生体弁とは・・・
人工弁(代用弁)は人工物からできた機械弁と、亡くなったヒトや動物の弁、心膜など生体由来の組織でつくられる生体弁の2種類に大別される。生体弁とは、生き物を材料として加工された人工弁をさす。
心臓弁膜症、先天性心疾患、感染性心内膜炎など、様々な要因によって心臓弁の狭窄や逆流などが生じ、心臓弁機能を果たせなくなった弁は、「弁形成術(弁の手直しをする)」あるいは、「弁置換手術(弁を入れ替える)」が選択される。弁置換手術の際に使用する代用弁の選択肢として「生体弁」と「機械弁」がある。
生体弁の種類
生体弁は異種生体弁、同種生体弁、自己生体弁の3種類に分けられる。
異種生体弁
人間以外の動物の生体材料でつくった生体弁である。主にウシの心膜やブタの心臓弁が使用され、ヒトの心臓に使用するため入念に処理される。臨床で最も使用される生体弁である。
同種生体弁
ヒトの死体、または脳死体から摘出した弁を凍結処理したものである。通称:ホモグラフト
自己生体弁
患者の肺動脈弁を大動脈弁に移植する。オートグラフトとも呼ばれる。
形態
ステント付き弁
弁を支える役割を果たしているステントは弁を維持し、カタチを整える役割を果たす。弁の部分は牛またはブタの心膜が使用されており、弁を支えるステントの部分は人工物からできている。また、心臓に縫い付ける縫いしろの部分も人工繊維からできている。
利点:弁がゆがみにくく、カフが人工弁リングの外側にあるため心臓の弁に縫い付けやすい。
欠点:人工リングとカフの幅があることで、血液が流れる面積が狭い。
ステントレス弁
ステントが付いていないものであり、原材料にはブタの大動脈弁が使用されている。
利点:固い部分がなく弁の柔軟性が保たれ、様々な状況で心臓に馴染む。人工部分が少なく、弁の耐用性が優れている。
欠点:縫いしろが狭いため縫合に技術を必要とする。形状から置き換えることのできる部位が、大動脈弁と肺動脈弁に限られている。
生体弁の長所と短所
長所
・抗血栓性に優れている。
手術後3~6か月以降は抗凝固剤(ワーファリン®)を服用しなくてもよいケースが多いことから、抗凝固剤による出血関連の合併症や、妊娠時の催奇形性、妊娠経過の出血などの合併症のリスクが軽減される。このため、出産したい若い女性や肝機能障害を合併する患者、消化性潰瘍を合併する患者に使用されることも多い。
短所
機械弁と比べ耐久性が劣り、経年的には弁機能不全(狭窄や逆流)をきたす。特に小児や若年層の患者は劣化が早く進む傾向にある。また、カルシウムの代謝で生体弁は早く劣化するため、透析の患者、カルシウム血症の患者は生体弁よりも機械弁のほうが推奨されている。
10~15年で再手術が必要になる可能性があることから、若年者よりも高齢者(70歳以上)に適応されることが多い。