多系統萎縮症(MSA)

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は多系統萎縮症(MSA)の検査・治療・看護について解説します。

 

小川和之
東海大学医学部付属八王子病院看護部主任 認知症看護認定看護師

 

 

 

多系統萎縮症(MSA)とは?

多系統萎縮症(MSA;multiple system atrophy)は進行性の神経変性疾患で、パーキンソニズム(パーキンソン症状)、小脳症状自律神経症状が生じます。

 

パーキンソニズムが優位な臨床病型はMSA-P(線条体黒質変性症;multiple system atrophy, parkinsonian variant)、小脳症状が優位な臨床病型はMSA-C(multiple system atrophy, cerebellar variant、オリーブ橋小脳変性症)と呼ばれ、欧米ではMSA-Pが多く、日本ではMSA-Cが多くなります。

 

自律神経症状が中心の病型はシャイ・ドレーガー症候群(SDS;Shy-Drager syndrome)と呼ばれ、MSA-A(multiple system atrophy, autonomie variant)とも呼ばれます。

 

 

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患者さんはどんな状態?

パーキンソニズム(MSA-Pの場合)

振戦、小刻み歩行、四肢や体幹の筋強剛、動作の緩慢がみられます。

 

パーキンソン病との鑑別が難しく、注意が必要です。パーキンソン病では、振戦が最初の症状であることが50~70%ですが、多系統萎縮症では約10%であることなどが違いとして挙げられます。

 

小脳症状(MSA-Cの場合)

体幹失調や四肢の運動障害、歩行不安定、構音障害などの症状があります。

 

鼻指鼻試験踵膝試験、手回内・回外試験(図1)などで異常がみられます。

 

図1手回内・回外試験

図1手回内・回外試験

 

自律神経症状(シャイ・ドレーガー症候群[SDS、MSA-A])の場合

排尿障害や起立性低血圧、食事性低血圧、便秘、発汗障害、ホルネル(Horner)症候群などがあります。

 

排尿障害(頻尿や尿失禁)の有無を確認し、悪化させないことが重要です。

 

 

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どんな検査をして診断する?

頭部CT、MRIを確認します。

 

MSA-C

頭部CT、MRIで、小脳、脳幹の萎縮がみられます。

 

MRI(T2強調画像、図2)で、橋に十字サイン(hot cross bun sign)がみられます。 中小脳脚の神経線維の脱落が原因とされています。

 

図2多系統萎縮症の画像診断

図2多系統萎縮症の画像診断

 

MSA-P

頭部MRIで被殻の萎縮、T2強調画像またはFLAIRで被殻外側に線状の高信号域がみられます。

 

頭部CT、MRIで小脳・脳幹の萎縮がみられます。

 

SDS(MSA-A)

MSA-C、MSA-Pと同様の所見を合併します。

 

 

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どんな治療を行う?

根治療法はないため、薬物を用いて対症療法を行います。

 

小脳症状には甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの内服(タルチレリン)および点滴(プロチレリン)を行います。

 

パーキンソン症状には抗パーキンソン薬(L-dopaなど)を用います。

 

 

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看護師は何に注意する?

罹病期間が長く、症状も個人差が大きいため、看護計画にも個別性が必要になります。日常生活のどの部分に援助が必要なのか、社会資源の利用やサポートはあるのか、患者さんは何を目標に考えているのかを把握することが重要となります。

 

誤嚥性肺炎を繰り返し、声帯麻痺をきたして突然死することもあるため、注意が必要です。

 

日常生活動作への影響はどの程度なのか、歩行の程度を把握し、起立性低血圧による立ちくらみや転倒に注意します。

 

社会生活ができなくなる可能性があるため、経済的な状況も含めて情報収集したうえで看護展開をする必要があります。

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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