました。
3日目には関西の日赤チームが来てくださったのですが、阪神・淡路大震災の時の状況をふまえて、外科的な薬や外科のDr.が多く派遣されていました。なので、慢性疾患の薬は数がなく、日赤の1チーム目が4日後に入る日赤2チーム目にその旨を申し送ってくださっていましたね。
―同じ「震災」でも被害の形は同じじゃないんですね・・・
当初、野田村には8箇所の避難所があり、手分けして健康チェックへ
「環境を整える」ことの大切さ
―問題点はその都度変わっていくと思うのですが、他にはどんなことがありましたか?
その後は、次第に生活面での訴えが増えていきました。「耳かきがしたい」「お風呂に入りたい」「下着を取り替えたい」「爪を切りたい」・・・中でも「眠れない」これが1番日を追うごとに増えました。集団の中での寝泊りで、しかも毛布2枚だけ。そんな状態で1週間すごしていましたので「まずは、布団の用意だ!」と、駆け回りました。物資の中には良い布団ばかりでなく汚れたものも混じっていましたので、良いものだけを集め、保健師メンバーで、リヤカーや車を使って、各避難所を何往復もしました。そして、次は「枕」なんです。枕って支援物資にはほとんどないのですが、眠るうえでとっても大事なんですよね。村の宿にご協力いただいて大量の枕を用意すると、村民の方々から「ずいぶん眠れるようになった」と言っていただきました。
まさに、ナイチンゲールの『看護覚え書』にある「環境を整える」!これが、本当に大事なんだと実感しました。
村全体を元気にしていく。それが保健師の役目
―村民の方の精神的問題へは、どのように対応されましたか?
まず、ローラー作戦で各家族を周りMAPを作りました。津波で家を失くした方、家はあるけれど避難所に避難している方など、被災の強度で色分けをしたMAPです。
震災1ヵ月後には、村外の保健師の協力も得て、1週間ぐらいでローラー作戦を行い、すべての情報を大きなMAPに色別で記載していきました。
震災当時はハネムーン期で元気だった方が震災半年後ぐらいから不眠の訴えが出てきた原因などもこのMAPを見るとよくわかるんです。そういった方はMAPでは当時、半壊の自宅の片付けを一生懸命していた方々でした。自宅におられた方々は、避難所生活の方々とは少し違い、他人に声をかけてもらったり、自分の気もちを聞いてもらったりということが、当時はあまりない状況でした。なので、時間が少し経った頃にそういう訴えが増えて来たことがMAPと重ねて見ることで明らかになって来たんです。
また、そういった方々への精神面へのケアも震災当初から念頭にありましたので、震災1ヵ月後には岩手医科大学の精神科Dr.やNs.の力もお借りして「こころの健康相談センター」を立ち上げました。これは、震災1年半経った今も週1回継続しています。それでも、今でも毎回、新規で来られる方もおられるんです。
―精神面のケアが必要だけれど、こころの健康相談センターに自ら来られない方もおられると思うのですが、そういった方々への対応はどのようにされてますか?
こちらから訪問したりもしますが、それにはやはり限りがあります。ですので、村人同士で、気づいて、声を掛け合って、気になった人がいたら保健師などにつないで頂き、その後も近くで見守ってもらう形へと進めています。
そういう存在を『ゲートキーパー』と言うのですが、その育成に、今、取り組んでいます。主には、震災前から村の保健福祉に関わってくださっていた方が講習に参加してくださって、現在17名のゲートキーパーがおられます。
近所付き合いの濃い地域だからこそ、良かれと思ってついつい「がんばれよ」と言ってしまったりすることがあるんですね。そういった場合の適切な声かけの方法などを講習会で行っています。
村全体が元気になるよう、村人全員の力を底上げしていくのが、保健師の役目だと感じています。
仮設住宅集会所でのサロン。ゲートキーパーも入り、お互いの心境、相談事など話せる環境づくりを行っている。
ふだんから温かい関わりを
―被災地へ行きたいけれど、自分に何ができるかわからないというNs.も多いと思うのですが、現地の大上さんから見て、何をしてもらったら助かるなどありますか?
ふだんからも、自分の周りにたいして、温かい関わりをしてください。被災地にいる時だけではなくて、遠くにいても近くにいても。
いつ誰が、何をきっかけに、誰にたいして、悩みを話せたり、メールで相談できたりするかわからないので。
私たちの力でフォローできなかった方々を、いつかフォローできるのは、これを読んでくださっている方かもしれませんから。
―ふだんからの関わりが、やはり、大切なのですね。
私の場合ですと、17年間、村民の方々と接して来たこともあるからか、今回の震災後も「保健師さん、今後どうしたらいいかな」と、相談して来てくださる方もおられます。また、ローラー作戦の時も、「○○さんは△△にいて、何をしている」など、皆さんが教えてくださったりしたので、MAP作りもスムーズに行え、早期に対処していくことができたと思います。ふだんからの関わりがあってこそだと改めて思いました。
―ふだんからの関わりで、誰しもが誰かのゲートキーパーになれるのかもしれない。それも、被災地支援のひとつなのですね。
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Vol.4 岩手県野田村・地元の保健師として―大上有子さん(野田村役場/保健師)
【松鳥むう】元精神科ナース。 精神科病棟に勤務後、イラストレーターに転身。旅・看護・保育系の雑誌を中心に活躍中。
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