鎮痛・鎮静の指針開発し、過鎮静が激減|第18回日本救急看護学会学術集会【学会トピック】
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ICUで鎮痛・鎮静管理のプロトコルを独自に導入したら、看護師が統一した視点を持ち、十分な鎮痛を図った上での浅い鎮静管理を行えるようになった。
10月29日から30日にかけて千葉市で開催された第18回日本救急看護学会学術集会で、独立行政法人地域医療推進機構神戸中央病院(神戸市北区)集中治療室の佐藤裕美氏が発表した。
森下紀代美=医学ライター
「患者の状況をタイムリーに評価でき、十分な疼痛コントロールと浅い鎮静管理ができるようになった」と話す佐藤氏。
近年、適切な疼痛管理を行い、鎮静を必要最小限にすることで、鎮静薬の減量につながり、人工呼吸器装着期間やICU滞在日数が短縮し、患者のQOLを向上させることが報告されている。
同院のICUでは以前から、鎮痛の評価スケールにはBPS(behavioral pain scale、表情や身体の動きなどから痛みの程度を評価するスケール)、鎮静にはRASS(richmond agitation-sedation scale、鎮静の質と深さを-5~+4の10段階で評価するスケール)を用いて、医師や看護師が鎮痛・鎮静深度を客観的に評価してきた。
しかし、それぞれのスケールから得られた評価点数を集約する指標や治療指針がなかったため、評価者間で結果の解釈が統一されておらず、患者に予期しない体動や苦痛表情が出現すると、従来のように鎮静深度を深めて管理する状況が多く見られていた。
そこで佐藤氏らは、同院の麻酔科医と共に鎮静・鎮痛プロトコルを作成し、看護師らが統一した視点でアセスメントできるようにするための取り組みを行った。対象はICUの看護師18人。鎮静・鎮静プロトコルの導入は10月とし、導入前の9月と導入後の12月に質問紙による実態調査を実施した。鎮痛・鎮静深度の実態や鎮静深度に対する意識などについて調査し、プロトコル導入前後で比較検討した。
人工呼吸器装着中の患者の9割が鎮静優先
プロトコルは、「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PADガイドライン)」を基準に、同院麻酔科医監修の下、作成した。ICUの医師には麻酔科医が医局会で啓発を行い、鎮痛・鎮静の管理を行う看護師には、プロトコルの使用方法、十分な鎮痛・浅い鎮静の意義について勉強会を行い、啓発した。
プロトコル導入前の9月の実態調査では看護師らは鎮静に対する意識が強く、中等度から深い鎮静深度である「RASS -3から-5を目標に管理している」とする回答が69%を占めた。
一方、疼痛コントロールへの意識は不十分で、「BPS 3から4を目標に管理している」と回答した看護師は6%にすぎなかった。鎮痛と鎮静のどちらを優先してコントロールすればよいかが明確になっていなかったため、医師、看護師ともに、使い慣れている鎮静薬でのコントロールが行われており、人工呼吸器管理中の89%の患者がRASS -3から-5の中等度から深い鎮静深度で管理されていた。
佐藤氏らは、鎮痛・鎮静のスケールにおける目標値を定め、目標に至っていない場合にどう対応するかをプロトコルで明示した(図1)。
図1 鎮痛・鎮静プロトコル
(佐藤氏による、神戸中央病院麻酔科医師監修のもと2015年10月作成、図2、3とも)
プロトコルの対象は鎮痛・鎮静管理を行っている全ての患者とし、ICU入室後2時間毎、または適宜評価を行うこととした。目標値は、BPSは4以下、RASSは0から-2、NRS(Numeric Rating Scale、10段階で疼痛を評価するスケール)では4未満とした。再評価は、鎮痛・鎮静スケールの結果が共に目標値内であれば2時間後、目標値から逸脱している場合は30分後に行った。目標値から逸脱した場合は薬剤調整指針である「鎮痛プロトコル」「鎮静プロトコル」に基づき、鎮痛にはフェンタニル、鎮静にはプロポフォールの投与量を調整することとした(図2)、(図3)。
図2 鎮痛プロトコル:BPS≦4を目標
図3 鎮静プロトコル:RASS=0~-2を目標
プロトコル導入後の実態調査では、RASS 0から-2、BPS 3から4を目標に管理しているとする回答がいずれも75%を占め、実際には、RASS 0から-2の浅い鎮静深度で管理されている患者が57%と半数以上となった。看護師の意識の変化と同様、浅い鎮静と良好な鎮痛での管理へと大きく変化したことが分かった。
また、「鎮静・鎮痛を統合してアセスメントできている」と回答した看護師は、プロトコル導入前は28%だったが、導入後は94%に増加し、導入後に「できている」と答えた看護師全員が「アセスメント後の対処ができるようになった」と回答していた。
質問紙の自由記載では、「鎮静することばかり考えていたが、まずは鎮痛という意識が定着した」「鎮静剤を減らすことは怖いと思っていたが、鎮痛コントロールができれば鎮静剤を減らしても危険行動が少なく、挿管患者とコミュニケーションがとれ観察しやすくなった」などの回答も得られた。
鎮痛・鎮静双方を適切に評価し、コントロールできるようになったと実感する看護師が増加していた一方、一部では「各スケールの評価方法に慣れていない」「境界域レベルの判断がつきにくく、自己の知識を深める必要がある」といった回答もあった。
佐藤氏は「プロトコルを活用することにより、看護師たちが経験値に左右されずに、統一した視点からアセスメントを行えるようになった。またプロトコルに基づいて経時的にアセスメントを行うことで患者の状況をタイムリーに評価でき、十分な鎮痛コントロールと浅い鎮痛という適切な管理ができるようになったと考える」と考察。今後も継続して取り組んでいきたいとしている。
<掲載元>
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