新卒時トップの看護師の給料が、他の医療職に追い抜かれるワケとは?
新卒入職時には医療職のなかでダントツトップだった看護師の給与額が、30歳以降は徐々に他の医療職に追い抜かれ、50歳以降ではトップの診療放射線技師と月額10万円以上の差が生じてしまうことをご存知でしょうか?
各種調査から、看護師は医療職の中でもっとも賃金の上昇率が低いことがわかっています。
医療職間の賃金上昇率をみる前に、日本看護協会による2015年病院看護実態調査の結果からご紹介します。
初任給、3年課程は262,013円、大卒は269,788円
引用:日本看護協会「「2015年 病院看護実態調査」結果速報」(PDF)
「高卒+3年課程」の新卒看護師の予定初任給は、平均基本給与額 198,777 円、平均税込給与総額262,013 円で、平均税込給与総額(通勤、家族、住宅、夜勤、当直手当を含むが、時間外手当は含まない)は前年度比で552円のマイナスでした。
「大卒」の新卒看護師の予定初任給は、平均基本給与額205,859円、平均税込給与総額 269,788円で、平均税込給与総額は前年度比で1,018円のマイナスとなっています。
「勤続10年、31~32歳、非管理職」の看護師の月額給与は、平均基本給与額245,426円、 平均税込給与総額319,256 円となっていて、平均税込給与総額は前年度比で1,139円のプラスでした。
2交代の夜勤手当は10,711円、3交代の深夜勤は4,953円
夜勤手当については、3交代制の平均準夜勤手当は3,983円、平均深夜勤手当は4,953円、2交代制の平均夜勤手当は10,711円で、いずれも前回(2014年調査)より若干減少しています。
ここ5年間の給与の推移をみると、3年課程、大卒、勤続10年のいずれも給与は横ばいが続きます。
2011年の給与と比較すると、3年課程の給与総額が262,964円、大卒では271,347円、勤続10年が319,590円でした。
看護師は一番給料が上がらない!?
冒頭でご紹介したように、新卒から経験年数が増えるにつれて上がっていく給与カーブは、医療職の中では看護師がもっともゆるやかです。
このことは看護師の給与が、医療職の中でもっとも上がりにくいことを意味しています。
引用:日本看護協会 協会ニュース「病院で働く看護職の賃金のあり方に関する考え方(案)」(PDF)
新卒時~20代半ばの平均給与支給額(基本給に加えて、夜勤手当など各種手当を含めたもの)は、初任給が平均して26~27万円(税込)となる看護師がダントツトップ。
次いで、薬剤師、診療放射線技師、理学療法士、臨床検査技師、作業療法士の順です。
50代以降は医療職の中で最下位
ところが30代以降になると、薬剤師や診療放射線技師など他の医療職の給与額が、看護師を追い抜きます。
そして「44~47歳」には看護師の給与額は下から2番目となり、「52~55歳」の区分ではついに看護師の給与額が最下位となってしまうのです。
スタートではトップを切っていた看護師の給与はどうして年齢が上がった時に、他職種よりも低くなってしまうのでしょうか?
理由その1「全体の人数が多い」
その理由について日本看護協会は、「他の医療職に比べて看護職は全体の人数が多いため、上位のポストにつく人数が少なく、中高齢層で平均賃金が低くなる」と分析しています。
1病院当たりの人数が平均して100人以上になる看護師に対して、薬剤師など他の医療職は10人程度。
全体の人数が多い看護職では役職に就く人の割合が少ないため、年齢が上がっても役職に就かない人が多くなり 、平均給与に大きな差が出てしまうというわけです。
また、看護職の平均賃金を押し下げている要因として、「看護師自身のキャリア意識」も挙げることができます。
もともと看護師を目指す人は、患者さんと接することに強いやりがいを感じる人が多いのも事実。
そのため年齢が上がっても管理者を目指すのではなく、現場のスタッフとしてベッドサイドを担当したいという希望を持つ人が少なくないため、結果として役職者が少ないということにもつながっているようです。
理由その2「認定・専門取得者に“資格手当なし”が6割」
さらには看護職の職位を上げてくれるはずの認定看護師・専門看護師が、資格を取った後もさほど給与に反映されていないという実態も挙げられます。
専門・認定看護師の取得者に対して、「賃金表での昇給・昇格なし、かつ資格手当のない」施設はなんと専門看護師で61%、認定看護師で55%にも上ります。
実に6割の施設が認定取得者に対して、報酬上の手当てをしていないことがわかります(2012年日看協調査)。
業務の専門性が高まり、専門・認定看護師のニーズが高まっているのに対して、専門性が十分に給与に反映されているとはいえません。このことが看護師の平均給与を押し下げている大きな要因の一つといえそうです。
理由その3「転職しても経験年数が反映されない」
また転職が容易という看護職独自の要因も給与を押し下げています。
医療機関だけでなく学校や保育園、一般企業など、様々な場所でニーズがあるため、経験や条件が合えば比較的容易に職場を変えることができるのは看護師のメリットの一つ。
しかし、転職して経験者採用された場合、それまでの経験年数すべてを賃金に反映される病院は半数程度。
残り半数の病院では、経験年数の一部しか賃金に反映させていないため、結果として転職や再就職によって賃金が下がってしまうという事情もあるようです(2012年日看協調査)。
トップの診療放射線技師との差は10万円以上!
このため、例えば50歳前後の平均給与額は、診療放射線技師がおよそ50万円、薬剤師や理学療法士がおよそ45万円に対して看護師は40万円未満と大きな差ができてしまっています(人事院の給与実態調査を基に日看協まとめ:看護師と薬剤師以外は上位の職位に就いているものを含む)。
このような実態を反映し、日看協のアンケートでは6割の看護師が「“給料が低い”ことを理由に退職を考えた」と回答しています。
日看協はラダーを活かした賃金体系を提言
そこで日看協ではこのような賃金問題を改善するため、このほど「病院で働く看護職の賃金のあり方に関する考え方(案)」をまとめました。
考え方ではクリニカルラダーなどを活用した「等級制度」の採用によって、年齢や勤続年数だけに頼らない給与評価を提案しています。
さらに、実践を追求する「ジェネラリスト」、管理者としての「マネジメント」、認定・専門取得者に対する「スペシャリスト」それぞれを評価する賃金体系の構築も提言します。
求められる専門性や責任の範囲が拡大する一方で、それに見合う給与額が追いついていないのが看護師の賃金の実状です。
他の医療職との差の解消に加えて、時間外手当の支払いや夜勤手当の充実など、離職を防止するには課題が山積しているといえそうです。
【ライター:横井かずえ】
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