医療事故発生! その時、看護師がやらなければならないこと・やってはいけないこと

2015年10月から開始された「医療事故調査制度」(以下、本制度)。
本制度のスタートから1年が経ち、日本看護協会主催により、「医療事故調査制度に関わる専門家連絡会議」が開催されました。
会議の中では、改めて医療事故が起こった際に看護師として気をつけておかなければならないことや、やってはいけないことについての報告がありましたので、レポートします。

 


【目次】

あらためて知っておきたい医療事故調査制度

医療事故発生! 看護師がやらなければならないこと、やってはいけないこと
1)記録類の保存
・記録は「基準時間」を記入する
・医師の記録時間と看護師の記録時間が違う!その原因は?
・正しい時間に訂正したら改ざんを疑われる?! 電子カルテの落とし穴!

2)現場保存
・つらくても、ご遺体はそのまま
・医療機器やモニターは電源OFFで記録が消えるものもあることに注意!
・撮影は、経験の浅いスタッフにはさせない配慮を

 

 

あらためて知っておきたい医療事故調査制度

1)本制度の流れ

医療事故調査制度

出典:厚生労働省:医療事故調査制度について.【概念図】

 

本制度の対象となる医療事故が発生した場合、医療機関は以下のことを行わなくてはなりません。

1)遺族への説明
2)医療事故調査・支援センター(以下、センター)への報告
3)原因を明らかにするための院内調査の実施
4)調査結果の遺族への説明およびセンターへの報告

 

この中でも3の院内調査は、院内に事故調査委員会を設置して行われますが、その委員会の中には、外部の医療の専門家(外部委員)が参加することが原則とされています。

 

その外部委員のメンバーは、当然ながらその施設と利害関係がない専門家でなければならず、そういったメンバー選定の相談やメンバーの派遣などを行うのが支援団体です。
なお、支援団体は日本医師会や日本看護協会などの職能団体、各専門学会などの学術団体、全国自治体病院協議会や日赤などの病院団体、医学系大学などの大学などです。

 

2)院内の死亡事例すべてを扱うのか?

本制度の目的は医療の安全と質の向上を図るためのもので、個人の過失・責任を追求するものではありません
そのため、本制度で扱う「医療事故」は事故や過誤の有無ではなく、
1)その施設に勤務する医療従事者が提供した医療に起因、または起因すると疑われる死亡、または死産
2)当該管理者がその死亡または死産を予期しなかったもの
の2つの条件が揃ったもの、とされています。

 

3)本制度対象の医療事故かを判断するのは施設の管理者

本制度の対象となる医療事故の条件は上記のように定められていても、その事故が本制度の対象となるかどうかを判断し、センターに報告するのはその医療施設(施設の管理者)です。
中には、それが対象となるかどうかを迷う施設もあるようで、センターへの報告が遅れがちであることもセンターの木村壯介氏により報告されました。

 

なお、センターへの報告期限は決められておらず、「遅滞なく報告する」とされているだけです。木村氏によると、2016年3月末の集計では、発生から大体約3週間でセンターに報告されていたものの、徐々にその期間が延びているとのことでした。

 

さらに、院内の医療安全担当者は「報告した方が良い」とした事例でも、施設の管理者によっては「報告事例ではない」と判断される場合もあるといい、木村氏は「本制度はあくまで調査を主体として再発防止を目指したものだということを再度認識してほしい」と強く求めました。

 

医療事故発生! 看護師がやらなければならないこと、やってはいけないこと

【看護師がやらなければならないこと】

  • ◆報告

  • ◆現場保全

  • ◆記録類の保存

 

では、実際に医療に起因する、もしくは疑いを含む予期せぬ死亡(死産)が起こった場合、看護師としてどのようなことをしなければならないのでしょうか。以下に、看護師が求められる行動を含めたフロー図を示しました。

 

医療事故調査制度 

日本看護協会「医療に起因する予期せぬ死亡または死産が発生した際の対応」より編集部作成

 

東海大学医学部付属八王子病院の上野正文氏は、「医療事故が発生した医療機関の状況」として、実際に医療事故が発生した際に、院内ではどういう流れになり、またどういうことが問題になったかについて報告しました。

 

上野氏によると、医療事故が起こった直後、
・患者の状態と発生状況を客観的に把握する
・調査、検証、行政機関への届け出報告が必要な事象かどうかの判断
・対象患者の治療・看護に当たる人員を確保
・現場保全の人員の確保

といった4つが初動では大変重要なことであり、ほぼ同時進行で行われるといいます。

 

中でも、看護師がやらなければならないことは「現場保全の人員の確保」であり、これには大きく「記録類の保存」と「現場保存」とがあるといいます。

 

1)記録類の保存

●記録は「基準時間」を記入する

【看護師がやらなければならないこと】

  • ◆普段から基準時間を決めておく

  • ◆自分の時計や記録をつけるために使う時計、モニター類の時計は基準時間に合わせておく

  • ◆基準時間とずれて記録していたら、何分ずれているかも記録しておく

 

医療事故が起こった場合、その患者さんに関しての記録はすべて保存しなければなりません。
そして、その記録が正確かどうかを調査するのですが、その際に最も時間がかかるのは「時間のズレの修正」なのだと上野氏は話します。

 

そのため、木村氏や上野氏は、普段から基準となる時計を決めておき、モニター類や各自の時計などはその基準時間に合わせておく必要性があることを話しました。
さらに木村氏は、「特にモニター類の時計がずれていることが多い」と指摘した上で、もし基準時間とずれていれば、それもきちんと記録しておくようにと加えました。

 

●医師の記録時間と看護師の記録時間が違う!その原因は?

