てんかん
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『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はてんかんの検査・治療・看護について解説します。
西川和己
東海大学医学部付属八王子病院看護部 呼吸療法認定士
てんかんとは?
機能性脳神経疾患の代表的なものに、てんかんがあります。
てんかんは、大脳皮質神経細胞の過剰興奮によって起こる、けいれんを繰り返す疾患の総称です(図1)。
てんかんには、脳腫瘍、脳血管障害、脳炎、認知症などの疾患が原因となる症候性てんかんと、原因が不明(遺伝的素因)である特発性てんかんがあります。
意識障害や四肢のけいれんを伴う、てんかん発作を繰り返します。発生機序によって、焦点(部分)発作、全般発作、分類不明の発作に分けられます。
てんかんの主なリスク因子は表1のとおりです。
一般的に5分以上の持続を伴う場合は、てんかん重積と診断され、治療が開始されます。1回のみのけいれんや、脳波の異常のみで身体症状がない場合には、てんかんと診断しません。
memo:「てんかん」と「けいれん」の違い
けいれん発作が慢性的に反復する場合をてんかんという。
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患者さんはどんな状態?
てんかん発作では全身がけいれんすることが多いです。
それ以外にも、意識消失や意識レベルの低下、身体の一部のしびれ、全身が伸展して固まるなどのさまざまな症状がみられます。
症状の持続時間は、数秒で終わるものから数分続くものまであります。他の疾患と似た症状もあり、発作の持続時間が短い場合もあるので、注意深く観察する必要があります。
てんかんの発作の種類は表2のとおりです。
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どんな検査をして診断する?
画像検査
脳波検査
発作が起こる時には、いくつかの神経細胞が同時に電気を出すために大きな電気が流れ、脳波検査で棘のようにとがった波形(棘波;きょくは、スパイク)や、やや幅の広い大きなとがった波形(鋭波;えいは)などが記録されます。
通常とは異なる脳波のうち、てんかん発作に関係する波形を発作波と呼びます。
血液検査
代謝異常や電解質異常によってけいれんが起こることもあるため、血液検査を行います。
抗てんかん薬を内服中の発作後には、薬物の血中濃度も測定します。
てんかん発作後は、高クレアチンキナーゼ血症を認めることがあります。
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どんな治療を行う?
主に薬物療法が選択されますが、原因疾患(脳腫瘍、脳血管障害など)がある場合には、原因疾患の治療が優先されます。
薬物治療では、発作の種類に合わせた薬剤が選択されます。基本は単剤投与とし、改善がみられない場合には、多剤を併用していきます。
全般発作ではバルプロ酸が選択されます。部分発作では、表3に示した薬剤を患者さんの状態に合わせて選択します。定期的に薬剤の血中濃度を測定し、維持量を決定していきます。
副作用に眠気やめまいが多くみられるため、副作用の観察が必要です。
日本神経学会:てんかん診療ガイドライン2018.P.28、124を参考に作成(2020.3.15アクセス)
memo:皮膚粘膜眼症候群
SJS(Stevens-Johnson syndrome)。高熱や全身倦怠感、口唇・口腔、眼、外陰部などを含む全身の紅斑、びらん、水疱、表皮の壊死性障害が生じる。
memo:薬剤性過敏症症候群
DIHS(drug-induced hypersensitivity syndrome)。高熱や全身倦怠感、全身の紅斑点、リンパ節腫脹、肝機能障害などがみられる。
memo:中毒性表皮壊死融解症
TEN(toxic epidermal necrolysis)。口唇・口腔、眼、外陰部などを含む全身に紅斑、水疱、びらんが生じる。
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看護師は何に注意する?
てんかんで入院中の患者さんへの対応は、てんかん発作の観察と発作時の対処、退院指導がポイントになります。
てんかん発作の観察
てんかんで入院した患者さんには、発作の有無を観察するための定期的な訪室が必要です。
発作時にSpO2の低下と不随意運動に伴う心電図上の波形の乱れが発生することがあるため、常時心電図モニターの装着が必要となります。
薬物療法の副作用の出現の有無を観察し、副作用を認めた場合は医師に報告し、薬剤量の調整や薬剤の変更を相談します。
てんかん発作時の対処
発作時には、眼球や四肢の動き、けいれんの部位や持続時間の観察が重要です。観察を継続し、安全を確保します。
安全の確保は、ベッド上であれば転落がないようベッド柵を上げ、身体損傷を防ぐため危険な物を遠ざける必要があります。
廊下やトイレなどでけいれん発作を起こした際には、すぐに臥床させます。
舌を嚙まないよう、軽くあごを上げます。発作が落ち着いてきたら、嘔吐による誤嚥を防ぐため、側臥位にします。
気道確保や酸素投与、静脈確保が必要になるため、人員を集めます。
気道が確保されているか確認し、すみやかに酸素投与(5~10L/分マスク投与)を開始します。てんかん発作時は、SpO2が正常であっても、体内で酸素が多量に消費されます。
静脈確保後、抗けいれん薬であるジアゼパム(セルシン®)の静注を行います。ジアゼパムは呼吸抑制作用があるため、バッグバルブマスクを準備し、気管挿管がすみやかに行えるように環境を整えます。
前述の対応を行ってもけいれんが消失しない場合は、フェニトインの静注や全身麻酔薬を用いる場合があります。けいれん性てんかん重積状態の治療の流れを図3に示します。
日本神経学会:てんかん診療ガイドライン2018.を参考に作成(2020.3.15アクセス)
退院指導
てんかんを発症した患者さんは、再発の可能性があるため、再発時の対処と再発しないための生活についての退院指導が重要です。
てんかん発作は、疲れや睡眠不足や過労、ストレス、飲酒、薬の飲み忘れなどが誘因となるため、それらを極力避け、規則正しい生活をするよう指導します。
内服継続の必要性を説明し、自己中断や、医師へ相談せずに薬剤量を調整することがないよう、薬剤師とともに指導を行います。また、薬の飲み合わせによっても発作を誘発する可能性があるため、他の薬剤を内服する前には医師に相談するように伝えます。
てんかん発作の際には意識消失する可能性があるため、日常生活で発作が起きた際に危険を避けるよう、患者さん・家族に指導します。
水泳や入浴、高所での作業、駅でホームの端を歩くことなどを極力控えるように指導します。車の運転に関しても、道路交通法で、2年間発作が起こらないことが運転可能な条件とされていることを伝えます。
家族には、発作時には無理に抑え込もうとせずに見守り、危険なもの(刃物、コンロ、暖房器具など)を遠ざけることと、症状や不随意運動の起こった部位、持続時間を観察するように指導します。人が多くいる状況ではスマートフォンで発作の様子を撮影することも有効です。
抗てんかん薬は、長期に服用が必要です。自己判断で休薬しないよう指導します。1年に1~2回の外来で抗てんかん薬の血中濃度や、副作用が出ていないかを確認するため、通院の必要性について指導します。
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看護のポイント
てんかんでは、発作時の対処と観察が重要となります。また、再発の可能性もあるため、患者さんや家族に発作時の危険を避けるための日常生活上での注意を指導する必要があります。
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てんかんの看護の経過
てんかんの看護の経過の一覧表はこちら。
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社