医師と看護師の役割分担を考える―患者さんが「言えること」と「言えないこと」

医師から看護師へ伝えたいこと【14】

医師と看護師の役割分担を考える―患者さんが「言えること」と「言えないこと」

 

看護師のコミュニケーション能力が、医療現場を救う

患者さんは、医師に対しては本音を言わないことがあります。

医師に対して、「上からでなんだか怖い」とか「言うことを聞かないと怒られそう」もしくは「治療方針に逆らったら、今後きちんと治療してくれないんじゃないか」などと感じてしまい、言いにくいという話はよくにします。

 

また、医師が1人の患者さんに接する時間が看護師よりも短いのは事実です。(外来診療、病棟管理、手術など、院内にいても様々な仕事があるため。)

そのため患者さんも、医師よりも長い時間自分の側にいてくれる看護師の方が話しやすかったり、自分の本音を言いやすいのだと思います。

 

そんな患者さんは、いつも患者さんの身の回りの看護をしてくれている看護師に対してだけ、こっそりと本音を漏らすことがあります。

 

「先生はこう言っていたけれど、本当はこういう治療方針を望んでいる」

「さっきは言いそびれたが、昨日からずっと〇〇の部分が痛くて辛い」などです。

 

「看護師さんにだけはこっそり言える」本音が治療のカギになる

入院期間中に、病気の精査をするため様々な検査の予定を組んでいた患者さんがいました。

 

病棟に行って、その患者さんに今後の予定をお話した際には、「先生の言う通り、検査をして悪い所は早く見つけたい」とおっしゃっていたので、私自身、検査に対しては前向きなのだと思っていたところ、担当の看護師に対しては「検査ばかりで気持ちが落ち込む・・」とこぼしていたことがありました。

 

患者さんは、「お医者さんがせっかく検査を組んでくれたから、その意見に反したことを言うのは失礼だろう」と、余計な気遣いをしていたようです。

この話を看護師から聞き、再度時間をとって患者さんの意見を丁寧に聞きなおしたことがありました。その上で、納得した入院計画を組み直しました。

 

看護師の洞察力と情報収集能力が治療をスムーズにする

医師は日々の忙しさにかまけて、患者さんとじっくり時間をとって話すことができないため、このような訴えを聞き出せないことが多々あります。

そのため医師が良かれと思って投薬するものが、必ずしも患者さんにとって良いものとは限りません。担当の看護師から患者さんの補足情報をいただくことで、再度治療方針を見直すことがあるのですが、その度に私は、看護師の洞察力と情報収集能力に深く感謝します。

 

医師ではできない説得をできるのが、看護師

しかし、患者さんが頑なに拒否していても、やらなければ命の危険に関わるような治療もあります。

医師が説得しても、半ば意地になって治療を拒否する患者さんの場合はどうすることもできず、お手上げ状態になってしまうことがあります。

そんなときに物腰の柔らかいベテラン看護師が、子どもをあやすような語りかけで、患者さんを説得してくれたこともありました。

 

看護師は、常に患者さんの最も近くにいる存在であると同時に、医師が円滑に治療を行う上で、いなくてはならない大切な存在です。患者さんへの看護師の声掛け一つで、周囲の雰囲気がパッと明るくなることが多くあり、その雰囲気こそが医療を行う上で大事なのです。

 

医師は患者さんの病気を治すことに専念するべきです。もちろん、患者さん自身をみて、心のケアも出来れば尚良いでしょう。

しかし、医師だけでは、病気の患者さんの心のケアをするには十分でないことも多々あります。

そのときに必要なのが看護師だと、私は考えます。

 

「病」に寄り添うのが医師の役目。

「心」に寄り添うのが看護師の役目ではないでしょうか。

 

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