看護師特定行為研修がスタート―自治医大で研修センター開所式、10月以降、全国14機関で研修開始

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9月25日、「自治医科大学看護師特定行為研修センター」の開所式が行われ、研修生および学内外の関係者が参加した。同大は今年10月1日からスタートした「特定行為に係る看護師の研修制度」の指定研修機関の一つで(関連記事:『自治医大が看護師の特定行為研修実施に名乗り』)、制度開始を前に開所式と研修生向けのオリエンテーションを実施した。

(井田恭子=日経メディカル)


 

特定行為研修は、国の定める特定行為(現時点で21区分38行為)について、看護師が手順書に基づいて実施できるようにするための新たな制度。同センターでは、「心嚢ドレーン管理関連」「術後疼痛管理関連」の2区分を除く19区分36行為の中から、各研修生が希望する行為を選んで研修を受講できる。第1期研修生は計30人。北は北海道から南は宮崎県まで、全国から看護師が集まった。

 

開所式の挨拶の中で学長の永井良三氏は、厚生労働省「チーム医療推進会議」の座長として特定行為研修の法制化に関わった経験を踏まえて、「諸外国に比べて日本の医療現場は、それぞれの職種が独立しすぎている傾向がある。『チーム医療』の視点に立ち返り、各職種がきちんとした教育を受け、権限を明らかにした上で分担・連携する仕組みが必要だ」と指摘。その上で、「特定行為研修には大きな意味があり、研修修了生の果たす役割が日本の医療に重要なインパクトをもたらすことは間違いない」と述べ、研修生にエールを送った(写真)。

 

開所式で挨拶する自治医科大学長の永井良三氏

開所式で挨拶する自治医科大学長の永井良三氏

 

「医師不足」「自らのスキルアップ」を理由に参加

研修生は40人の応募者の中から選抜された。30人中9人は同大附属病院および同大附属さいたま医療センターに勤務する看護師で、残りの21人は1道11県の公立病院や民間病院、訪問看護ステーションなどに勤める看護師だ。臨床経験年数は5~31年と幅広く、最も多いのが臨床10~20年。臨床工学技士や認定看護師などの資格保持者も散見される。

 

オリエンテーションの中で行われた自己紹介では、北海道や秋田県、山形県、群馬県、島根県など医師不足地域の病院に勤める研修生から、「深刻な医師不足により患者さんが不利益を被っていることを実感しており、状況を改善したいと思った」(公立病院ICU勤務)、「医師不足の一方で、救急車の受け入れ台数が年々増えており、自分自身ができることを増やしたいと思った」(民間病院救命救急センター勤務)――といった受講動機が聞かれた。

 

訪問看護ステーションからの参加は6人で、訪問看護師歴10年の看護師は「今後もこの仕事を続けていくに当たり、スキルアップしたいと考えた」と受講理由を述べた。そのほか、「若いスタッフが将来こうしたことに主体的に取り組めるように、自分自身がモデルになりたいと思い、受講を決めた」といったベテラン層の参加もあった。

 

自治医科大学の特定行為研修は、働きながら受講することを想定してプログラムが設計されており、試験や実習以外の授業は、主にeラーニングで行う。学習サイト上では、受講者同士が交流できるほか、指導者・指導補助者のアドバイスを受けられるなど双方向のやりとりが可能であり、受講者が学習意欲を保てるよう工夫されている。今後も半年ごとに30人ずつ全国から受講生を募集する計画で、早ければ受講開始後1年で研修修了証を手にすることができる。(詳細は、同大学の研修生募集要項を参照)。

 

「地域の病院や訪問看護ステーションなどに事前にヒヤリングしたところ、医師の具体的指示により特定行為を実施した経験が既にある看護師であっても、一定の教育や根拠に基づいて実施できているかといえば、必ずしもそうではなかった。また、『どこまでのことを自分がやればいいのか』『行為を行ったはいいが、本当にこれでいいのか』といった不安を抱いている看護師が相当数いることも分かった」。

 

副センター長で看護学部長の春山早苗氏は、医療現場の実情をこう語る。

それゆえ、「特定行為研修は、根拠を持って医行為が実践できるようになるための制度と理解してもらいたい。また、研修を修了することも大事だが、学んだことを自施設でどう生かしていくかや、研修修了後の研鑽についても念頭に置きつつ受講してほしい」と研修生に説明した。

 

指定研修機関への申請に難渋する施設も

10月の制度開始のタイミングで指定を受けた研修機関は、自治医科大学を含めて全国に14機関ある(表)。うち半数近くを占めるのが大学院だ。これらはいずれも、「NP大学院教育協議会」傘下の大学院で、米国のナースプラクティショナー(NP)教育をモデルに、制度に先行して特定行為に関連した教育を進めてきた(コラム「NP養成の舞台裏」参照)。制度開始後はその大半が、38行為(21区分)全てを学ぶ教育プログラムを提供する計画だ。

 

ほかにも、大学、病院、医療関係団体など、指定研修機関の運営主体は多様で、研修内容も1区分(2行為)のみのところから21区分(38行為)全て申請したところまで様々ある。

 

 

2015年10月1日付で指定を受けた指定研修機関一覧

2015年10月1日付で指定を受けた指定研修機関一覧 (続き)

 

国は、各指定研修機関が養成したい修了生像や院内・地域などのニーズに応じて、研修プログラムを柔軟に組み立てられるようにしている。研修で学ぶべき事項や研修方法、研修の評価方法などは省令や施行通知で細かく規定しており、研修内容の標準化を図ってはいるものの、制度が始まれば、現場での教育から大学院教育まで、多様な特定行為研修を修了した看護師が誕生することになる。

 

 

指定研修機関は今回指定を受けた14機関以外にも、今後さらに増えるものと予想されるが、中には、指定研修機関の申請を巡って学内・院内での調整に難航している大学・医療機関もある。

 

「医師の立場で特定行為研修に関心はあるが、看護学部も附属病院の看護部も積極的に検討する様子はなく、共通科目の講義を行えるほど医師にも余裕はない。今のままでは当大学では実施できないだろう」。ある地方大学医学部の助教授はこう漏らす。一方、ある地方の総合病院の看護部長は、「意欲のある認定看護師がおり、指定研修機関となって研修を行いたいと考えたが、医師の協力・理解が得られず断念した」と明かす。制度の普及には指定研修機関の整備が不可欠だが、職種や診療科の垣根を越えた新たな取り組みである上、研修体制の構築そのものにもかなりの労力を要する。

 

冒頭の自治医科大学看護師特定行為研修センターは、センター長に副学長の簑田清次氏(同大アレルギー膠原病学部門教授)が、副センター長に春山氏が就任し、両氏のもと、村上礼子氏(同大看護師特定行為研修センター教授)、石川鎮清氏(同大医学教育センター教授)、讃井將満氏(同大附属さいたま医療センター集中治療部教授)の3人が研修責任者を務める。さらに、学内外の67人の医師が指導者として、また、看護学部教員や附属病院の看護師、薬剤師、臨床工学技士など計56人が指導補助者として、それぞれ研修に関わる充実ぶりだが、同大のような全学を挙げた体制づくりは、他施設にとってはなかなかハードルが高いようだ。

 

【お知らせ】

日経メディカルAナーシングでは10月の制度開始に合わせて、書籍『看護師特定行為研修まるわかりガイド』を発刊します。目次など詳細はこちらをご覧ください。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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