ベッド上以外で急変が起きた場合
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はベッド上以外で急変が起きたときの対応について解説します。
道又元裕
Critical Care Research Institute(CCRI)代表
急変患者にとって、生命にかかわる究極の状態は心肺停止です。その状態にどのように対応するかが、救命のカギとなります。
しかし、急変は、いかなるシチュエーションでも発生します。病室のベッド上以外でも、トイレや浴室、移動中(ストレッチャーや車椅子の上)などに急変が起こり、対応に困った経験をもつ方も、いるかもしれません。
そんなときは、あわてず「原則に立ち返って」考えてみることが大切です。
「その患者にどんな処置が必要か」を考えるのが鉄則
前述のように、究極的な救命のカギは「心肺停止にどう対応するか」です。
つまり、いま置かれている状況下で、心肺蘇生が必要か、そして、心肺蘇生を最も迅速に行うためには何をすべきか、と考えていけば、おのずと対応がみえてきます。
1 心肺蘇生が必要なら「その場で蘇生行為を実施できるか」を考える
狭い場所では心肺蘇生を行えない
例えば、トイレのような狭い場所ではどうでしょう?
胸骨圧迫・人工呼吸を行って、AED(自動体外式除細動器)を使用するには、意外と広いスペースが必要です。そのため、「まず、ある程度の広さがある場所まで、患者を移動させなければならない」ということがわかるでしょう。
濡れている場所ではAEDを使えない
では、浴室など、濡れている場所ではどうでしょう?濡れている場所では、AEDや除細動器のように放電する機器は使用できません。そのため、まず、乾いた場所まで患者を移動させ、AEDのパッドを貼る位置の水分を拭き取る必要があります。
また、体が濡れた状態だと、体温がどんどん下がっていきます。そのため、手近なバスタオルなどをかけて保温することも必要となるでしょう。
2 心肺蘇生が不要なら「その場で今後予測される処置を実施できるか」を考える
心肺蘇生は、可能な限りすみやかに実施する必要がありますが、それ以外の場合(バイタルサインがある程度保たれている場合)などでは、部屋の移動が必要になることもあります。
心肺蘇生を行う場合を除き、専門部署(ICUなど)への患者移動は一次対応の後(モニタ装着、ルート確保、酸素投与などを行った後)に行うのが原則です。
どうしても一般病棟で対応せざるを得ない場合には、観察室やナースステーション付近の個室への移動を考慮します(表1)。
3 在宅や施設の場合は「DNAR指示があるか」によって対応が異なる
在宅や介護施設などのように、設備や人員が整っていない環境で急変対応を行う場合には、救急要請をして、心肺蘇生を行いながら救急車の到着を待ちましょう。
この場合、「急変患者がDNAR(蘇生適応除外)かどうか」を確認することも大切です(詳しくは「DNARの正しい知識」)。DNARであれば、在宅医への連絡を第一に行うことになります。
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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社