認知症

 

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は認知症の特徴や看護のポイントについて解説します。

 

木戸佐知恵
東海大学医学部付属八王子病院看護部副主任
認知症看護認定看護師

小川和之
東海大学医学部付属八王子病院看護部主任
認知症看護認定看護師

 

 

認知症とは?

認知症とは、一度獲得した認知機能が低下することにより、日常生活に支障をきたすようになった状態のことです。脳の障害により中核症状(認知機能障害)が生じ、それに付随して行動・心理症状(BPSD)も生じます。

 

アルツハイマー型認知症(AD)

認知症のなかで最も多い疾患で、脳の変性や萎縮がゆっくりと進行します。海馬の萎縮により記憶障害が生じ、「物盗られ妄想」が特徴的です。

 

血管性認知症(VaD)

脳血管疾患によって引き起こされる認知症です。脳血管疾患の再発によって段階的に悪化していくため、生活習慣を見直して原疾患の再発を防ぐことが大切です。

 

レビー小体型認知症(DLB)

神経細胞にレビー小体とよばれる特殊なタンパク質ができる疾患です。幻視、妄想、パーキンソニズムといった症状が特徴的です。

 

前頭側頭型認知症(FTD)

前頭葉と側頭葉が萎縮し、常同行動、社会性の欠如、脱抑制、感情鈍麻といった症状が目立ちます。
 

 

 

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認知症の全体像

どんな疾患?

認知症とは、一度獲得した認知機能が低下することにより、日常生活に支障をきたすようになった状態のことです。

 

認知症は原因によっていくつかの種類に分けられます。最も多いのはアルツハイマー型認知症で、全体の約6割を占めています。次いでレビー小体型認知症(約2割)、血管性認知症、前頭側頭型認知症の順に多いといわれています。

 

患者さんはどんな状態?

認知症の症状は、脳の障害により直接起こる症状である「中核症状(認知機能障害)」と、中核症状に付随して生じる症状である「行動・心理症状(BPSD;behavioral and psychological symptoms of dementia)」に分けられます(図1)。

 

図1中核症状と行動・心理症状

図1中核症状と行動・心理症状

 

中核症状(認知機能障害)

中核症状は脳の器質的変化に伴う認知機能障害であり、認知症をもつ人にはいずれかの症状を認めます(表1)。

 

記憶障害見当識障害失語失行失認遂行機能障害注意障害理解・判断力の低下などがあります。

 

表1中核症状(認知機能障害)

表1中核症状(認知機能障害)

 

行動・心理症状(BPSD)

行動・心理症状(BPSD)には、不安、焦燥・興奮、妄想、幻覚、行動異常、暴言・暴力などが含まれます。

 

中核症状(認知機能障害)を背景として、元来の性格や生活史など個人の特性に加え、そのときの健康状態や環境の変化、ストレス、不安、焦燥感や疎外感などによって引き起こされた行動症状や心理症状のことをいいます。

 

認知症と間違えられやすい症状

認知症は、加齢によるもの忘れや、せん妄と症状が似ているため、間違えられやすく、看護の現場においても注意が必要です(表2表3)。

 

表2認知症と加齢によるもの忘れの違い

表2認知症と加齢によるもの忘れの違い

 

表3認知症とせん妄の違い

表3認知症とせん妄の違い

 

 

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どんな検査をして診断する?

認知症の診断では、問診や神経心理学的検査を行うことで、記憶障害や見当識障害などの認知機能や症状・状態を評価し、原因疾患の鑑別に役立つ大切な情報を得ることができます(表4)。

 

表4認知症で行う診察・検査

表4認知症で行う診察・検査

★1 FDG(fluoro-2-deoxy D-glucose)

 

memo:MMSE

ミニメンタルステート検査(MiniMental State Examination)。米国で開発された認知症のスクリーニングツール。見当識、単語の記憶、計算、書字、図形模写などの項目からなる。

 

memo:HDS-R

改訂長谷川式認知症スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised)。長谷川和夫氏によって開発された認知症のスクリーニングツール。年齢、見当識、単語の記憶、計算、数字の逆唱などの項目からなる。

 

その他にも、総合的に評価を行うために、現病歴や既往歴などを確認し、画像検査、検体検査などを行います。

 

 

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看護師は何に注意する?

