産婦人科の一般(開腹)手術後ドレナージ
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は産婦人科の一般(開腹)手術後ドレナージについて説明します。
綾部琢哉
帝京大学医学部産婦人科主任教授
保科織衣
帝京大学医学部附属病院看護部(5階東入院室)副主任
池田彩乃
帝京大学医学部附属病院看護部(5階東入院室)
《産婦人科の一般(開腹)手術後ドレナージの概要》
主な適応 |
癒着剥離面が広く止血が困難であった場合、他臓器を損傷・修復した場合、リンパ節郭清術後 |
目的 |
①治療的ドレナージ:術後に貯留したリンパ液や血液、膿瘍を排液する ②予防的ドレナージ:術後出血、リンパ節郭清術後のリンパ液漏出、肥満患者の融解皮下脂肪を排出し、感染や死腔形成・液体貯留を予防する ③情報ドレナージ:術後に起こりうる臓器穿孔や縫合不全を早期発見・対応する |
合併症 |
異物反応、逆行性感染、腸管・血管の損傷、挿入部位の瘻孔形成・瘢痕ヘルニア |
抜去のめやす |
排液量が減り、施設ごとの規定量を下まわれば抜去する 情報ドレーンは目的に応じて判断する |
観察ポイント |
挿入部(出血・発赤・腫脹)および排液の性状、持続吸引式のものであれば効果的な排液管理のため陰圧が適切にかかっているか確認する |
ケアのポイント |
固定方法:ドレーン挿入部が観察しやすいようドレッシング材を用いる、2か所に固定して抜去を防ぐ 患者指導 :体動時や排液バックの位置について患者指導を行い、抜去や逆行性感染を防ぐ |
〈目次〉
- 産婦人科の一般手術後ドレナージの定義と目的
- 産婦人科の一般手術後ドレナージの適応と禁忌
- 産婦人科の一般手術後ドレナージの挿入経路と留置部位
- 産婦人科の一般手術後ドレナージの合併症とその対策
- 産婦人科の一般手術後ドレナージの利点と欠点
- 産婦人科の一般手術後ドレナージのケアのポイント
産婦人科の一般手術後ドレナージの定義と目的
1治療的(排液)ドレナージ
術後に貯留したリンパ液や血液が、大きい腫瘤として他臓器を物理的に圧排している場合(尿管圧迫など)や、感染して膿瘍を形成している場合などでは、排液するためにドレーンを留置する。
ドレーンの挿入は超音波検査下に病室で、あるいは手術室で麻酔下に切開(ないし開腹)して行う。
2液体貯留を防ぐ目的での予防的(排液)ドレナージ
癒着剥離面からの術後出血、リンパ節郭清術後のリンパ液漏出、肥満患者での皮下脂肪の融解などに対して、それらの液体を排出し、感染や死腔形成・液体貯留を予防するためにドレナージする。
3早期診断目的での情報ドレナージ
腸管・尿管などの諸臓器を、癒着剥離の際に損傷した可能性がある場合、あるいは術中に修復した場合、術後に起こりうる臓器穿孔や縫合不全を早期に発見し、対応できるようにドレナージする。
剥離面からの出血では、ドレナージから情報を得て量が多ければ再手術することもあり、予防的ドレナージと重複する部分もある。
産婦人科の一般手術後ドレナージの適応と禁忌
産婦人科手術の特徴として、表1の項目が挙げられる。
これらをふまえて、ドレナージの適応となるのは、①癒着剥離面が広く止血が困難であった場合、②他臓器を損傷・修復した場合、③リンパ節郭清術後である。
禁忌は後述する合併症とも関連するが、合併症を起こしやすい例を予知することは難しく、禁忌といえるほどのものは特にない。
予防的ドレナージの効果に関しては否定的な報告もある。
産婦人科の一般手術後ドレナージの挿入経路と留置部位
ドレーンから液体が排出されるのは、①重力による自然排出、②毛細管現象による吸い出し、③周辺臓器からの内圧による押し出し、④陰圧による持続吸引のためである。
留置部位は、膿瘍などの治療目的では①該当する部位に直接留置し、予防ないし情報目的では②術後仰臥位で液体が貯留しやすい最深部(産婦人科手術ではダグラス〈Douglas〉窩や骨盤底)や③癒着剥離部位や出血が予想される部位などの局所、である。
これらを組み合わせて考えると、後腹膜腔(図1-❶)や腹腔内のダグラス窩(図1-❷)に先端部を挿入したドレーンを腹壁から出す場合には、重力や毛細管現象に頼ってもドレナージ効果は不十分である。腔の片側の壁が骨盤になるため、内圧による押し出しも期待できない。したがって、陰圧をかけられるドレーン(低圧持続吸引システム)を利用することになる。
腸管に囲まれた膿瘍のドレナージは、陰圧が強いと腸管を巻き込む場合があり、腸管蠕動運動による内圧により排液されるのを待つほうがよい。
皮下の浅い部位では毛細管現象でも対応可能であるが、近年は細いチューブで陰圧吸引する場合もある。
