「腹部膨満」は、急変のサイン?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は腹部膨満と急変の関係について解説します。
笠原真弓
浜松医療センター 看護部 看護長/救急看護認定看護師
「腹部膨満」は、急変のサイン?
急変のサインかもしれません。
特に、急激な腹痛や嘔気・嘔吐を伴う場合は、急変を強く示唆します。
腹部膨満は、一般的に「おなかが張っている状態」を意味します。これは、健康な人でも肥満体型の場合にはみられますので、腹部膨満=急変のサインとは言い切れません。
しかし、普段から腹部が膨満している人が腹痛や嘔気などの症状を訴えている場合や、普段は腹部が膨満していない人の腹部が膨満していたり、腹部膨満感(おなかが張って苦しい、または痛みがある)を訴えていたりする場合、腹部に何らかの異常が起こっているサインととらえます。その訴えは急変の前兆である可能性が高いと考えられるのです。
「腹部膨満」の危険な原因
腹部膨満の原因は、水がたまっている状態(腹水)と、ガスがたまっている状態に分けることができます(表1)。
1 急性腹膜炎による腹水貯留
腹水は、慢性疾患の増悪による症状として現れることが多いため、緩徐に症状が悪化することはあっても、急性増悪(急変)する頻度は高くありません。ただし、急性腹膜炎は、短時間に腹膜に炎症を起こすため、急変する可能性が非常に高い病態です。
急性腹膜炎では、まず、突発的に限局した部位に腹痛が現れ、時間経過のなかで腹部全体に痛みが波及します。また、嘔気や嘔吐を伴うこともあり、進行するとショック状態になることもあります。この場合、生命にかかわる非常に危険な状態になり、緊急処置が必要となります(詳しくは「『腹膜炎』 は、フィジカルアセスメントだけで見抜けるの?」)。
2 腸閉塞・イレウスによるガス貯留
腸閉塞・イレウスも、突発的に腹痛を発症し、腹部膨満や嘔吐などを引き起こします。放置すると症状が増悪し、急変する可能性が高いため、イレウス管の挿入や開腹手術など、早急な処置が必要です。
3 敗血症の進行による腸管浮腫
敗血症の進行によって全身の血管透過性亢進が増大し、腸管浮腫をきたすことがあります。その場合、腸蠕動の抑制が惹起され、腸管内にガスが貯留し、腹部膨満となることがあります。
この状態は、敗血症性ショック(warm shock[ウォームショック]からcold shock[コールドショック]へ進展)の前駆症状と考えられ、早急な対応が必要です。
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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社