「減塩で健康」はただの神話?「塩分量制限しすぎで悪影響」米国報告書で波紋
日本人の塩分摂取量は、実は世界的に見ても高水準なのを知っていますか?
なんとか摂取量を減らして生活習慣病を予防しようと、厚生労働省は2015年度から数値目標を今より1g下げて、より一歩踏み込んだ対策に乗り出しました。
先日NHKの番組「クローズアップ現代」でも取り上げられて話題になりましたが、いま、世界各国で減塩政策が進んでいます。
そんな中、米国医学研究所(IOM)から、「塩分摂取の数値目標にはエビデンスがない」「塩分量を制限しすぎることで健康に悪影響」などの見解が発表され、波紋が広がっています。
日本人は塩分とり過ぎ!
厚生労働省の「国民健康・栄養調査結果」によれば、成人の1日あたりの塩分平均摂取量は男性で11.3g、女性で9.6g(2012年)と年々、少しずつ減っているものの、依然として高いことがわかります。
また最新の研究結果では、平均摂取量は男性14g、女性11.8gという衝撃の数字も明らかになっています(東京大学社会予防疫学研究室)。
WHOが指針で定める1日あたり摂取量は5g、日本高血圧学会の推奨は6g、また多くの欧米諸国では8g前後の摂取量であることからみても、日本人の摂取量が高水準であるのは間違いなさそうです。
世界的な減塩運動。厚労省は数値目標を1g引き下げ
こうした状況を受けて厚生労働省では、生活習慣病の予防を重視し、2015年度からナトリウム(食塩相当量)の摂取量についてあらたな数値目標を以下のようにまとめました。
- 18歳以上男性:2010年版 9.0g/日未満 → 2015年版 8.0g/日未満
- 18歳以上女性:2010年版 7.5g/日未満 → 2015年版 7.0g/日未満
このように世界的に進む減塩運動ですが、「減塩」=「健康」という当たり前と思われていた考え方に、一石を投じる研究成果が発表されました。
「推奨塩分量」にエビデンスなし 米国医学研究所が見解
米国医学研究所(IOM)は2013年、米国で推奨される1日当たり塩分摂取量の5.8gなどの数値には、「エビデンスがない」との見解を発表し、大きな反響を呼んでいます。
IOMによると、「1日5.8g未満で心臓病や脳卒中、死亡が増えた、あるいは減ったと結論づけるためには、研究の質や量が不十分」であり、「中等~重度の心疾患で治療を受けている患者では、塩分摂取量が低い方が、病気の見通しに悪影響があることがエビデンスで示されている」とし、塩分量と健康の関係にはさらなる研究が必要としています。
本当はどっち?「減塩」で健康的な効果はある?ない?
この見解は、関係者に大きな衝撃を与え、米国心臓協会(AHA)は、IOMの見解が発表されてすぐに反論をまとめています。
AHAは、「減塩によって健康に悪影響が出たとの研究成果は、もともと健康に問題を抱えた人を対象に行われたものが多く、一般の人については減塩によって健康的な効果が得られることは明らか」などとし、改めて減塩の必要性を説いています。
IOMの見解をきちんと読むと、「過剰な摂取は心臓病や高血圧のリスクを上昇させる」というこれまでの研究結果は肯定した上で、必要以上に摂取量を制限することが、必ずしも体にいいかどうかはわからない、今後さらなる研究が必要だとの趣旨であることがわかりますが、ショッキングな内容であるだけに、反応も大きいようです。
減塩神話に一石を投じたIOMですが、今後の研究結果が気になるところです。
一方で日本人の塩分摂取量を見る限りにおいては、欧米の8%台にも遠くおよばないのが現状で、今のところはやはり「塩分の少なすぎ」よりは「塩分の取りすぎ」心配する必要があるのかもしれません。
(参考)
New IOM report an incomplete review of sodium’s impact, says American Heart Association 米国心臓協会(AHA)
日本人の食事摂取基準(2015年版)概要 厚生労働省