認知症をもつ人にとって、入院し生活環境が変わることは、トイレの場所など小さなことにも「どうだったかな」と戸惑うことが増え、大きなストレスとなります。認知機能障害によって、入院したこと自体を記憶に留めておけない本人にとって、どのような場面が不安の増強につながるかを考えながら、安心できる環境を提供することが大切です。

 

安心につながる声かけ

声をかけるときは、相手が驚かないように、目線を合わせ、相手が聞き取れる大きさの声でゆっくり話しかけることも安心へとつながります。

 

記憶障害への対応

中核症状である記憶障害に対しては、繰り返し何度でもていねいに説明します。何度も説明することで、何をするのか覚えていなくても「何かする」ということは残ります。何度聞かれても、「さっきも説明しました」ではなく、いつでもていねいに接することで安心感を得ることができます。

 

memo:記憶障害の分類

短期記憶障害:短い期間での記憶が障害される。
長期記憶障害:これまで経験したことの継続的な記憶が障害される。
前向性健忘:発症後に新たに経験したことが思い出せなくなる。
逆行性健忘:発症前に経験したことが思い出せなくなる。

 

短期記憶障害に対し、メモを活用することも大切です(図2)。「ここは○○病院です」「トイレのときはナースコールを押してください」など本人が確認できるメモを見える位置に貼ると、自分で確認できることで安心につながります。

 

図2メモの活用例

図2メモの活用例

 

認知症では最近の記憶は失われても、古い記憶は比較的最後まで保たれます。回想法(図3)により過去を振り返ることで、当時の記憶がよみがえって情動が活性化するだけでなく、自分の人生を再発見し、気持ちを前向きにする効果があるとされています。

 

図3回想法

図3回想法

 

見当識障害への対応

見当識障害(表1)に対し、周囲の環境を整えます。カレンダー・時計を設置し、日付や時間がすぐにわかるようにしたり、その人のなじみのあるものを置いたりすることで、病室が安心できる場所と認識してもらうことにつながります(リアリティーオリエンテーション;図4)。

 

図4リアリティーオリエンテーション(現実見当識訓練)

図4リアリティーオリエンテーション(現実見当識訓練)

 

生活リズムを整える

生活リズムを整えるために、日中に集中できる時間や楽しめる時間をつくるなどの工夫が必要です。今までどのような生活や日常を過ごしてきたかを本人や家族より聞き取り、できる限り自宅での生活に近づけるように環境調整を行うことで、入院したことへの不安が軽減でき、病室にいることが安心につながるようなかかわりを行うことが大切です。

 

遂行機能障害への対応

遂行機能障害(表1)への対応として、1つの動作について、1つの短い文章で声をかけるよう心がけます。1つずつ動作を説明することで、今何をするのかが理解でき、より安心できます。

 

次の行動がとれるように、できないところはさりげなくフォローするような声かけを行うことも大切です(図5)。

 

図5声かけの例

図5声かけの例

 

 

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看護のポイント

記憶障害や見当識障害といった症状により、患者さんは不安を感じます。安心につながる声かけをして、場所や日時がわかりやすいよう、環境を整える工夫をします。また、生活リズムを整えるために日中の活動を促し、その際には転倒を予防することも重要です。

 

 

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認知症の看護の経過

認知症の看護を経過ごとにみていきましょう(表5-1表5-2表5-3)。

 

看護の経過の一覧表はこちら。

 

表5-1認知症の看護の経過 発症から入院・診断

表5-1認知症の看護の経過 発症から入院・診断

 

表5-2認知症の看護の経過 入院直後、急性期

表5-2認知症の看護の経過 入院直後、急性期

 

表5-3認知症の看護の経過 一般病棟、自宅療養(外来)に向けて

表5-3認知症の看護の経過 一般病棟、自宅療養(外来)に向けて

 

表5認知症の看護の経過 一覧

横にスクロールしてご覧ください。

 

表5認知症の看護の経過 一覧

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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