爪切りが傷害行為となるケースとは?
第2話では、第1話の事例をもとに、「爪切りが傷害行為となるケース」を説明していきます。
大磯義一郎、谷口かおり
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)
看護師が知っておくべき法律の知識
本件では、爪床を露出させるまで切除したことを傷害行為としながらも、看護師の正当業務行為として認められるかどうかが「有罪」「無罪」の分かれ目となりました。つまり、療養上の世話における看護師の正当業務行為と認められる要件を満たすかどうかがポイントとなります。
そもそも、看護師の皆さんには看護師としてどのような行為が求められているのでしょうか。法律上看護師が行える行為について確認しましょう。
第1話で紹介しましたが、看護師のミコトさんの行った爪切りが、看護師の正当業務行為性があると認められるかどうかが問題となりましたね。
大切なのは、看護行為の目的、必要性、それにふさわしい方法かどうか。後は、患者さんや家族の同意でしたよね。
その通りです。それでは看護師の皆さんには、看護師としてどのような行為が求められているのでしょうか? 今回は、その点を確認してみましょう。
「通常の爪切り」「診療の補助の爪切り」「療養上の世話の爪切り」はどう違う?
「通常の爪切り」は誰でも行える行為です。
一方、高齢者に多い爪白癬、糖尿病や透析患者等の爪の病変に対する外科的処置や薬物の処方は医行為となり、看護師は医師の指示の下で「診療の補助の爪切り」を処置として行えます。しかし、病変によって肥厚や変形があっても、衛生保持、剥離予防などの爪切りの場合は「療養上の世話の爪切り」となります。
以前は、病変や変形を伴う爪ケアは、看護師個人の経験や知識に委ねられているところが大きく、標準的な爪ケアは確立していませんでした。しかし、最近では、フットケア指導士の資格の創設やフットケアの研修会の開催など、看護師のフットケアの専門性も高まってきています。
「看護師の正当業務行為」の正当性とは?
療養上の世話は、患者さんの身体的援助をはじめ、精神的援助、環境整備、療養上の生活における全般の援助になります。基本的には、看護師主体で、医師の指示がなくても行えますが、治療の必要性のある患者さんの援助なので、専門的な知識や判断が求められます。
本件の控訴審では、「爪床から肥厚した爪を指先よりも深い箇所まで切ることは、看護師の業務である療養上の世話に含まれ、仮に、その際に出血等の傷害を生じさせても、看護行為としてしたものであれば、正当業務行為として違法性が阻却され、看護師が職務上行う爪切り行為は、看護行為と推定される」として、療養上の世話における爪ケアの正当性が示されています。
療養上の世話は、絶対的看護行為(医師の指示を必要としない行為)であり、看護の目的が明確で、看護行為として必要であるか、その手段・方法が適切であるか(標準的なレベルであるか)を、専門性を持って判断しなければなりません。必要に応じ、特殊なケアを行う際は個別に患者・家族への補足説明を行ったり、医師へ相談や報告をしたりすることも必要となってきます。
看護行為を正当業務行為と判断するポイント
- 看護の目的が明確であること
- 看護行為として必要であり、手段、方法において適切であること
- 患者、家族の承諾または包括的承諾(入院診療計画書や看護計画書等へ同意)があること
[参考文献]
1)TKC法律ローライブラリー(2018年2月28日閲覧)
2)井部俊子.北九州爪ケア事件からの教訓―看護管理者が認識しておくべきこと-.日看管会誌.14(2),2010,59-60.
3)日本看護協会.看護に関わる主要な用語の解説:概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈.(2018年2月28日閲覧)
4)小川原明子.看護行為の正当業務行為性―福岡高判平成22年9月16日(爪ケア事件)-.現代法学第21号.(2018年2月28日閲覧)
[次回]
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[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
谷口かおり
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員
Illustration:宗本真里奈