【看護師がやらなければならないこと】

  • ◆医師をはじめ他職種も記録に残す可能性がある行動は、あらかじめどの時点のことを指すのかをすり合わせしておく

  • ◆他職種がかかわる指示や処置を記録に残す際には、確認してから記録するようにする

 

上野氏によると、実際に起こった医療事故について、各記録を突き合わせ整合性を調べていくと、どうしても医師と看護師の記録の時間が合わないことがあるそうです。
よくよく話を突き合わせていくと、病棟で行うさまざまな処置の時間について、医師と看護師ではその認識が違っている、というのが分かったのだと話します。

 

たとえば、中心静脈カテーテル(CV)を患者さんに挿入する場合、看護師は、患者さんを処置室に連れていき、体位を整えるなど準備をした時間を「処置開始」として記録するのに対し、医師は実際に始めた時間を記入します。
また、処置が終わった時間についても、医師は自分が処置室を出た時間を、看護師は患者さんの身支度を整え、病室に戻した時間を記入するため、同じ「処置開始時間」「処置終了時間」としていても、時間がずれてしまうのだと説明しました。

 

そこで、上野氏の施設では、処置開始や処置終了時間の記入については、記録する前に看護師が医師に確認し、その確認した時間を記録するようにしたのだそうです。

 

●正しい時間に訂正したら改ざんを疑われる?! 電子カルテの落とし穴!

【看護師がやってはいけないこと】

  • ◆電子カルテの時間の修正はなるべくしない

  • ◆修正する必要がある場合には、別の欄を設け、そこに修正内容を記入する

 

現在、多くの施設で電子カルテが導入されており、この記事を読まれている皆さんの中にも使用されている方も多いと思われます。
そのような方の中には、一連の処置を電子カルテに入力し、後で先輩ナースなどに確認をしたところ、時間が違うことを指摘され、時間を訂正した経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

一般的に、電子カルテに一度記録したものを修正した場合、二重線が引かれるなどで修正されたことが分かるようになっています。
しかし、その修正がご遺族などから「医療従事者同士で話をすり合わせ、後で修正したのではないか」と疑われた事例があったそうです。

 

これに対し、上野氏は「最初に記入した記録の修正は行わない方がいい」と言います。実際に自身の施設でも、もし、修正が必要になった場合は、違うところに欄を設け、「記録の経過の整理」などとして新たに情報を加えるようにしているのだと説明しました。

 

2)現場保存

基本的に、医療事故(疑いも含む)が起こった場合、現場は指示があるまでは保存しておかなければなりません。

●つらくても、ご遺体はそのまま

【看護師がやってはいけないこと】

  • ◆ご遺体は指示があるまで動かさない

  • ドレーンやカテーテル類などは抜かない

 

更衣をし、死後の処置を行って差し上げたくても、指示があるまではご遺体はそのままにしておかなければなりません。
患者さんにドレーン類やカテーテル類、気管チューブ、気管カニューレ留置針など挿入・留置されている場合もそのままにしておきましょう。
場合によっては、挿入された状態のまま、原因調査のためにAiなどを行う場合もあります。

 

●医療機器やモニターは電源OFFで記録が消えるものもあることに注意!

【看護師がやってはいけないこと】

  • ◆医療機器やモニターの電源を記録に残す前にOFFにしない

 

投与している薬剤などは、そのままの状態で保存しておきます。
医療機器やモニターによっては、電源を切ると設定や記録が消えるものもあるので、メモをとるか、印刷できるものは印刷する、また、カメラなどで撮影し、画像を保存しておきましょう。

 

●撮影は、経験の浅いスタッフにはさせない配慮を

現場をカメラやビデオなどでの記録することが有効なのは間違いありません。
しかし、上野氏は、「それは、できるだけそれなりの経験を持ったスタッフが行い、経験の浅いスタッフにはさせないでほしい」と訴えます。
ご遺体の映像を撮影するのは、想像よりもはるかにつらいものであるため、できれば医療安全管理者や看護単位責任者などがその役割を担うことが望ましいと述べました。

 

 

【看護roo!編集部】

 

 

2016年10月4日(火)
医療事故調査制度に関わる専門家連絡会議

【会場】

日本看護協会JNAホール
 

【プログラム】

開会挨拶
日本看護協会 会長 坂本すが


日本看護協会の医療安全推進事業と医療事故調査制度
~医療事故調査制度をどう医療・看護の安全につなげるか~
 
日本看護協会 常任理事 福井トシ子

医療事故調査制度の現状と省令改正などに伴う今後のゆくえ
医療事故調査・支援センター 常務理事 木村壯介


情報提供「平成28年度医療事故調査制度に関する情報収集」結果
日本看護協会 看護開発部 看護業務・医療安全課


情報提供「専門家として医療事故調査に参画するための心構え」
・医療事故が発生した医療機関の状況
東海大学医学部付属八王子病院 医療安全管理者 上野正文
・ヒアリングなどの事故調査が医療職に与える影響と対策
自治医科大学附属さいたま医療センター 医療安全・渉外対策部 亀森康子
・医療事故調査に外部委員として参加して
JA北海道厚生連札幌厚生病院 看護部長 加藤久美子

閉会挨拶
日本看護協会 常任理事 福井トシ子

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