患者さんが同僚ナースの不満をグチってきたときの正解は?|やりがちダメ対応【1】

はじめまして。瀧本禎之です。

私は、「臨床倫理コンサルテーション」を仕事にしている医師です。

ひとことで言うと「コミュニケーションの専門家」として、現場における適切なコミュニケーションについて、カンファレンスなどに呼ばれて相談を受けています。

 

さまざまな相談をうけるなかで、普段の臨床では問題点として挙がってこないけれど、「実はあぶないな~」と思うコミュニケーションの場面に、ナースの皆さんがよく遭遇しているのだなぁと気づきました。

この連載では、ありがちだけど実は「それダメ!」な対応と、適切なコミュニケーションについて伝授します。

 

◆登場人物

瀧本先生。臨床でのコミュニケーションの専門家。何をやっているかよくわからないけれど、ちょっと難しいことを色々知っている人。あゆみさんの疑問にスマートに答えてくれる。

 

あゆみさん。看護師 3年目。マジメで、ちょっとしたことでも疑問に思う性格。でも、誰も答えてくれなくてモヤモヤしがち。そういうときは、瀧本先生の部屋に相談に行くことにしている。

 

 

やりがちダメ対応【1】

患者さんが同僚ナースの不満をグチってきました…。どうする!?

 

「患者さんが同僚の不満を私にだけグチってきた…」こんなとき、同僚ナースをかばうのも、患者さんの気持ちに同調するのも実は、「ダメ対応」なんです。

 

【目次】

 

あゆみさんが困った場面と今回の「ダメ対応」

コンコン(ノック)

はーい

先生、ちょっと聞きたいことがあって。

おぉ、あゆみさんか…、どうしたの?

実は、こんなことがあったんです。

【患者さんの検温をしていたら…】

「あゆみさんは丁寧で感じが良いのだけど、Bさんはいつも乱暴なのよね~」と言われました。

 

普通に受け流せば良かったのかもしれないですけど、なんて言ったらいいかわからなくて…。
 
細かいことですみません。

いや、いい疑問点だね。
よくある場面だし、対応を間違えると意外と大きな問題に発展するよ。
 
この3つのなかに、してはいけない対応があるのだけれど、どれだと思う?

 

1.患者さんの気持ちを否定する。

(返答例)「Bさんは、きっと忙しかったんでしょうね」

 

2.Bさんのことを否定する。

(返答例)「Bさんが乱暴だったんですね。すみませんでした」

 

3.褒めてくれたことに対して感謝の気持ちを述べる

(返答例)「ありがとうございます」「褒めていただいて光栄です」

 

うーん。「3」はダメな気がします。

実は、どれもダメなんだ

えー!

詳しく説明していくね。

 

 

患者さんが発言した理由

患者さんとの適切なコミュニケーションの第1歩は、「なぜ患者さんはその発言をしたんだろう?」と考えることなんだ。
今回は、どんな理由が考えられそう?

うーん…、まずは「Bさんの乱暴なケアを改善してほしいのかな」と思いました。
あとは、まぁ…「私を褒めてくれているのかな」とも。

うん、その2つは考えられそうだね。
 
あともう1つ、患者さんが「あゆみさんを自分にとって都合の良い看護師にしたい」と考えている可能性があるんだ。

【患者さんが発言した理由として考えられること】

1. Bさんの乱暴なケアを改善してほしい。

 

2. あゆみさんへの感謝と賞賛の気持ちを伝えたい。

(あゆみさんへの評価を高めるために、Bさんという良くない比較対象を設けた)

 

3. あゆみさんを自分の都合の良い看護師にしたい。

 

えっ!?「自分の都合の良い看護師にしたい」って…?

ここが今回のポイントだよ。

 

 

起こる可能性があった「実は怖い」こと…

今回、あゆみさんはなんとなく違和感を覚えて相談に来てくれましたが、患者さんの発言を鵜呑みにした場合、こんなことが起こる可能性がありました。

 

【1】同僚に対して、批判的な感情が芽生える

患者さんの発言をそのまま受け止めた場合、あゆみさんは、「Bさんって乱暴なんだ」とか「雑なんだ」とBさんに対して悪い印象を抱いた可能性がありました。

さらには、「Bさんってば、まったく!」というような怒りさえ抱いたかもしれません。

 

つまり、患者さんの発言により、あゆみさんの中に、「Bさんのケアは良くない」とBさんを批判する感情が生じてしまう可能性がありました。

 

