小児科ナースが保育園を立ち上げ!末永美紀子さん(後編)|憧れナースに会ってきた!

-前編-

「看護師=子どもができたら辞めざるを得ない」を何とかしたいという想いから、自ら保育園を立ち上げた末永さん。

小児看護の経験と看護師ならではの発想を活かして、病気や障害の有無に関わらず一緒に育ち合える保育園を目指して運営を始めました。

 


末永美紀子さん

NPO法人こどもコミュニティケア代表。ナースオブザイヤー2012『インディペンデントナース賞』受賞。

大学卒業後、内科病棟・小児科病棟を経験し、出産を機に退職。2004年、1歳の子を抱えながら自宅を一部開放して「ちっちゃな保育所」をオープン、その後場所を移して「ちっちゃなこども園にじいろ」に。健康に不安が無い子も医療的ケアが必要な子も、共に育ち合える保育園として運営を続けている。 

 

保育界では異端児!?

最初は定員12名にスタッフ3名でスタートした保育園も、今では定員18名に加え一時保育の利用者が約10名、スタッフも12名にまで膨らんだ。

 

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噂を聞きつけて遠くから通園している親子もおり、入園するには待機状態が続いているとか。

利用者からは好意的な評価が寄せられる一方で、運営を軌道にのせるまでの道のりは生半可なものではなかったそう。

 

「一番苦労したのは、スタッフの意識統一ですね。」

 

保育園は家庭の代わりでありたい、という末永さんの理想をとことん形にした『にじいろ』は、ある意味で異例尽くしの保育園。

 

給食もおやつも保育士自らの手作り。お迎えが遅い子には夕飯や風呂も提供。0歳児から学童の子まで幅広い年齢の子を一緒に育てる縦割りクラス。関西ではまだ少数派のシュタイナー教育を理念としている点など、保育士にとっては、それまでに知っている環境との違いに戸惑いを見せるケースが少なくなかったとか。

 

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「保育のことを分かってない!ってよく言われましたね。

『夕飯や風呂はお母さんの仕事で、それを園が代わりにやるべきじゃない』と言うんです。お母さんを甘やかすべきじゃない、お母さんが子育てにしっかり関わらないと子どもがおかしくなる、という意見が内外から寄せられました。

 

でも私は、子どもの健康を考えたら、夕食も入浴も早いほうがいい。お母さんの帰りが遅いことで、そのシワ寄せが子どもにいくようなら、誰も安心して働けないと思ったんです。小児科で、それこそ24時間子どもを預かっていても、子どもたちがちゃんと育つ様子を見ていたので、保育園が親の代わりを務めることに疑問は感じませんでした。

 

それに、今の日本では、日・祝日とか夜間に働く人がいなかったら、病院もお店も介護も、とたんに困ってしまうでしょう?子育て世代は働き盛りの世代。子育てを支えることは、社会を支えることだと思うんです。」

 

看護師が保育にかかわる意味

スタッフとの意見の衝突も乗り越えながら、自分の理想とする保育環境を実現・維持しつづけてきた末永さん。これを叶えたのは、末永さんの熱意もさることながら『看護師がトップである』という事実も大きかったそう。

 

「一般の保育園で、そこの看護師が、医療的な配慮が必要な子も一緒に保育したいと思っても施設長や法人のトップが『何かあったら、あなた責任とれるの?』と看護師に言ったら、それを押し切るのは難しいですよね。おおかたの保育園では、看護師は1人しかいませんから、看護師数人でチームを組んで『私たち、やります!』とはできないですし。そういう意味で『やっぱりトップが看護師っていうのは大きな違いがある』って言われたことがありますね。」

 

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保育園を立ち上げて10年、振り返っていかがですか?

 

「うちは認可外保育園なので、税金からの補助がない分、財政的には常に苦しいですね(笑)

もう閉めようと思ったこともありました。補助が手厚い児童デイサービスに乗り換えようかと。

 

でもその時にスタッフから『医療的ケアの必要な子も健康上の不安の無い子も一緒に育ててるのがいいんじゃないですか。だからここで働いているんです。うちにしかできないことやっていきましょうよ。』と言われて。現場を見てきたスタッフからそんな意見が出てきたのは感慨深かったです。

 

それと市役所の保育担当の方に「にじいろは閉めないでほしい」って言われた時も嬉しかったですね。必要性を認めてもらえたんだ、やっとここまで来たか、と思いましたね。

 

だから大変だけど、少しでも多くの子を受け入れられるようにサービス内容や規模を拡充しながら続けていきたいですね。」

 

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「みんな一緒に育ちあおう」を広げたい。

今後は、保育園の拡充に加えて外部での活動にも力を入れたいと語る末永さん。

 

「うちの園だけだと定員もあるし、通ってもらえるエリアにも限界があるでしょう?

だから他の保育園でも病気や障害のある子の受入れが進んだらいいと思って。そのために講演をしたり、保育園まで直接出向いて一緒に保育環境づくりや計画づくりをお手伝いしたいんです。

 

それに障害を持つ子のお母さんと一緒に、コーディネーターのような形で保育園に同行して受け入れに向けて話し合ったり。

 

どこの保育園だって、みんな一緒に保育したいという想いはあると思うんですよ。ただ、何かあったらどうしよう、という不安があるだけで。

それに対して経験者の私が何かお手伝いができたらと思っています。」

 

看護師としてのスタンスがあらゆる場面で活きてくる

最後に看護師さんへのメッセージを聞くと、大切にしている座右の銘を教えてくれました。

 

『変えられるものを変える勇気を。

 変えられないものを受け入れる平穏を。

 その二つを見極める知恵を。』

 

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「看護の現場って“変えられないもの”の多さに圧倒されて、八方ふさがりのように感じることって多いですよね。患者さんが自分の病気を受け入れられない、ご家族も協力してくれない、症状が良くならない、スタッフ同士もうまくいかない…って。

 

確かに他人と過去は変えられません。でも、そうやって変えられないものを嘆くのではなく、自分が影響できること=自分が変えられるものに、集中して力を尽くすと、変えられないはずだったものが、変わってくることさえあるんです」

 

公私を通じて、たくさんの変えられないことに出会うことで、希望や期待を捨てずに現実を受け止めること、今できることに集中することを、少しずつ身につけてこられた、と振り返る末永さん。

 

「このスタンスは、看護現場に限らず他の仕事でも、また家庭でも役立つんですよね。だから、看護師さんにはまずは与えられた環境で全力を尽くしてほしいですね」

 

ご自身の4年間の臨床経験を振り返って「病棟には向いていなかった」という末永さん。

 

「夜勤もつらかったし、常に高い緊張感とスピードが要求される現場は私には厳しかったです。

でもそんな私にも子育てしながらの保育園運営ができたんです。

医療機関に限らず、保育・教育・福祉など看護師が必要とされている現場はたくさんあります。1人でも多くの看護師が、結婚や出産で自身のキャリアを諦めてしまわずに、細く長くでいいから何らかの形で看護の仕事を続けていって欲しいですね。」

 

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病気も しょうがいも わたしの一部

住んでいるまちの中で「〇〇病の子」じゃなく

「5歳の〇〇ちゃん」と呼ばれて

みんなといっしょに大きくなりたい

みんなが あたりまえに たすけあって

いきいきと暮らせるまちに

よりすこやかに成長できるまちに

「ちっちゃなこども園にじいろ」が、このまちの出発地点

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末永さんのこの理想を叶えたのは、看護師としての経験とあきらめない気持ちでした。

 

またひとつ新しい看護師の可能性を示してくれた末永さん、これからもご活躍を期待しています!

 


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