人工血管置換術|大動脈疾患の外科的治療
『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は大動脈疾患の外科的治療のひとつである、人工血管置換術について解説します。
長谷川久美子
新東京病院看護部
〈目次〉
人工血管置換術はどんな治療?
大動脈疾患(大動脈瘤、解離性大動脈瘤)の外科的治療にはおもに、人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります。
人工血管置換術とは、拡大した大動脈を人工血管に置換する手術です(表1)。特に、胸部大動脈では循環補助手段を必要とし、手術の侵襲が大きく、さまざまな合併症への注意が必要です。
★1 Stanford分類
★2 DeBakey分類
★3 胸部大動脈ステントグラフ内挿術(TEVAR)
人工血管置換術のおもな術式
上行大動脈置換術
胸骨正中切開を行い、体外循環を用いて、心臓停止下で脳保護を必要とする手術です。脳分離体外循環が確立した後に、大動脈の末梢側と中枢側を吻合します。
単独上行置換の場合は、低体温循環停止法のみで行うことも可能です。
弓部大動脈置換術
胸骨正中切開を行い、動脈瘤中枢側と末梢側の動脈をクランプして瘤を切除し、人工血管末梢側を吻合します(図1)。
脳へ分岐する血管を再建しなければいけないため、脳保護のために、選択的脳分離体外循環法(SCP)または低体温循環停止逆行性脳灌流法を行います。
▷選択的脳分離体外循環法(SCP):腕頭動脈から順に脳灌流のカニューレを3分枝に挿入する方法です。
▷低体温循環停止逆行性脳灌流法:上大静脈へ血管を留置し、送血する方法です。
胸腹部大動脈置換術
胸腹部大動脈置換術は、置換範囲が胸部から腹部にかけて広範囲で、侵襲の大きな手術です(図2)。
胸腹部大動脈置換では、右側臥位として左後方開胸とします(図3)。
下行大動脈置換術
基本的には左開胸で人工血管置換を行います。
大動脈を剝離・露出した後、人工心肺を確立します。その後、大動脈遮断を行い、切開して吻合します。
腹部大動脈置換術
腹部大動脈置換術では腹部正中切開(開腹)を行い、Y字型人工血管置換を行うことが多いです(図4)。
文献
- 1)日本循環器学会:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版).(2019.09.01アクセス)
- 2)田端実,讃井將満責任編集:特集 心臓血管外科 編.INTENSIVIST 2015;7(4).
- 3)道又元裕総監修,露木菜緒監修・解説:ICU3年目ナースのノート.日総研出版,愛知,2013.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社