筋萎縮性側索硬化症(ALS)

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検査・治療・看護について解説します。

 

小川和之
東海大学医学部付属八王子病院看護部主任 認知症看護認定看護師

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは?

筋萎縮性側索硬化症(ALS;amyotrophic lateral sclerosis)は、神経変性疾患の一種です。

 

神経変性疾患とは、ある特定の神経の系統が変性して、機能が徐々に低下していく疾患で、それぞれの神経変性疾患で、特徴的な細胞内封入体(ゴミ)が蓄積することがわかっています。

 

ALSは上位・下位運動ニューロンが進行性に変性し、徐々に全身の筋力が低下する疾患で、人工呼吸器を用いなければ、通常は2~5年で死亡することが多く、根治療法はありません。

 

60~70歳代に多く、男性:女性=1.2~1.3:1です。

 

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患者さんはどんな状態?

発症様式によって、上肢型、進行性球麻痺、下肢型の3型に分けられます(図1)。ほかにも、呼吸筋麻痺が初期から生じる例や、体幹筋障害が主となる例もあり、症状の出方はさまざまです。

 

図1ALSの病型と主な症状

図1ALSの病型と主な症状

 

ALSでみられることが少ない症状を、陰性症状といいます。四大陰性症状は、眼球運動障害感覚障害膀胱直腸障害褥瘡です。

 

 

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どんな検査をして診断する?

ALSに特異的な検査はないため、症状、神経所見、筋電図検査、MRIなどで総合的に判断していきます。

 

針筋電図検査で脱神経(除神経)所見がみられます。

 

ALSの診断基準には、EL Escorial改訂ALS診断基準(図2)、Awaji基準があります。

 

図2世界神経学会 EL Escorial 改訂 ALS診断基準

図2世界神経学会 EL Escorial 改訂 ALS診断基準

 

日本では線維束自発電位(FP;fasciculation potential)を除神経所見としてカウントでき、感度が上昇したAwaji基準が用いられることが多くなっています。

 

 

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どんな治療を行う?

根治療法はなく、対症療法が中心となり、リハビリテーションと緩和ケアを行います。

 

薬物治療は進行を遅らせますが、筋力低下や筋萎縮には効果はありません。

 

 

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看護師は何に注意する?

食事介助

嚥下状態に合わせて、食形態の変更が必要です。

 

経口摂取が難しくなった場合は、経管栄養法や胃瘻などを検討します。

 

移動介助

初期では歩行障害は軽度ですが、つまずきやすくなるなどの症状があるため、転倒に注意が必要です。長距離の移動などでは車椅子を利用します。

 

排泄介助

筋力の低下が進行するため、本人の思いを尊重し、尿瓶やポータブルトイレなど患者さんの状態に合わせて介助しましょう。

 

おむつの使用は看護師側の都合ではなく、患者さんの希望を考慮することが重要です。最後まで排泄はトイレで行いたいという患者さんが多いことを意識しましょう。

 

体位変換

四肢が動かせなくなるため、褥瘡予防にエアマットレスなどの使用を考慮します。体位変換やポジショニングも重要となります。

 

自分では動けないもどかしさを受けとめ、何度でも本人の意思に寄り添う必要があります。一方で、看護する側の疲労や精神的負担も大きくなるため、1人では抱え込まずに相談すること、ケアする人手を確保することも重要です。

 

コミュニケーション

コミュニケーションをとることが難しくなるため、ジェスチャーや文字盤、目の開閉や眼球運動で意思伝達ができるよう工夫が必要です。

 

入院中は、ナースコールをどのように押せるか確認し、設置の仕方やナースコールの種類などを症状に合わせて選択する必要があります(図3)。

 

 

図3ナースコールの工夫(マルチケアコール®)

図3ナースコールの工夫(マルチケアコール®)

 

意思決定支援

患者さんと家族が、残された時間をどのように過ごしたいか、思いを傾聴します。

 

人工呼吸器を使用するかどうか、患者さん・家族と十分に話し合い、思いをくみとって決定していく必要があります。

 

 

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退院後の経過と注意点は?

在宅療養では、家族のマンパワーがとても重要です。体位変換など身体的な援助はもちろん、排泄や食事、清潔など、さまざまな場面で援助が必要となるため、1人の家族がすべてを介助することは、心身の疲労を蓄積させ、在宅療養を困難にするリスクとなります。介護者の負担も考え、訪問看護や訪問介護、訪問リハビリテーションなどの社会資源の導入も検討しましょう。

 

在宅での人工呼吸器の使用や、吸引・おむつ交換など技術的なサポートも必要となります。入院中に、家族指導を行い、患者さん・家族の不安を少しでも軽減できるようにかかわりましょう。

 

 

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看護のポイント

身体機能が徐々に低下していく疾患では、患者さんに合った日常生活援助を行うとともに、精神的援助が必要となります。長期的な介護が必要になる場合もあるため、家族も含めて援助を行いましょう。

 

 

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)の看護の経過

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の看護を経過ごとにみていきましょう(表1)。

 

表1筋萎縮性側索硬化症(ALS)の看護の経過

表1筋萎縮性側索硬化症(ALS)の看護の経過

 

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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