看護師は「わざわざなる価値のある」資格なのか|社会人から看護師へ【1】

近年、「社会人からの看護師」が増加しています。つまり、看護師以外の就労経験を経て看護師になる人が増えている、ということ。

 

わたしもそうです。

それから10数年看護師を続けてきました。今となっては黙っていれば誰もわたしが社会人経験後に看護学校に入り、看護師になったと気づく人はいません。年齢相応に任されることや相談されることも増え、指導担当者の考えていることや気を遣っていることもよくわかるようになりました。さぞかし新人のわたしをどう扱うべきか頭を悩ましただろうなと、当時の(年下だった)プリセプターに詫びたい気持ちに時々なります。しかし同時に、居心地の悪さをどこかしら感じながら、それでもやっていこうとしてる社会人入学看護師にも、何かできることはないかとも考えてきました。

 

社会人から看護師へ【1】  Vol.1 看護師は「わざわざなる価値のある」資格なのか

 

それだけ、社会人を経て看護師になるということは、しんどいものです。

 

ここ数年、わたしの勤める病院でも採用される新卒者の半分は社会人入学組です。もうこれだけ増えたんだから、ウェルカムじゃないまでもさすがに普通に受け入れられているだろうと思いきや、指導担当者たちから聞かされる話はわたしが新人だった頃とほとんど変わっていないんですね。わたしはそれがいつもツラくて(泣)

 

今回こちらで連載のお話をいただき、社会人入学看護師や、その指導者、両方を経験して思うことを書いていこうと思っています。両方の立場からのご意見や悩みをお寄せいただければ幸いです。

 

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社会人を経て、看護師になりました。中規模病院で働いたり世界を旅したり国際支援したりしているゆるふわナース15年目です。

 

社会人から看護師へ【1】

Vol.1 看護師は「わざわざなる価値のある」資格なのか

厚生労働省の発表によれば、看護師養成校の入学者の約16%が25歳以上、准看護師養成課程ではその割合は50%にものぼります。(

 

看護師資格は取得さえすれば景気動向に関係なくほぼ100%就職できる最強資格と言われており、またその取得に関して必要な学費などのコストも(奨学金やひとり親家庭のための高等職業訓練促進給付金をうまく活用して)低く抑えることができる、そして就職してからもある程度以上の給与は保障されており、今問題になっている「奨学金が返せない!」という問題も少ない、いわばローリスク-ハイリターンの優良案件…

 

であるかのように思われていますが果たして実際のところはどうなのか。

 

証券会社から看護学校で「学び直す」

私が看護師になったきっかけの話をします。

 

今からもう17年ぐらい前になるでしょうか、日本国内でもかなり大手の証券会社が倒産した頃、その大型倒産につられて勤めていた会社の経営が傾きはじめ、次の航海で沈む船からはネズミがこそっと逃げ出していくように、どこへ行くとも考えないままとにかく会社を辞めることにしました。上司から「次どうするか考えてるの?」と聞かれ、ここで決めてないと言うと関連企業のどこか(といってもどこも道連れになりそうな経営状態だった)に再就職を斡旋されそうな気配を感じ

 

「がっ、学校にでもまた…行きなおそうかなー…なんて…」とお茶を濁したその時初めて、あっ、また勉強しなおすって道があるじゃん、と気づいたのでした、遅いよ。

 

さてそれなら何を学び直そうかと考えたときに、一番最初にぶつかったのは「大人が勉強し直す」難しさでした。

当時、平成18年には日本国内の大学入学定員数と18歳人口がイコールになる「大学全入時代」に突入するとし、今後は社会人がまた戻ってきて仕事に必要な知識を学習する「リカレント教育」にシフトしていくこと、そういったモチベーションの高い社会人を受け入れることで大学の質を維持していくことが大学経営のカギになるのではないか、という新聞記事を読んだ記憶があるのですが、現実としてはまだ18歳の時点で大学に入学し、新卒で就職をし、といった「常道」が厳然とそこにあり、その時わたしはまだ20代後半でしたが、学費の問題もさることながら、その時点からまた大学を卒業したとしても、どうしたって新卒としての「常道」には戻れないのでした。

 

大した才覚もコネもない人間にとって日本の社会で「常道」に乗れないことは生きていく上で大きなハンデとなります。(それは現在でもあまり変わりはなく…いや、大学生の「就活」の大変さを見ると以前よりもっと厳しくなっているように思いますが。)

 

だったらいっそのこと、どんな学校を卒業しても、全員が一斉に同じ「国家資格」というラインからスタートを切る仕事がよいのではないか、と考え、わたしは看護学校を受験することにしたのでした。何よりこういった「景気」のように不確かなものに振り回される仕事はもうこりごりでした。

 

しかし看護学校受験のその時、わたしはまた問題に直面します。

 

「ご立派な経歴だけど、あなた別に今から看護婦にならなくたって」

受験生がみんな制服姿で。要はみんな現役高校生なのですよ!

 

これが結構なプレッシャーで。学科試験に関しては、こういうと申し訳ないのですが「これ高校受験の問題?」と思ったぐらいで、まったく肩すかしというかはじめから心配はしていませんでしたが、このどうしようもないアウェー感に関しては本当に途方に暮れてしまいました。

 

そして面接試験で、面接担当の教員がいきなりハァー、とため息をついてわたしの出願書類をポン、と机に投げて置くと

 

「いい大学行って、外国語も話せて、上場企業で働いてきて…、ご立派な経歴だけどあなたこれが看護の世界で通用すると思ってるの?それにあなた、いくらでも仕事はあるでしょう?別に今から看護婦(当時名称)にならなくたってねーえ」

 

と言ったのですよ確かに言った!こんな感じで言った!!最初わたしはどういう意味なのかよくわからず呆然としていたのですが、すぐに猛烈な勢いで腹が立ってきて

 

「ええそうですね、いくらでも仕事はあります。でもわたしは看護婦としてこの先ずっと働き続けたいと思い受験しました。今後この経歴が通用するかしないかは受験とはまったく別の問題だと思いますが、それが何か?」

 

と、心に拳を固めていつでも殴りかかれる準備をしながら、とりあえず笑顔で答えはしましたが。

 

さて受験ですらこうだったのですから、入学してからの学生時代も、新人として働き始めてからも…お察しください、それは追々お話していくことになると思います。

 

今でこそ冒頭のように社会人入学看護師も増え、看護学校にも社会人入学枠も設置されたりして、看護学校受験を勧めるサイトには「社会人経験で涵養された人間としての成長が看護の質の向上に云々」などという「社会人入学看護師としてのメリット」を強調するものもありますが、わたしが受験した17年前、ほとんどいなかった社会人入学者看護師というのは基本こんな扱いでした。いわば何かの間違いで呼んでもないのに紛れ込んできた規格外の「異物」だったのです。

 

 

(※)厚生労働省の2014年統計「看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査」によると全国のいわゆる「レギュラーコース」と言われる看護師養成校(3年課程、大学も含む)の1学年総定員数約2万7千に対し、25歳以上の入学者は約4500人(約16%)、准看護師養成課程については2014年の入学者数のおよそ半分が25歳以上というデータが出ています。

 

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