脳炎・抗NMDA受容体脳炎

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は脳炎・抗NMDA受容体脳炎の検査・治療・看護について解説します。

 

植松 恵
東海大学医学部付属八王子病院看護部 救急看護認定看護師
田中雄也
東海大学医学部付属八王子病院看護部副主任 救急看護認定看護師
三嶋麻実
東海大学医学部付属八王子病院看護部 集中ケア認定看護師

 

 

脳炎・抗NMDA受容体脳炎とは?

脳炎・抗NMDA(n-methyl-D-aspartate)受容体脳炎は、脳神経系の感染症の一種です。

 

細菌やウイルスなどによって脳神経が感染を起こした状態です。感染により頭痛・発熱を生じ、意識障害、けいれんなどの症状に注意が必要です。

 

生じる部位によって疾患名が異なります。最も発症率が高いのは、髄膜炎です。

 

感染症の主なリスク因子は表1のとおりです。

 

表1感染症の主なリスク因子

表1感染症の主なリスク因子

 

脳実質の炎症を脳炎といい、経過や病因によってさまざまな種類があります。抗NMDA受容体脳炎は、神経細胞のつなぎ目で神経伝達を担当しているNMDA受容体に抗体ができることで発症します。

 

memo:抗体

体外からの異物を攻撃する免疫物質のこと。

 

 

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どんな疾患?

脳炎は、脳実質の炎症と定義され、発熱意識障害精神症状などの脳症状を主徴とします。

 

経過によって、急性・亜急性・慢性脳炎があり、急性脳炎感染性脳炎免疫介在性脳炎に分かれます。

 

病因としては急性ウイルス性脳炎が多く、代表的なウイルス性脳炎には、日本脳炎単純ヘルペス脳炎水痘帯状疱疹脳炎があります。

 

免疫介在性脳炎の1つに、抗NMDA受容体脳炎があります(図1)。NMDA受容体は、脳内の神経細胞のつなぎ目で神経伝達物質を受け取り、情報を伝えています。このNMDA受容体に抗体ができることで受容体の機能が低下し、脳炎を発症します。

 

図1抗NMDA受容体脳炎の病態

図1抗NMDA受容体脳炎の病態

 

 

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患者さんはどんな状態?

頭痛、発熱に続き、精神症状(異常行動・失見当識・記銘力障害・興奮・錯乱など)、けいれん、意識障害、不随意運動、麻痺、失語、小脳失調など脳実質障害の症状を呈します。

 

急速に昏睡に陥ることや、けいれん重積状態を呈することもまれではありません。

 

 

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どんな検査をして診断する?

脳脊髄液検査

高度な頭蓋内圧亢進がみられる場合以外では、第一に脳脊髄液検査を行います。

 

ウイルス性脳炎では、髄液のリンパ球増加とタンパク質軽度上昇がみられます。

 

また、髄液のPCR法(polymerase chain reaction;DNAを増幅するための原理を用いた手法)や培養を行うことで、原因ウイルスを特定することが可能です。

 

画像検査

画像検査はCT、MRIにより病変部位を特定し、脳腫瘍脳膿瘍などとの鑑別を行うことが可能です。多くの場合、造影剤を用いた検査が行われます。

CTよりもMRIのほうが早期に病変を発見できます。例えば単純ヘルペスによる脳炎では側頭葉に限局した病変が特徴的です。

 

脳波検査

脳波検査では、脳活動に伴う電位変化を脳の各部位ごとに頭皮上から観察します。

 

脳炎では脳全体に異常がみられることが多く、単純ヘルペス脳炎では側頭葉に限局した異常が認められます。

 

発症早期より異常が検出でき、精神疾患との鑑別に有用です。

 

血清ウイルス抗体価

ウイルス性脳炎の場合、血清ウイルス抗体価を入院時と2週間後に測定し、4倍以上の変動があれば起炎ウイルスの可能性が高いとされます。

 

 

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どんな治療を行う?

