死腔|“コレ何だっけ?”な医療コトバ
『エキスパートナース』2015年4月号(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
死腔について解説します。
島 惇
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門)
布宮 伸
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門) 教授
〈目次〉
死腔(dead space)とは?
死腔は、なぜ起こる?(メカニズム)
死腔には2種類あります。「解剖学的死腔」と「生理学的死腔」です。
①解剖学的死腔
気道のうち、解剖学的に肺胞が存在しないためガス交換には直接関与しない、鼻腔から終末細気管支までのスペースのことを言います。正常成人ではこの解剖学的死腔の量は、1回換気量の30%程度を占めています(150mL程度)。
②生理学的死腔
解剖学的死腔に肺胞死腔を加えたものです。
肺胞死腔とは、換気されているにもかかわらず血流がないもしくは非常に少ないためガス交換に寄与しない、肺胞における死腔(図1)のことを言います。
正常な状態では、解剖学的死腔と生理学的死腔はほぼ同じになります。すなわち、肺胞死腔はほとんど存在しません。
これが病的な状態になり肺胞死腔の増加、ひいては生理学的死腔が増加すると、酸素化能の悪化、血中二酸化炭素の貯留をきたすことになります。
死腔のポイント
死腔の変化する原因を知ろう
それではどんなときに死腔は変化するでしょうか(表1)。
①解剖学的死腔が変化する場合
解剖学的死腔は先に述べたように、鼻腔から終末細気管支までのスペースを指します。そのため、気管挿管をした場合には鼻腔から気管までのスペースが気管チューブに置き換わるため、解剖学的死腔は減少することになります。
一方で、人工呼吸でPEEPなどにより肺気量が増加する場合には、気道が牽引されることで解剖学的死腔は増加します。
②生理学的死腔が増加する場合
生理学的死腔は、換気されているにもかかわらず血流がない、もしくは非常に少ない場合に増加します。
具体的には、肺血栓塞栓症(PTE)により肺胞への血流が途絶した場合や、COPDなどで肺胞換気に比べて肺血管床が極端に減少した場合が挙げられます。また重症の喘息でも死腔は増加します。
死腔にどう対応する?
治療介入が必要なのは、多くの場合、生理学的死腔が増加し、低酸素血症、高二酸化炭素血症をきたした場合です。 生理学的死腔を減少させるには、原疾患の治療が不可欠です。
例えば、肺血栓塞栓症では抗凝固療法や血栓溶解療法による血栓除去、COPDや喘息では気管支拡張薬や吸入ステロイドの使用により生理学的死腔を減らすことができます。
またこれらの治療で十分でない場合には、NPPVや人工呼吸器の使用を検討する必要があります。
コラム「シャント」とはどう違う?
死腔と間違えやすい概念として、シャントという言葉があります。シャントとは、「換気のある肺胞領域を通過することなく、動脈系に直接流入する血液」を指します。
例えば、無気肺の部分を流れる血液はシャントです。ほかにも、肺動静脈瘻や急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome、ARDS)などでもシャントを生じます。
[引用文献]
- 1.日本呼吸療法医学会セミナー委員会 編:ナースのための人工呼吸Q&A200.メディカ出版,大阪,2010:12.
- 2.大地陸男:生理学テキスト(第7版).文光堂,東京,2013:341.
- 3.桑平一郎 訳:ウエスト呼吸生理学入門・正常肺編.メディカルサイエンスインターナショナル,東京,2009:65-67.
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P.42~43「死腔」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社