その手袋、穴が開いていませんか?|2重手袋で術中感染を防ぐ

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普段何気なく使用している手袋。その手袋の穴開きのリスクを考えたことはあるだろうか。特に手術場面では、鋭利な器具などで容易に穿孔し得ることが明らかになってきた。職業感染や手術部位感染予防の観点から、2重手袋の重要性が指摘されている。

(満武 里奈=日経メディカル)

 

2重手袋を装着している様子(提供:アンセル・ヘルスケア・ジャパン)

写真1 2重手袋を装着している様子(提供:アンセル・ヘルスケア・ジャパン)

 

三重大学では現在、全ての外科系診療科において、手術時の手袋の2重装着がスタンダードになっている。普段使用しているサイズの手袋を2枚重ねる、もしくはフィット感を上げるために、内側に通常サイズより1サイズ大きな手袋をはめ、上から通常サイズの手袋を重ねるといった装着方法が基本だ(写真1)。 

 

「2重手袋が習慣化すると、『怖くて1枚手袋には戻れない』と誰しも口にするようになる」。三重大学生命医科学専攻病態修復医学講座先端的外科技術開発学講師の小林美奈子氏はこう話す。

 

同大で手袋を2重装着するようになったきっかけは、小林氏らが2008年に行った2重手袋の研究だ。手術部位感染(SSI)対策を検討する中で手袋の破損との関連に着目した小林氏は、三重大学医学部附属病院の消化器外科手術に関わる医療者を対象に、2重手袋の有効性を検討した。術後に手袋の穿孔状況を調べた結果、1014枚(507組)の手袋のうち8.0%(81枚)で穴が開いていた。その内訳は、2重手袋の外側の手袋の穿孔率が10.4%だったのに対し内側の手袋は2.8%と少なかった。

 

三重大学の小林美奈子氏

三重大学の小林美奈子氏

 

外側手袋の穿孔率は、手術時間に比例していることも分かった(図1)。外側手袋は手術時間が長くなるほど穴の開く確率が有意に上昇し、「2時間以上」では約15%と高かったが、内側手袋の穿孔率は術後1時間未満ではほぼ0%、術後1時間以上は3%ほどだった。

 

図1 手袋に穴の開く確率と手術時間の関係(小林氏による) 手袋に穴の開く確率と手術時間の関係(小林氏による)

 

このほか、手袋の穿孔しやすさには左右差があり、左手袋の穿孔率は10.7%と右手(5.3%)よりも有意に高かった(図2、P=0.0026)。「右利きの医療者が多く、右手で針を持つことでその針先が左手袋に触れる可能性が高いためではないか」と小林氏は結果を分析する。 

 

図2 手袋の穴の開きやすさの左右差(小林氏による)

手袋の穴の開きやすさの左右差(小林氏による)

 

また職種別に見ると、術中の役割によっても穿孔率は異なり、執刀医(11.2%)、看護師(8.3%)、第1助手(6.8%)、第2助手(5.3%)――の順に高かった(図3)。 

 

図3 手術時の役割別、手袋の穿孔のリスク(小林氏よる) 

手術時の役割別、手袋の穿孔のリスク(小林氏よる)

 

これらの検討結果から、手袋の2重装着により医療者-患者間の感染リスクが抑えられる可能性があることが分かり、2008年に三重大学消化管外科で2重手袋を導入。その後、徐々に他科へも広がっていったという。 

 

内と外で異なる色の手袋を装着

手袋に穿孔があることでSSI発生率が上昇することは、これまでに国内外で複数報告されている。さらには、穴開きが認められた手袋のおよそ2割で細菌が検出され、内側が汚染されていたという報告もあり、穴開きが起こると高い確率で細菌が移動し、感染リスクが上昇することが推測されている。SSIだけでなく医療者が患者の体液や血液に曝露する、職業感染のリスクも当然高まる。

 

2重手袋には、こうした感染リスクを下げるだけでなく、内側と外側で異なる色の手袋を装着することによって、色の違いから穿孔自体に気付きやすくなる効果もある。ここ数年で、緑や青などの色の付いた内側専用の手袋も発売されるようになった。穴が開き、内側と外側の手袋の間に水分が入りこむことで手袋が密着し、下の色が浮き出るようににじむように見える。そのため、穴開きに気づきやすくなるという(写真2)。 

 

写真2 2重手袋装着時に穴が開いた時の様子(提供:アンセル・ヘルスケア・ジャパン)

2重手袋装着時に穴が開いた時の様子

内側の手袋の色がにじみ出て穿孔に気付く。写真は内側用手袋「センシタッチ・プロ・センソプレン・グリーン」を着用。米国アンセル・ヘルスケアが開発した製品で、日本では東レ・メディカルが製造販売している。

 

手袋を2重に装着するため、当然ながら1枚で使用するよりもコストは掛かる。一方で、日本外科感染症学会が報告した多施設共同の検討によると、SSIが発生することで患者1人当たりの医療費は85万円6319円の追加費用が発生すると試算されている。「SSIが発生した時の治療費用を考えれば、医療経済的メリットはあるのではないか」と小林氏は話す。

 

ガイドラインで推奨も普及はこれから

国内では、(1)国公立大学付属病院感染対策協議会病院感染対策ガイドライン(改訂第2版)、(2)日本手術医学会による「手術医療の実践ガイドライン」、(3)日本手術医学会の「手術医療の実践ガイドライン(改訂版)」――において2重手袋の装着が推奨されている。ただし、全国的な普及率は低いようだ。手術用手袋メーカーのアンセル・ヘルスケア・ジャパンの調べによると、日本での二重装着普及率は10%以下(2014年)だ。

「院内感染対策に積極的に取り組んでいる施設では導入しているが、興味がないところは全くやっていない。病院や術者によって導入のばらつきがある印象だ」と小林氏は話す。

 

術者にとって気になるのは装着感だろう。2重手袋にすることで術中の指先の感覚が悪くなるのではという不安もありそうだが、実際にはそれほど変わらないという。「手術に支障ないと感じる人が大半だ。2重手袋にすることでSSIを防げるだけでなく職業感染から身を守ることもできる。ぜひ取り入れてほしい」と小林氏は話している。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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