気道と肺の構造|基礎編(3)

 

聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説します。
構成は、聴診器の使い方から呼吸器の構造を解説した【基礎編】と、疾患の解説と筆者が臨床で遭遇した症例の聴診音を解説した【実践編】の2部に分かれています。基礎編は全8回にまとめましたので、初学者はまずはここからスタートしてください。

 

[前回の内容]

聴診器の使い方|基礎編(2)

 

第3回目は、「気道と肺の構造」についてのお話です。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

聴診器の仕組みや使い方は理解できたと思いますが、私たちの身体の構造については理解できていますか?
特に呼吸音を聴くためには、気道や肺といった呼吸器系の構造と機能をしっかりと理解しておくことが大切です。

 

実は…学生の頃から解剖生理が苦手で、組織の構造や機能がよくわかっていないんです。

 

そうですか。最近は、看護師さんだけでなく、若いドクターにも解剖生理が苦手な人もいるぐらいですからね。

 

ドクターでも解剖生理が苦手なんですか!?

 

それでは、気道と肺の構造と機能について簡単に説明するので、頑張って覚えて下さい。

 

〈目次〉

 

呼吸器系は空気の交換を行うための組織

私たちは、呼吸によって酸素と二酸化炭素を交換し、エネルギーを取り入れて、普段の生活を送っています。この空気の交換を行っているのが、呼吸器系と呼ばれる組織です。

 

呼吸器系は、大きく分けると気道と肺の2つの組織に分けられます

 

気道は空気の通り道

気道とは、肺につながる細長い管で、や口から空気を取り入れて肺まで送る空気の通り道です。一般的に、「気管」や「気管支」と呼ばれる組織です。

 

気道は、肺に向かって分岐を繰り返して細くなっていきます。鼻と口にあたる鼻腔と口腔を起点にして、気管→左右主気管支→肺葉気管支→区域気管支→亜区域気管支の順に分岐を繰り返して、肺の中にある肺胞(肺胞嚢)に到達します(図1)。

 

図1気道の構造

 

気道の構造

 

黄色の網:気道、青色の網:肺。

 

複雑に分岐する気管支

気道は、分岐を繰り返して肺胞まで進んでいきますが、分岐は合計で23回も繰り返されます。

 

第1の分岐は気管が左右の主気管支に分かれるところですが、ここから16分岐目までを導管領域と言い、17分岐目を終末細気管支(terminal bronchioles:TB)と言います。そこから数本の呼吸細気管支(respiratory bronchioles:RB)を分岐し、さらに数本の肺胞道(alveolar duct:AD)へと分岐を繰り返し、最終的に、23分岐目で肺胞に到達します(図2)。

 

図2気管支の分岐構造

 

気管支の分岐構造

 

memo気管と気管支にある骨と筋肉

気管から区域気管支までの気道には、弾力性に富んだ軟骨があります。軟骨は、正確に言えば、骨とは全くの別物で、脊椎動物で発達している組織です。

 

また、気管から呼吸細気管支までには、平滑筋と呼ばれる筋肉があります。平滑筋は、自分の意志とは無関係に動く筋肉で、人間が生きていくために必要な動きを担っています。代表的な平滑筋のある臓器としては、消化管の内臓の壁などがあります。

 

左右に分かれている肺

肺は、背骨や肋骨などで囲まれた胸郭の中にあり、左右2つに分かれて存在します。身体の中央よりやや左側に心臓があるため、右肺の方が左肺より若干大きいという特徴があります。

 

肺の構造は、右肺が3葉(上葉、中葉、下葉)に、左肺が2葉(上葉、下葉)に分かれています(図3)。

 

図3肺の構造

 

肺の構造

 

「葉」と「肺野」は違う位置

肺の位置は、上葉、中葉、下葉と呼ぶ以外に、「肺野」と呼ぶこともあります。

 

上肺野は鎖骨と第2肋骨の間を、中肺野は第2肋骨から第4肋骨までの間を、下肺野は第4肋骨より下部を指します。ドクターが書くカルテや病院内の資料などで、これらの言葉が出てきた際には、肺のどの部分を指しているかイメージできるようになりましょう。なお、上葉と上肺野(中葉と中肺野、下葉と下肺野も同様)は、同じ位置ではありませんので、注意してください。

 

また、肺の側面部分のことを「側」という漢字を用いて呼びます。右肺の側面部分は「右側」、左肺は「左側」、両方の肺は「両側」といった具合ですので、併せて覚えておきましょう。

 

例えば、第5肋骨あたりで、両方の肺の側面部分のことを「両側下肺野」と呼びます。

 

ガス交換は肺胞表面の血管で

呼吸で取り入れられた空気は、分岐を繰り返す気管を通り、肺の中にある肺胞に到達します。酸素と二酸化炭素のガス交換は、この肺胞で行われます。

 

また、肺胞には肺静脈と肺動脈があり、肺胞の表面には肺胞毛細血管網と呼ばれる毛細血管が走っています。この血管から、二酸化炭素が排出され、酸素は血管に取り入れられ、全身に酸素が運ばれます。

 

memo気管支でガス交換は行われない

呼吸器系は、酸素と二酸化炭素のガス交換を行う臓器ですが、呼吸器系のすべての組織でガス交換を行うわけではありません。口腔から終末細気管支までの領域は解剖格的死腔とも呼ばれ、ガス交換には直接関与していません。

 

Check Point

  • 呼吸器系の構造は、大きく分けて気道と肺に分かれる。
  • 気管(気道)は奥に行くにつれて、分岐を繰り返して細くなり、23分岐目に肺胞に達する。
  • ガス交換は、気管支では行われず、肺胞で行われる。

 

[次回]

呼吸音が聴こえる仕組み|基礎編(4)

 

 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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