脊髄小脳変性症(SCD)
『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は脊髄小脳変性症(SCD)の検査・治療・看護について解説します。
青木裕子
東海大学医学部付属八王子病院看護部主任 糖尿病看護認定看護師
脊髄小脳変性症とは?
脊髄小脳変性症(SCD;spinocerebellar degeneration)は、神経変性疾患の一種です。
神経変性疾患とは、ある特定の神経の系統が変性して、機能が徐々に低下していく疾患で、それぞれの神経変性疾患で、特徴的な細胞内封入体(ゴミ)が蓄積することがわかっています。
脊髄小脳変性症(SCD)は、脊髄や小脳、脳幹が萎縮して運動失調や痙性対麻痺をきたす疾患です。根治療法はなく、対症療法として薬物療法などを行います。
memo:痙性対麻痺
両下肢の筋緊張が亢進し、運動麻痺がみられる状態のこと。症状としては、痙性歩行が中心である。小脳症状はあっても軽いものである。また、両下肢の腱反射亢進やしびれがみられることもある。
小脳は、大脳小脳、脊髄小脳、前庭小脳の3つに分けられます(図1)。大脳小脳は四肢の運動の調節や言語を、脊髄小脳は体幹の運動の調節を、前庭小脳は平衡感覚や眼球運動の調節を行います。
脊髄症の変性症は病型によって、遺伝性と孤発性に分類されます(図2)。遺伝性は1/3、孤発性は2/3と、孤発性の方が多くみられます。
孤発性脊髄小脳変性症は、さらに大きく分けて、多系統萎縮症(MSA;multiple system atrophy)と、皮質性小脳萎縮症(CCA;cortical cerebellar atrophy)に分類され、多系統萎縮症のほうが多くを占めます。
また、臨床的には、小脳症状に限局する遺伝性のものを純粋小脳型、パーキンソニズムや末梢神経障害、錐体路徴候などを合併するものを多系統障害型と分類します。
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患者さんはどんな状態?
小脳症状として、眼振、構音障害、両上肢巧緻運動障害、失調性歩行がみられます(表1)。
★1 協調運動障害(小脳の障害)
★2 パーキンソニズム
★3 遂行機能障害
転倒を繰り返し、寝たきりになることがあります。
構音障害のためにコミュニケーションがうまくとれなくなります。
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どんな検査をして診断する?
脊髄小脳変性症の主な検査は表2のとおりです。
二次性の小脳失調症の鑑別のために、病歴の聴取を行います。
前述のような症状が出現していないか、神経学的所見も確認します。
画像検査では、MRI(図3)、CT以外に脳シンチグラフィやPETを行うこともあります。
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どんな治療を行う?
根治的な治療方法は確立されておらず、症状や進行に合わせた対症療法を行います(表3)。
★1 CPAP(continuous positive airway pressure)
★2 BiPAP(biphasic positive airway pressure)
運動失調の対症療法として、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、TRH誘導体のみ保険適用となっています。
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看護師は何に注意する?
緩徐に進行するため、運動失調、パーキンソニズム、排泄障害、睡眠障害などの症状とADLの自立度について注意深く観察します。
薬物療法の管理、感染予防に注意します。
症状の進行による嚥下障害に伴う肺炎予防と、家族の介護負担増大に対する医療チームによる効果的なサポートが必要になります。
何もないところでつまづいたり、身体が思うように動かなくなったりするため、環境調整を行います。
コミュニケーションが困難になるため、質問方法をクローズドクエスチョンにする、文字盤やコミュニケーションボードを使用するなど工夫をします。
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看護のポイント
身体機能が徐々に低下していく疾患では、患者さんに合った日常生活援助を行うとともに、精神的援助が必要となります。長期的な介護が必要になる場合もあるため、家族も含めて援助を行いましょう。
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脊髄小脳変性症(SCD)の看護の経過
脊髄小脳変性症(SCD)の看護を経過ごとにみていきましょう(表4)。
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社