パーキンソン病
『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はパーキンソン病の検査・治療・看護について解説します。
西川和己
東海大学医学部付属八王子病院看護部
パーキンソン病とは?
パーキンソン病は、神経変性疾患の一種です。
神経変性疾患とは、ある特定の神経の系統が変性して、機能が徐々に低下していく疾患です。それぞれの神経変性疾患で、特徴的な細胞内封入体(ゴミ)が蓄積することがわかっています。
パーキンソン病は、神経伝達物質のドパミンが減少することによって、動作や姿勢が障害される疾患です。身体機能が次第に低下していき、完治は見込めないため、日常生活援助と服薬管理を行います。
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どんな疾患?
パーキンソン病は、中脳の黒質にあるドパミンの量が不足することで、動作や姿勢に障害が生じる神経難病です(図1)。近年、広範なレビー小体の蓄積を反映し、非運動症状を含めた多様な症状が生じる症候群ととらえられています。主に中高年以降(好発は50~70歳代)に発症し、徐々に悪化していきます。
有病率は人口10万人当たり100~180人程度といわれ、高齢者ほど高くなるため、今後高齢化とともに増加する可能性があります。
パーキンソン病になる直接の原因はわかっていませんが、脳内の伝達物質の1つであるドパミンをつくる細胞が徐々に減少することで症状が起こることはわかっています。ドパミンをつくる細胞が、おおむね正常の1/2程度まで少なくなると症状が起こるとされています。
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どんな検査をして診断する?
パーキンソン病の症状が出ている患者さんに対して、血液検査と頭部MRI・CTにて異常がないことを確認します。
初期ではみられないこともありますが、頭部MRIのT2強調画像にて中脳黒質が低信号を示します。
MIBG(metaiodobenzylguanidine)心筋シンチグラフィーで、MIBGの取り込み低下がみられます。
ドパミントランスポーターシンチグラフィ(ダットスキャン®)で、線条体における取り込み低下がみられます。左右差がみられ、症状が強い側と反対側の取り込みが低下することが多くなっています。
パーキンソン病には重症度を示す、ホーン-ヤール(Hoehn&Yahr)の重症度の分類と生活機能障害度があります(表1)。
パーキンソン病は指定難病であり、ホーン-ヤール重症度Ⅲ度以上かつ生活機能障害度Ⅱ度以上であると、特定疾患医療費補助制度の対象となり、条件を満たせば医療費の助成を受けることができます。
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患者さんはどんな状態?
パーキンソン病の症状は、運動症状と非運動症状に分類されます。中核症状は運動症状です。
運動症状
運動症状である無動、振戦、筋強剛(固縮)、姿勢保持障害は、パーキンソン病の4大症状とされています(図2)。
memo:小字症
書いている文字が徐々に小さくなる症状。
memo:鉛管現象
手足を曲げたり伸ばしたりしようとしたときに、最後まで抵抗が一定にみられる現象。
memo:歯車現象
手足を曲げたり伸ばしたりしようとしたときに、抵抗が小刻みに規則的にみられる現象。
非運動症状
非運動症状として、睡眠障害、自律神経症状、精神症状が出現します(表2)。
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どんな治療を行う?
パーキンソン病は完治や進行を完全に阻止する治療法はなく、症状に応じた対症療法が行われます。
主に薬物療法が選択され、薬物によるコントロールが困難な場合には外科的治療が選択される場合もあります。
日常生活の機能が徐々に低下するため、リハビリテーションを主とする運動療法も重要です。
薬物療法
脳内の神経伝達物質であるドパミンの前駆物質であるレボドパ(L-dopa)などの薬剤を用います(図3)。
★1 MAO(monoamine oxidase)
★2 COMT(catechol-Omethyltransferase)
★3 ジスキネジア
外科的治療
薬物療法でも効果が見込まれない筋強剛、振戦、不随意運動に対して、脳深部刺激療法(DBS;deep brain stimulation)が行われます(図4)。
運動療法
運動療法は、リハビリテーション科での訓練が主になります。
理学療法:筋力訓練、関節可動域(ROM)訓練、立位バランス訓練を行います。
作業療法:上肢の関節可動域訓練、細かい上肢運動、言語療法としての構音訓練、嚥下療法としての嚥下訓練を行います。
リハビリテーション科のスタッフと情報共有を行い、病棟でも可能な訓練を実施していきます。歩行訓練や立位訓練、発声練習などがよく行われています。
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看護師は何に注意する?
