ナースの被災地支援【3】キャンナスで「自分でできる範囲」の継続支援
この連載では、さまざまな形で支援活動を行っているナースにお話を伺い、元精神科ナースのイラストレーター・松鳥むうがご紹介します。
今回のナース:在間さとみさん(キャンナス)
祖父の死をきっかけに、某大学経済学部卒業後、看護師を志す。消化器外科に3年勤務。2011年6月より、キャンナスメンバーとして被災地にて活動。現在は、キャンナス湘南本部にて、訪問看護師として活動しながら、被災地へも出向いている。
「何かしたい!」その気持ちが募り、いざ、被災地へ
―被災地支援に参加されたきっかけは?
震災の前から(2011年)6月には勤務していた広島の病院を退職することを決めていたんです。そんな折、震災が起きました。被災地や被災者の方に対して、自分に何かできないかとずっと思っていた時、TVでキャンナスの被災地での活動が放送されているのを見て、直感的に「コレだ!」と思ったんです。それですぐに連絡をして、6月から現地に入りました。
―キャンナス災害ボランティアとして参加された当初は、どんな活動を?
私が担当した避難所は6月の時点で約350名ぐらいの被災者の方がおられました。前任者から1時間ほど申し送りを受け、すぐに活動スタートでした。
日中は同じ避難所に「看護協会」「キリスト教系の団体」「キャンナス」の3団体が入り、担当する被災者の方を決めて避難所内を周ります。
主には、血圧測定、お話を聞く、お薬の自己管理が困難な方のお薬の管理、生活面で困ったことはないかを聞いてその対策などをしたり。
地元の保健師さんや介護職の方と3団体合同のミーティングも毎朝晩行って、情報共有していましたね。
この時期は、夜間泊り込みで活動しているのは、3団体のうちキャンナスだけでした。
夜間は少しでも安心して就寝していただければと思い、できるだけ避難所の中を声かけしながら見回ったり、熱があったりして体調不良になっている方の対応などを介護スタッフの方達と協力しながら行なっていました。避難所の館長さんや、住民さん、一緒に活動していた介護福祉士さんからは『看護師がいるだけで安心する』と言ってくださっていました。
―どれくらいの期間、被災地に滞在されたのですか?
私は、1度行くと2週間~8週間滞在しました。それを、5回ほど繰り返し、被災地との関わりは約1年になりました。
滞在期間はスタッフによっていろいろです。各自の仕事の都合もあるので、週末だけの短期の方も多かったですよ。
避難所ではハエが大量発生。被災者の方と優れたハエ取り探しをするなど看護以外の活動も行ったそう
継続することで見えてくる問題と自らの変化
―長期間関わっておられると、被災者の方々のいろんな変化も感じられたのでは?
初めは、被災者の方に対してどう接すれば良いのかわからなくて…。そもそも、私は、震災当時、広島にいて、揺れもほとんど感じていないんです。だから、そんな私が、どこまでお話を聞いて良いものかと。
震災から半年経った頃には、自立と支援のバランスに関して悩みました。
ボランティアである自分たちは、いつか去って行く立場であって、その後、被災者の方が自分でやっていけるように考えながら関わらなければ、本当に意味のある援助ではなくなると感じたんです。
例えば、「服がほしい」という被災者の方がおられたとします。
その方は、家族がいて、その家族が働いていて収入源がある。そうすると、自分で服を購入することは可能だとアセスメントをし、服はお渡しせず、自分で購入してもらうようにします。
メンタル面でも、被災者の方がボランティアに依存する形ではなく、自立できる形へ。
被災者の方の希望する物が、その人にとって本当に必要な物かどうかを、1歩引いて考えるようにしました。
一時は、ボランティアとして自分自身がこの場に居ること自体、被災者の方にとって良いことかどうか悩みました。
避難していた珈琲屋さんがお店再開!新たなスタートの日を一緒に
―参加されたキャンナスとは、そもそもどんな団体になのですか?
キャンナスとは、できること(can)を、できる範囲で行うナース(nurse)という意味で、普段は、各地域のナースが、在宅ケアをしている家族の疲れを癒すために、一時的にケアを代替するという「レスパイトケア」を行っている訪問ボランティアナースの会です。全国に支部があり、メンバーは、ふだんは主婦をしていて空いた時間を使って活動をしたり、常勤で働いて仕事後や休日を使って活動しています。職種もナース、介護福祉士や理学療法士などさまざま。「自己決定ができ、自己責任がとれる人」なら、ブランクがあっても誰でも参加できます。
今回の震災では、キャンナスは3月の震災直後から、避難所に泊り込みでボランティア活動をはじめていましたね。
―「自己決定ができて、自己責任がとれる」が参加資格と言われると、一瞬ハードルが高く感じてしまうのですが…
被災地では「心身の異常時の発見は私がしないと!」と、いうプレッシャーは常にありました。疑問に思うことは、前任者に電話で確認をしたりもしました。
自己責任というのは「できない約束をしない」という事も含まれます。
例えば、被災者の方が希望される物を「用意できるようします」と言ったら、自分が用意して手渡すまでやる。できなければ、約束はしないということなんです。
今も続く、被災地での活動
―今現在は、現地でどのような活動をされているのですか?
ひとつは『お茶っこ』という、地域の方々が集まってお話ができる場所と時間を作る活動です。
仮設住宅の団地ごとに開き、1つの地域で月に1~2回行い21ヶ所を順に周っています。近頃は、ワカメ漁が再開し参加される方も減りましたが、仕事があるということは、喜ばしいことでもあります。
もうひとつは、地域の保健師さんから要フォロー者の方を教えてもらい、個別訪問する『ローラー』という活動をナース2名1組で行っています。
私は湘南本部での訪問看護をしつつ、時折、1週間ほど現地に入ったりします。私が今関わっている地域と、当初関わっていた避難所の地域が別なので、避難所で会った被災者の方に継続して関われていないのが少し残念なのですけれど。
もちろん、キャンナスとしてはもといた地域にも関わり続けていますよ。
お茶っこにて、被災者の方とアクリルタワシ作り
―滞在期間が短いか長いかで、ナースの活動内容は違うのですか?
同じです。お茶っこかローラーか、どちらかを行います。マッサージなど、自分の得意分野があれば、それを生かした活動を行うこともできます。「自分のできることを自分のできる範囲でやる」それが大事かなと。
―ボランティアに訪れる人数がが減っていると聞きますが・・・
そうなんです。現地スタッフからの報告ですと、最近ではボランティア0人の日もあるそうです。人数だけでなく、支援するスタッフの精神的な面も問題になってきています。だからこそ現地スタッフをサポートしてくれる短期のボランティアスタッフも今まで以上に重要になってきていると感じています。
―今からでも、キャンナス災害ボランティアに参加するコトはできるのですか?
もちろんです!長期ですと、被災地に行く度に「おかえり」と言って頂けたり、「長期でも短期でもボランティアに来てくれるだけでうれしい」と、言ってくださる被災者の方もおられます。
―「気持ちを行動に移す」これって、今からでも遅くないんですね!
キャンナスをきっかけに新しい人生をスタートする被災者の方も!
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【松鳥むう】元精神科ナース。 精神科病棟に勤務後、イラストレーターに転身。旅・看護・保育系の雑誌を中心に活躍中。
【取材協力】全国訪問ボランティアナースの会 キャンナス http://www.nurse.gr.jp/
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