ナースのお悩み処方箋【18】患者さんが亡くなるのはもう見たくない・・・

「仲良くなった患者さんを見送るのが辛いのは、誰でも同じ。
 でも、そこから何かを学び取って、糧にすれば、あなたは大きく成長できるはず」

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私が看護師として初めて配属された病棟は、慢性期・終末期病棟でした。
平均して、毎週一人は確実に亡くなっていきます。
多い時は1日に4人亡くなるような病棟でした。

経験を積んだ今でこそ、患者さんの死は身近なもので、「終末期病棟だからステルベンが多いのは当然だよね」という感想がさらっと出てきますが、当時はまだ新人、本当に辛くてなりませんでした。

別の病院で、ステルベンに立ち会ったことのない同僚と一緒にエンゼルケアに入ったことがあります。
不思議なもので、ステルベンに縁がない人は5年10年とほぼ無縁でいられるんですよね。

この同僚は、経験7年目にして初めてのエンゼルケアの後、ほとんど仕事が手に付かない様子で、数日後、退職してしまいました。
それだけ彼女にとっては辛いことだったのでしょう。
でも、どうしても勿体ないなぁと思ってしまうのです。
7年もの間に看護師としていろいろ経験しただろうに、それを全部捨てて、退職という道を選んでしまうなんて。

もちろん、私も彼女のことは言えません。
今でこそ、患者さんのステルベンとは離れたクリニックに勤務していますが、看護師の友人との話の中で、患者さんが亡くなる話になっただけでも、つい涙目になってしまいます。

人が亡くなる、というのは、本当に辛いものです。
しかも、看護師の仕事は亡くなった患者さんを見送るための仕事だけじゃないので、当たり前ながら、日常のルーチン業務もあります。
エンゼルケアをしている隣の部屋で、食事が美味しくないと暴れている患者さんの相手をしている、シュールな日々。
嘆いている暇はないと頭ではわかっていても、心がついていかずに、ミス連発で叱られました。

私に看護師なんて向いてない。
いつか私のミスで患者さんが亡くなってしまうかもしれない。
親しくなった患者さんのエンゼルケアを冷静にできなくなって、別の患者さんに何か重大なミスをしでかして、同僚だけでなく、病院に迷惑をかけてしまうかもしれない。

そう思って、病棟師長に「患者さんの死を受け入れるのが辛いから辞めたい」と伝えに行きました。
その時にもらったのが、冒頭のコトバです。

「今は辛くて辞めたい気持ちで一杯かもしれない。
 でも、亡くなった患者さんやそのご家族を見て、学んだことはたくさんあったはず。
 仲良くなった患者さんを見送るのが辛いのは、誰でも同じ。
 でも、そこから何かを学び取って、糧にすれば、あなたは大きく成長できるはず。」

……単純な私は、師長さんのそのコトバであっさり辞意を撤回しました(笑)。
とはいえ、その後、ヘルニアを悪化させて、その病院での勤務を続けられなくなってしまったわけですが。

そう考えると、親しくなった患者さんの死を乗り越えるのも、看護師の仕事のひとつなのかもしれませんね。

ステルベンにショックを受けて退職した彼女のその後はわかりませんが、何となく、また看護の世界に戻ってきているような気がしています。

 

 


 【岡田久美】 兵庫県出身。看護書籍の編集とゲームシナリオライターを本業に、フリーの看護師として活躍中。いつでもどこでもどんなところでも勤務できるオールマイティな看護師を目指し、これまでの勤務職場は病院、クリニックなど30以上。

著書に「看護師の流した涙」(ぶんか社)がある。

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