パーキンソン病は慢性に進行する神経難病であり、低下していく身体的機能に対する日常生活援助と、精神的援助が重要です。また、長期的な介護が必要になるため、家族も巻き込んだ援助が必要となります。
完治が見込めない疾患であるため、まずは患者さんと家族の不安に対する精神的な援助が重要となります。医師・看護師から説明するとともに、不安を表出しやすいようにかかわります。
歩行介助
症状に応じた日常生活の援助が必要です。特に歩行時の転倒に注意します(図5)。
精神症状へのケア
興奮して大声をあげる、暴れる、支離滅裂な会話をする、思わぬ行動をとるなど、さまざまな精神症状がみられます。そのため、昼夜を通して行動を観察し、安全の確保を行うことも重要です。
服薬管理
レボドパにて内服治療を開始した際や内服コントロール目的に入院した場合には、薬剤の作用と副作用の観察が重要となります。
長期服用をしている場合には、運動合併症(ウェアリング・オフ現象とジスキネジア;図6)が出現することがあります。症状日誌(図7)を用いて、1日のウェアリング・オフ現象の症状とジスキネジアの観察を行います。可能であれば、患者さんにつけてもらい、困難な場合には看護師がつけます。これをもとに医師が内服時間の調整や内服の種類・量の調整を行います。
on-off現象が生じることもあるため、注意が必要です。
memo:on-off現象
服薬のタイミングと無関係に突然薬効が減弱する現象。主に、胃蠕動運動の減少によりレボドパが空腸まで到達できないために生じると考えられている。オフの時間が予想できないため、日常生活に支障をきたす。
退院支援
日常生活を安全・快適に過ごせるように、自宅の環境や家族の介護力についての情報収集を行います。
必要に応じて、MSWや退院支援看護師が介入し、住宅改修や訪問介護、訪問看護の導入の調整を行います。
医師やリハビリテーション担当のスタッフなどの多職種を交えて、合同カンファレンスを行うことも必要です。
患者さんのADLに応じた退院指導を行う必要があるため、リハビリテーション担当のスタッフや管理栄養士、薬剤師と相談し、必要な指導を検討します。
介護者に日常生活援助(移動時の介助、おむつ交換、体位変換など)に対する指導を行います。起立性低血圧や嚥下障害などを認めている患者さんの場合は、転倒や誤嚥を予防するための指導も必要となります。
レボドパの内服を中断してしまうと、悪性症候群を発症してしまうため、服薬指導も重要となります。
memo:悪性症候群
ドパミンの不足により、高熱、発汗、振戦、頻脈などの症状が現れる。輸液やダントロレンを投与して対処する。
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退院後の経過と注意点は?
外来の通院頻度は1年に1~4回程度です。身体機能が徐々に低下していくため、自宅での生活状況の把握と、家族を含めた精神面のフォローが必要となります。
自宅では、身体機能が低下しても過ごしやすいよう、生活の場を1階にしたり、段差やコードなどで転ばないよう環境調整が必要であることを説明します。
退院後の身体機能の維持・向上のため、通院・在宅でのリハビリテーションの継続を推奨します。
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看護のポイント
身体機能が徐々に低下していく疾患では、患者さんに合った日常生活援助を行うとともに、精神的援助が必要となります。長期的な介護が必要になる場合もあるため、家族も含めて援助を行いましょう。
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パーキンソン病の看護の経過
パーキンソン病の看護を経過ごとにみていきましょう(表3)。
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社