小児の経腸与薬の手順
『新訂第2版 写真でわかる小児看護技術 アドバンス』(インターメディカ)より転載。一部改変。
今回は小児の経腸与薬について解説します。
山元恵子
富山福祉短期大学看護学科長
経腸与薬は、経口与薬ができない場合や、血管確保が困難な場合に用いられる与薬法である。
薬剤は直腸粘膜から静脈叢に達し、全身に作用する。
小児への坐剤の挿入
適応
- 1悪心・嘔吐などがあり、経口与薬ができない。
- 2血管確保が困難な場合、痙攣時の緊急避難的な対応として、肛門から抗痙攣薬(静脈注射用)を注入し、全身作用を期待する場合がある。
確認ポイント
- 1肛門・直腸に奇形がないことを確認する。
- 2肛門周囲に炎症がないことを確認する。
- 3下痢をしていないことを確認する。
- 4直腸部に便塊がないことを確認する。
目次に戻る
坐剤の作用
薬剤を直腸粘膜から吸収する
坐剤は肛門から挿入し、直腸粘膜を通して静脈叢に達し、血行にのる(図1)。このため、消化管や経皮的静脈路を使用せずに、全身に薬理作用を及ぼすことができる。
図1 坐剤の作用
POINT
■挿入時、便塊がある場合は摘便を実施し、坐剤が吸収されやすい状態にする。
■挿入時の刺激により便意を生じる場合があるため、挿入後はしばらく肛門部を押さえて吸収を待つ。
目次に戻る
経腸与薬の目的
● 指示された薬剤を肛門から挿入し、直腸粘膜から吸収させる。
目次に戻る
経腸与薬の種類
- 1解熱薬坐剤・制吐薬坐剤・下剤・抗痙攣薬坐剤
- 2抗痙攣薬の注射液注入
目次に戻る
小児の経腸与薬の手順
1 必要物品の準備と患児の確認
❶手洗いをし、必要物品を準備(図2)。医師の指示と薬袋を指差しで照合する。坐剤は指示量に合わせる。
図2 経腸与薬の必要物品
①指示箋
②坐剤
③潤滑油(ワセリン・オリーブ油など)
④手袋
⑤ガーゼ(ディスポーザブル・クロス)
⑥膿盆(ビニール袋をかぶせる)
⑦おむつ
⑧お尻拭き
❷ベッドサイドで指示箋とネームバンドを照合し、患児であることを確認する(図4)。
患児に理解可能な言葉で説明を行い、できるだけ坐剤挿入の状態をイメージできるようにする。排便時間・便性、腹部の状態を確認する。
図4 指示箋とネームバンドで患児を確認
POINT
■最終の排便時間と便の性状を確認。
■腹満感など腹部の状態を観察。
EVIDENCE
■坐剤の挿入で排便が誘発されると、坐剤も排出されてしまう。
■便塊に挿入すると、薬剤の効果が期待できない。
目次に戻る
2 坐剤の挿入(乳児の場合)
❶ 坐剤の先端に潤滑油(ワセリンなど)を塗る(図5)。
坐剤を切って使用する場合は、切り口を滑らかにしておく。
図5 坐剤の先端に潤滑油を塗る
POINT
■坐剤に素手で触れると溶解や排泄物に触れる可能性があるため、必ず、手袋をはめる。
■坐剤挿入時には、感染予防の観点からも手袋を装着する。
❷ 乳児の場合は、仰臥位で足を上げた体位とする(図6)。
図6 仰臥位で足を上げる

❸まず、静かに指を第1関節まで挿入し、便塊がないことを確認。坐剤を先端部から、直腸壁に沿って挿入する(図7)。挿入後、1〜2分間、肛門部を押さえる。
おむつを整え、声かけをしてあやす。
図7 坐剤を挿入する

POINT
■挿入が浅いと、坐剤が排出されてしまうので注意。
■坐剤は、指の第1〜第2関節の深さに挿入する。
■薬剤が吸収されるまで、20〜30分かかる。
■坐剤が排出されていないことを確認。
EVIDENCE
■両足をそろえて保持して挙上すると、股関節脱臼を起こしやすいので注意。
■おむつを外したとたん、男児が排尿してしまった!
→ おむつを外したら、新しいおむつを陰部に乗せておくとよい。
POINT
幼児・学童の場合
■体位は左側臥位で、お尻を突き出すように寝かせる。
■挿入時、「あー」と発声させ、肛門括約筋の緊張を取り除く(図8)。
■立位での挿入は視野を確保できず、直腸粘膜の損傷を招くため禁忌!
図8 挿入時は「あー」と発声させる
目次に戻る
本連載は株式会社インターメディカの提供により掲載しています。
単行本に収録されているWeb動画は掲載していません。視聴されたい場合は、単行本をお買い求めください。
[出典] 『新訂第2版 写真でわかる小児看護技術 アドバンス』 監修 山元恵子/編著 佐々木祥子/2022年7月刊行/ インターメディカ