【2】患者さんのことをわかってあげられるのは自分だけという感情を抱く

患者さんの発言からは、「Bさんには言えないけど、“あゆみさんだから”話した」というニュアンスが感じられますね。

「患者さんがあゆみさんに“だけ”話した」という点から、あゆみさんの中で、「患者さんのことをわかってあげられるのは私(だけ)」という気持ちになってしまう可能性があります。

 

【3】医療チームではなく、患者さん側の立場をとってしまう

あゆみさんが、Bさんのことを批判しながら、「患者さんのことをわかってあげられるのは自分だけ」と考えた場合、医療チームに悪影響が及ぶ可能性があります。

 

図を用いて説明しますね。

 

図1:「通常の」医療チーム-患者関係

※A:あゆみさん、B:同僚ナース

 

 

図1では、あゆみさんとBさんは、チームとして一緒に患者さんをケアしています。

 

 

図2:「避けるべき」医療チーム-患者関係

※A:あゆみさん、B:同僚ナース

 

一方で図2では、あゆみさんが患者さんの発言を受け入れた結果(図2a)、Bさんのことを批判しています。

そして、「患者さんのことをわかってあげられるのは自分だけ」という感情から、患者さんに必要以上に肩入れしてしまう可能性があります。

 

こうなると、あゆみさんは、患者さんに対する客観的な評価や適切なケアができなくなります。

その結果、医療チームとして公正なケアができず、悪影響が及びます。

 

また、患者さんにとっては、あゆみさんが「自分に肩入れしてくれる都合の良い看護師」になるということです。

 

このように、ある発言によって相手を自分の都合の良い存在にしようとすることを、心理学の用語で「操作(manipulation)」といいます(図2b)。

 

うーん…、そんな大袈裟な話になるんですか…。
患者さんからはそういう意図は感じられなくて、愚痴のような、日常会話みたいな印象だったんですが。

うん。もちろん可能性の話であって、単なる日常会話だったことも考えられるよ。

えっ!?そうなんですか。うーん…。
そうしたら、「ケアを改善してほしくて言っているのか」「褒めてくれているのか」「操作なのか」見分けたりできないんじゃないですか?

そうだね。でも見分けられなくて大丈夫だよ。
では、ここからは模範的な返答例を挙げて説明するね。

 

 

模範的な返答例と返答のポイント

【模範的な返答例】

「そうなのですね。お気持ちはわかりました。貴重なご意見をありがとうございます。今回お話いただいたことは、私たちにとって、とてもいい教訓になるので、皆で共有してもよろしいでしょうか」

 

うーん…、ちょっと冷たい感じがします…。

うん。あくまで模範解答だから、このまま言うのではなく、患者さんとの関係性を踏まえて、臨機応変に対応することが重要だよ。
返答にあたり、おさえておくべきポイントは以下の3つなんだ。

 

【ポイント】

1. 患者さんの気持ちは、理解したことを伝える。

2. Bさんの振る舞いに対しては、価値判断をしない。

3. 患者さんの意見を、医療チームで共有することを伝える。

 

この3つをおさえられれば、時間が許せば、詳しく患者さんの話を傾聴するのもいいと思うよ。

そうすると、「冷たかったかなぁ」と思うこともなくなりそうです。

3つのポイントをおさえておくと、患者さんが、
「ケアを改善してほしい場合」には、チームで共有することによって改善ができ、
「あゆみさんに感謝を伝えたい場合」は気持ちを受け止められ、
「操作」により医療チームに悪影響が及ぶことも避けられるんだよ。
 
つまり、患者さんがどのような理由で発言していたとしても対応ができるし、一番避けたいリスク(医療チームに悪影響が及ぶこと)は回避できるんだ。

 

 

まとめ

患者さん1人ひとりとより良い関係を築いていくことは大切ですが、医療チームの一員として、「病棟全体を管理している」という視点をもつことも重要です。

そのために一番大切なのは、患者さんとのコミュニケーションにおいて起こりうるさまざまな可能性に留意して発言できることです。

 

模範的な対応例は、「ちょっと冷たいかも…」と思うかもしれません。

でも、不要な仲たがいにより医療チームが不利益を得ることは、一番避けなければなりません。

3つのポイントをおさえて、実践してみてください。

 


瀧本禎之(たきもと・よしゆき)

1997年神戸大学医学部卒業、2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。

東京大学医学部附属病院心療内科 助教・特任講師を経て、2013年より東京大学大学院医学系研究科医療倫理学 准教授、同大附属病院 患者相談・臨床倫理センター センター長。

 

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