原発性線毛機能不全症候群(PCD)の疾患解説

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

今回は、気道疾患である「原発性線毛機能不全症候群(PCD)」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

原発性線毛機能不全症候群は、とても珍しい疾患です。
教科書にも載っていないと思うので、おそらく名前も聞いたことはないんではないでしょうか。

 

はい。まったく聞いたことも、見たこともありません。

 

ただ、名前は覚えにくい疾患ですが、X線画像では、とても特徴的な所見が見られます。
詳しくは、これから解説しますが、心臓の位置が逆になっている内臓逆位という状態です。

 

心臓の位置が逆になっているんですか!?
そんなX線画像、見たことありません。

 

珍しいものですからね。ただ、一度見たら忘れられないと思います。
疾患自体、とても珍しいので、内臓逆位のX線所見と合わせて覚えることをオススメします。

 

〈目次〉

 

原発性線毛機能不全症候群の基礎知識

原発性線毛機能不全症候群(primary ciliary dyskinesia:PCD)とは、呼気性の肺障害で、気管支拡張症に伴う先天性の疾患です。

 

原発性線毛機能不全症候群の頻度は、約15万~20万人に10人の割合で、まれな疾患と言えます。

 

原発性線毛機能不全症候群の病状

原発性線毛機能不全症候群は、常染色体の劣性遺伝によって、先天性の線毛器官の構造異常と機能不全を起こします。線毛が機能不全になるため、男性不妊症や慢性下気道感染症など、多彩な病状を生じます。

 

原発性線毛機能不全症候群以外にも気管支拡張症を伴い、笛音やいびき音が聴こえる疾患は多数あります。しかし、線毛器官の先天性構造異常を呈する代表的疾患が、原発性線毛機能不全症候群です。

 

原発性線毛機能不全症候群の患者さんの半数がカルタゲナー症候群

原発性線毛機能不全症候群の症状のなかで、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位の3つの徴候を伴うものを、カルタゲナー(Kartagener)症候群と呼びます。原発性線毛機能不全症候群の患者さんのうち、50%の患者さんがカルタゲナー症候群です。

 

memoカルタゲナー症候群の歴史

カルタゲナー症候群は、下記のように、数多くの医師の報告によって、認められてきました。

 

・1903年:Siewert(ジーベルト)によって、初めて報告される

 

・1933年:Kartagener(カルタゲナー)によって、より詳細な報告がされ、「カルタゲナー症候群」の名前が使われる

 

・1975年:Afzelius(アフセリウス)らによって、カルタゲナー症候群の患者さんの精子の鞭毛において超微細構造上の異常を指摘する

 

原発性線毛機能不全症候群の画像所見

原発性線毛機能不全症候群の代表的なX線画像が、図1です。

 

図1原発性線毛機能不全症候群の患者さんのX線画像

 

原発性線毛機能不全症候群の患者さんのX線画像

 

心臓(青色ライン)や泡(黒矢印)、大動脈(黒矢頭)など、内臓の位置が左右逆になっています。

 

通常、胃や心臓は左側にあるため、X線画像では右側に映っています。しかし、図1を見ると、胃泡や心臓、大動脈が右側にあり、通常と反対側にあるのがわかると思います。この症状を、内臓逆位と言います。内臓逆位の中で最も多いものが、心臓の逆位と言われています。

 

memo内臓逆位は2種類に分類

内臓逆位には、部分的な内臓の位置が逆になっている部分内臓逆位と、すべての内臓が逆になっている完全内臓逆位の2種類に分けられます。図1は完全内臓逆位です。

 

・部分内臓逆位:心臓のみの位置が右にある。

 

・完全内臓逆位:心臓を含めて、体全体の内臓が左右逆になっている。

 

原発性線毛機能不全症候群の治療

原発性線毛機能不全症候群の治療法には、根治療法がありません。そのため、慢性下気道感染症に対する抗菌薬治療が主体になります。また、喀痰の低下を期待して、マクロライド系抗菌薬の投与を行うこともあります。

 

また、若年者の場合、肺移植なども考慮されることがあります。

 

聴診時に気をつけるポイント

原発性線毛機能不全症候群の患者さんは、前胸部の中肺野(中葉、舌区)や下肺野を中心に聴診します(図2)。

 

 

図2原発性線毛機能不全症候群の患者さんに行うべき聴診の位置

原発性線毛機能不全症候群の患者さんに行うべき聴診の位置

 

前胸部の中・下肺野を中心に聴きましょう。

 

これは、原発性線毛機能不全症候群の病変が中肺野(中葉、舌区)に好発するためです。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

線毛異常のある患者さんは、しばしば“ブロンコレア(気管支漏)”という痰が途切れることなく出てくる状態になりますので、アセスメントの際、気をつけて下さい。

 

また、患者さんのなかには、痰の喀出がうまくできず、多量の痰によって、呼吸音が「ヒューヒュー」「グーグー」と聴こえることもあります。

 

Check Point

  • 原発性線毛機能不全症候群とは、気管支拡張症を伴う先天性の気道上皮の障害で、まれな疾患。
  • 原発性線毛機能不全症候群の患者さんでは、心臓の位置が逆になるなど、内臓逆位の症状が見られる。
  • 原発性線毛機能不全症候群の患者さんを聴診する場合は、前胸部の中肺野を中心に聴こう。

 

次回は、カルタゲナー症候群の患者さんの聴診音を聴いて、特徴をしっかりと覚えましょう。

 

[次回]

カルタゲナー(Kartagener)症候群患者さんの聴診音

 

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  • ⇒『聴診スキル講座』の【総目次】を見る

 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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