骨盤リンパ節郭清術後は、ドレーン抜去後にもリンパ液が貯留しリンパ囊胞炎や膿瘍形成が起こりやすい。下肢から上行性に流れるリンパ液の漏出を完全に防止しようとすると下肢に貯留したリンパ液により下腿浮腫が起きる(それに対して下肢リンパ管と細静脈とを形成外科的に吻合する手術もある)。
近年、骨盤腹膜を縫合閉鎖せずに開放したままとし(図2)、下肢からのリンパ液が腹腔内に誘導され腹膜から吸収されるのを期待する術式も工夫されている1,2。
産婦人科に特徴的な方法として、腟管を排液ルートとして用いる方法3がある(図3)。
子宮摘出術後、腟断端をボタン穴のように周状に縫合止血して開放し、歩行後に重力による自然排出を期待する。この場合は腟断端周辺の後腹膜は縫合閉鎖して腸管の腟からの脱出を防ぐ。腟断端は術後2か月ほどで自然閉鎖する。
産婦人科の一般手術後ドレナージの合併症とその対策
1異物反応
異物反応(発熱、疼痛、滲出液増量)に対しては、排液量に応じてなるべく早くドレーンを抜去することで対応する。
2逆行性感染
逆行性感染には低圧持続吸引システムの利用や、ドレーン先端をバックにつなぎ経路を閉鎖する方法などで対応する。腟断端開放例では数日ごとに消毒してもよいが、エビデンスに乏しい。
3腸管・血管損傷
腸管や血管などの損傷を起こさないようにするためには、強い陰圧を避ける必要がある。
4瘻孔形成・瘢痕ヘルニア
挿入部位の瘻孔形成・瘢痕ヘルニアは、腹壁の筋層・脂肪層のドレーン通過ルートがずれるように刺入経路を工夫し(図4)、早期に抜去することで予防を図る。
5その他
ドレーン抜去時には諸臓器を引っ掛けないように粗暴な操作を慎むこと、引っ掛かったときは一度休んで少しずつ抜くこと、必要があれば超音波検査やCTなどで確認すること、ドレーンが体内に落ちることを防ぐために固定法を工夫すること、などは一般的な注意である。
産婦人科の一般手術後ドレナージの利点と欠点
利点:目的を参照されたい。
欠点:合併症を参照されたい。欠点を防止するためには、ドレーンを適切な時期に抜去する必要がある。
排液目的のドレーンは、排液量が減り施設ごとの規定量を下まわった時点で抜去する。
情報目的のドレーンは、目的に応じて判断する。例えば、剝離面からの出血を知る目的のときは、1~2日で抜去してよい。縫合不全の早期発見が目的のときは、1週間程度で考慮する。
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時代とともにドレーンの材質や吸引法も進歩している。行っている行為の意味と目的を理解して応用できるような自己啓発の継続が重要であろう。
産婦人科の一般手術後ドレナージのケアのポイント
婦人科の開腹手術後は、前述の通り、ダグラス窩や骨盤底など術後仰臥位で液体が貯留しやすい部位にドレーンを留置することが多く、効果的なドレナージが行えるよう管理する必要がある。
1観察したいポイント
手術室から病棟へ帰室した際、巡視ごと、勤務交代時には必ず挿入部の観察と排液の性状、持続吸引式のものであれば効果的な排液管理のため陰圧が適切にかかっているか確認する。
観察項目としては、挿入部からの出血・発赤・腫脹に注意する。
2固定のコツ
ドレーンの屈曲や予定外抜去を防止するための固定も工夫する必要がある。婦人科のドレーンは腹壁から垂直に近い形で挿入されてくることが多いため、ドレーンを挟むように2枚のフィルムドレッシング材を貼付し、ドレーン挿入部が容易に観察できるように配慮する(図5)。
透明なフィルムドレッシング材のほかに、腹部へもう1か所ドレーンを固定することで、ドレーンが不意に引っ張られてしまった際にも直接挿入部に力が加わらないようにできるため、予定外抜去の予防に効果的である。
固定の際、テープとドレーンに油性マジックでマーキングを行うことで、固定のゆるみを早期発見することもできる。
3患者指導
ADLが自立している患者には、体動時にドレーンが引っ張られないようにする、ドレーン排液の逆流防止のため、ドレーンバックは必ず挿入部より下になるようにするなどの注意点を伝え、予定外抜去や感染予防を含めた指導を行う。
[引用・参考文献]
- (1)永田一郎:広汎子宮全摘術後の骨盤腹膜処理 骨盤腹膜の縫合に関 して、するべきか、しないほうがよいか.産科と婦人科 2008;75(2): 151-161.
- (2)角田肇:婦人科がんリンパ節郭清に骨盤後腹膜縫合は必要か われわれが行ったランダム化比較試験の成績から.産科と婦人科 2008; 75(2):169-175.
- (3)藤堂幸治,森脇征史,保坂昌芳,他:リンパ節郭清術後のドレナージ. 産科と婦人科 2008;75(2):176-181.
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[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社