抗ウイルス薬の投与

ウイルス性脳炎の場合、原因ウイルスに作用する抗ウイルス薬の投与が行われます。

 

急性脳炎のなかで最も頻度の高い単純ヘルペス脳炎においては、アシクロビルが第一選択薬となります。単純ヘルペス脳炎が疑われた場合、受診後6時間以内にアシクロビルの投与を開始することが推奨されています。

 

単純ヘルペス脳炎はウイルス性脳炎のなかで最も頻度が高く、かつ重篤な疾患であることと、単純ヘルペスウイルスが脳の神経細胞に一度浸潤すると、神経細胞の再生がきわめて難しく、予後のうえからも、可能な限り早期に治療を開始することが重要であるためです。

 

フキダシ:アシクロビルの投与は、PCR法を用いたウイルスDNAの検出結果を待たず開始します。入院時の髄液所見が正常である場合や、MRIにおいて異常が検出されない場合にも、投与を開始します

 

抗けいれん薬の投与

けいれん重積状態がまれでないため注意が必要です。

 

けいれんの病歴がなく脳波でも棘波(きょくは;スパイク)がない場合、抗てんかん薬を予
防的に用いる必要はありません。

 

memo:棘波

棘のようにとがった波形。

 

抗脳浮腫薬の投与

髄圧が正常範囲であっても、CT上脳室の狭小化、脳槽の消失、重篤な意識障害がある場合は、脳浮腫があると考えて濃グリセリン・果糖注射液(グリセオール®)またはD-マンニトール(マンニットール®)を用います。

 

副腎皮質ステロイドの投与

免疫介在性脳炎にはステロイド投与が効果的です。

 

ステロイド投与で改善しない場合や重度の副作用がある場合には、免疫抑制薬の投与や血漿交換、大量免疫グロブリン静注が行われることもあります。

 

 

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看護師は何に注意する?

バイタルサインの観察

呼吸・循環管理意識レベルを含む神経症状の把握、体温測定が重要です。脳炎という一次的な脳損傷を受けているうえに、さらに低酸素や循環障害が生じると二次的な脳損傷をきたし、脳組織が不可逆的なダメージを受けます。

 

フキダシ:体温は炎症の有無・程度を評価する重要なバイタルサインです。治療開始とともに解熱してくれば、治療効果があると判断でき、逆に高熱が持続すれば、効いていないと判断できます

 

神経症状の観察

経時的に瞳孔所見や麻痺の状態、項部硬直の程度、不穏や錯乱の状態を観察することで、治療効果を含めた炎症の程度を間接的に評価することができます。

 

瞳孔不同の出現があれば、炎症による脳浮腫の結果として脳ヘルニアの存在が示唆されます。

 

四肢麻痺などが出現すれば、脳実質障害(脳血管炎脳虚血)などの存在が疑われ、早急に画像診断が必要な場合もあります。

 

精神症状へのケア

精神症状が前面に出てくる場合は、不穏や錯乱状態により転落転倒の危険性が高いため、環境を整え、必要時は身体抑制を検討します。

 

けいれん発作への準備

突然のけいれん発作を生じることも考えられます。けいれん時に適切な呼吸管理が行えるよう、ベッドサイドにはバッグバルブマスクをすぐ使えるように準備しておきます。

 

退院指導

抗けいれん薬の内服は指示どおりに行い、自己中断しないよう指導します。

 

けいれん発作時の対処法を、表2のように家族に指導します。

 

表2自宅でのけいれん発作への対処法

表2自宅でのけいれん発作への対処法

 

 

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看護のポイント

重篤化すると脳が不可逆的なダメージを受けるため、早期に発見し対処することが重要です。頭蓋内圧亢進症状の出現に注意して、バイタルサインや神経症状を観察します。 また、けいれん発作時に迅速な対応ができるよう準備しておくことも大切です。

 

 

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脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過

脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護を経過ごとにみていきましょう(表3-1表3-2表3-3)。

 

看護の経過の一覧表はこちら。

 

表3-1脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 発症から入院・診断

表3-1脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 発症から入院・診断

 

表3-2脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 入院直後、急性期

表3-2脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 入院直後、急性期

 

表3-3脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 一般病棟、自宅療養(外来)に向けて

表3-3脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 一般病棟、自宅療養(外来)に向けて

 

表3脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 一覧

横にスクロールしてご覧ください。

 

表3脳炎・抗NMDA受容体脳炎の看護の経過 一覧

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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