准看護師 廃止へ加速? 看護協会と医師会 それぞれの思惑とは

今年(2016年)8月22日、准看護師が看護師になるための2年課程(通信制)について、入学要件などが変更されました。

おもな変更点は、准看護師としての就業経験年数が10年から7年に短縮されたことです。

 

「准看護師の方へ」(日本看護協会)より作成

 

【おもな変更点】

准看護師が看護師になるための「2年課程(通信制)入学」のために必要な就業経験年数を「7年以上」に変更(旧:10年以上)

 

【施行期日】

2018年4月1日

(2018年4月に入学する学生から上記変更内容が適用)

 

今回、なぜ短縮が行われたのでしょうか。

この要件緩和に際して日本看護協会は、「全力で看護師資格取得を支援」と明言しています。

 

実は長らくの間、日看協にとって「看護師資格への一本化」は悲願であり、准看護師から正看護師への移行を推奨してきました。

今回の短縮はそれを加速するものと考えられます。

 

一方で、医師会は准看護師の減少を危惧しています。

2016年8月10日の発表では「地域看護を支えているのは准看護師」「准看護師課程は、高校既卒や短大・大卒の方が約7割と多く、社会人の学び直しの教育機関として の役割も担っている」などの理由で准看護師資格の必要性に言及しました。

 

医師会、看護協会のそれぞれの主張を詳しくみていきましょう。

 

 

 

(医師会)地域への定着度が高いことを理由に「准看護師」の減少を危惧

日本医師会は「准看護師」の減少を危惧しています。

 

2016年8月10日に発表された「助産師・看護師・准看護師学校養成所調査」では、准看護師学校養成所の応募者が減少し、2.0倍になったことに対し、「准看護師は地域への定着率が高い。超高齢社会における看護職の必要性と医師会立養成所の魅力をPRしていく必要がある」と述べています。

 

(図)医師会立の准看護師・看護師学校養成所の定員に対する応募者の倍率

平成28年 医師会立 助産師・看護師・准看護師学校養成所 調査(PDF)より作成

 

医師会が危惧しているとおり、正看護師が順調に増え続けているのに対し、准看護師は減少傾向です。

 

看護統計資料室:就業状況:看護師・准看護師(日本看護協会)より作成

 

しかしその内訳をみると、施設や居宅サービス等で働く准看護師は、過去10年で34%増加しています。

准看護師が減少しているのは、病院での勤務が減っているからのようです(過去10年で25%減少)。

 

これらのデータから、「准看護師が減ると地域医療に人手が足りなくなるのではないか」と医師会は主張しています。

その指摘に対して、日看協はこう反論します。

 

高度急性期病院は看護師で、介護や在宅はあまり難しい判断は迫られないから准看護師で、というイメージがあるのかもしれませんが、現実は異なります。

介護施設などは医師や看護職員が少ないため、1人での判断や予測が迫られる場面がむしろ多いのです。

(以下囲み内は、日看協常任理事 洪愛子氏のインタビューより抜粋)

 

 

(日看協)「准看護師の新規養成は停止し、看護師に一本化すべき」

厚生労働省は、今回の要件緩和の目的として、「地域医療体制の充実に向けた看護師養成」のためであるとし、「准看護師を含めた看護職員の養成は重要であり、このような中で、自律してケアを実践する看護師の必要性は高い」と明記しています。

 

「自律してケア」を実践する看護師の必要性には言及していますが、「准看護師を含めた養成が重要である」とも記載があり、日看協がねらう「正看護師への一本化」とは一線を画しているようです。

 

そもそも、なぜ日看協は「看護師への一本化」を推奨しているのでしょうか。

それには、おもに2つの理由が考えられそうです。

 

1.60年以上前の進学状況をもとに作られた制度であること

そもそも、准看護師制度は第2次世界大戦後に看護師が不足している状況下で創設されました。

当時は高校進学率が低かったため、中学校卒業を入学要件としました。

しかし医療技術の進歩と共に、看護のニーズは年々複雑化・多様化しています。

求められる看護実践能力も高くなっており、従来の准看護師養成の教育水準ではもはや対応できなくなっています。

 

高校進学率が97%を超え、理学療法士や診療放射線技師、歯科衛生士など他の医療関係職種の養成も大学教育に移行する中、60年以上前に作られた准看護師制度が存続している方が問題です。

 

 

2.指示を受けて働くための教育制度であり、卒後学習が各自の負担になっていること

看護師養成では、患者の全身をアセスメントして、自律的に判断し先を予測する能力を身に付けることが求められます。これに対し准看護師養成は「医師または看護師の下で安全に実施できる能力を養う」という、指示を受けて働くことを前提とした教育です。自律的判断は教育目的に含まれていません。

 

このように教育内容がかなり異なるにもかかわらず、准看護師は法律上では、指示の有無以外は看護師と全く同じことができてしまいます。養成所で学んでいないことを現場で求められるので、准看護師は各自の努力で学ぶしかなく、当人にとっても大変な負担になっているようです。

 

そのほかにも、「看護師の専門性を高める」ことや、「看護職の地位向上」のために資格の統一が必要との立場をとり続けています。

2000年には廃止のための総決起集会を開き200万人を超す署名を集めるなどの取り組みもありました。

 

日看協にとっては、今回の要件緩和は准看護師制度廃止に弾みをつけるものなのかもしれません。

 

 

日看協と医師会、主張はそれぞれですが、大切なのは看護職不足と労働環境が改善されることです。

今回の要件緩和を受けてどのように変わっていくのか、引き続き注目する必要がありそうです。

 

(関連記事)

准看護師から正看になるための実務年数を短縮するのはなぜ?厚生労働省取材

廃止or継続?本当はどうなる、准看護師制度の行方

「准看護師の養成は時代にそぐわない」|インタビュー◎どう考える?准看護師問題

「“総合診療医”に続く、“総合看護師”の存在が必要」―インタビュー◎どうなる?准看護師制度

 

(参考)

准看護師の方へ:日本看護協会は、准看護師の方の看護師資格取得を支援しています日本看護協会

平成28年医師会立助産師・看護師・准看護師学校養成所調査結果まとまる(日本医師会のニュースポータルサイト)

 

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