MMTの測定方法と評価のポイント
『エキスパートナース』2012年8月号<徒手筋力測定(MMT)の正しい見かた・活かしかた>より抜粋。
MMT測定のポイントについて解説します。
山内豊明
放送大学大学院文化科学研究科生活健康科学教授
〈目次〉
- 肘関節
- 手関節
- コラム:体幹の筋力を評価する場合
- 股関節
- 膝関節
- コラム:坐位での測定が可能な場合
- 足関節
- MMT評価の際の注意事項
- MMT測定が難しい場合の評価方法
- MMTの記録のしかた
- コラム:「4+」「5-」という記録をつける"キモチ"
筋力の分類に関する基準とその記録法(MMT)は表1のとおりです。
今回は、各関節の具体的な方法ならびに評価のポイントについて解説します。
肘関節
1屈曲
肘関節の屈曲については、前腕を完全に回外にして患者自身に屈曲してもらいます(図1-a)。
この動きが可能ならば、上腕二頭筋は重力に打ち勝って前腕を持ち上げることができたことになり、少なくともMMT3以上であると評価できます。
さらに、患者にできるだけ力を入れて屈曲を保つよう指示し、手首をつかみ前腕を引っ張って抵抗を加えます(図1-b)。
強い抵抗を加えても十分屈曲していられるようならMMT5、強い抵抗には負けても少し緩めた力に抗して屈曲を維持していられるようならMMT4、抵抗を加えるとまったく屈曲できないようならMMT3となります。
また、重力に打ち勝つことができず、前腕を持ち上げられなかった場合、重力の抵抗がない水平方向に肘を屈曲させます(図1-c)。上腕自体の重さの負荷を除くため、机などに肘をつかせて行ってもかまいません。
これで屈曲が十分に行えるようなら重力を除けば全可動域動くMMT2、わずかに筋収縮があるならMMT1、筋収縮がないならMMT0となります。
2伸展
肘関節の伸展は、肘を屈曲し前腕を回外した状態から重力に打ち勝って可能か、また検者の抵抗に負けないかをみます(図2-c)。
MMT2以下の評価は、上腕自体の重さの負荷を除くために机に肘をつくなどして行います(図2-a、b)。
ちなみに、MMTを評価する際には、必ずしも“まずMMTで3あるか否かを先に評価しなければならない”ということではありません。MMTで5や4と思われるような、明らかにある程度十分に筋力があると推定される場合には“MMT3の判別”は無用です。
手関節
1屈曲
前腕を挙上させ回外90°にした状態で、自らの手首から先を持ち上げていればMMT3以上あるので、その先は力比べをします(図3-a、b)。その際、患者が手首を曲げた状態ならば検者も同様に手首を屈曲して、手掌同士で引っ張り合いをして力をみるべきです。
手首から先を持ち上げられずにいた場合には、前腕を挙上させ前腕の回内・回外を0°にした位置で手首から先を屈曲できるかをみます(図3-c)。その状態で自分で全可動域動かすことができればMMT2、わずかに筋収縮があればMMT1、まったく筋収縮がなければMMT0となります。
2伸展
前腕を挙上させ回内90°にした状態で、自らの手首から先を持ち上げていればMMT3以上あるので、その先は力比べをします(図4-a、b)。
なお、この場合も屈曲の評価と同様、患者と検者が同じ状態で引っ張り合いをして力を見ます。伸展では手首を反らした状態で引っ張り合いを行います。
手首から先を持ち上げられずにいた場合には、前腕を挙上させ前腕の回内および回外を0°にした位置で手首から先を伸展できるかをみます(図4-c)。その状態で自力で全可動域動かすことができればMMT2、わずかに筋収縮があればMMT1、まったく筋収縮がなければMMT0となります。
コラム:体幹の筋力を評価する場合
三角筋の評価
- 上肢を水平に維持できればMMT3以上
僧帽筋の評価
- 肩を上に上げていられればMMT3以上
大胸筋の評価
- 腕を前に出した状態で両手を合わせていられればMMT3以上
股関節
1屈曲
坐位での測定が可能であれば、足が床面に接しないようにした状態で、股関節を屈曲させ抵抗を加えてその力をみます(『コラム:坐位での測定が可能な場合』参照)。
臥位でも評価を行えます。患者が仰臥位で太ももを上げ、床面から離れればMMT3です(図5-a)。
そのとき大腿前面を押しても大腿を床面から離したままでいられるかどうかで、MMT3か4か5か評価します(図5-b)。
もし、太腿自体が重くて持ち上がらなければ、側臥位で大腿を腹部のほうへ動かすことができるかどうかでみます(図5-c)。それで全可動域動かすことができればMMT2、わずかに筋収縮があればMMT1、まったく筋収縮がなければMMT0です。
2伸展
坐位では確認できないので、腹臥位で行います。腹臥位で大腿を持ち上げて大腿前面を床面から離すことができればMMT3あります(図6-a)。
そのとき大腿裏面を押しても大腿を床面から離したままでいられるかどうかで、MMT3か4か5か評価します(図6-b)。
もし、太腿自体が重くて持ち上げられなければ、側臥位で大腿を背部へ動かせるかどうかでみます(図6-c)。それで全可動域動かすことができればMMT2、わずかに筋収縮があればMMT1、まったく筋収縮がなければMMT0です。
膝関節
1屈曲
坐位での測定が可能ならば、膝を曲げてもらい、検者は足首を持って引っ張り、抵抗を加えて力をみます(『コラム:坐位での測定が可能な場合』参照)。
臥位で評価する場合は、患者が腹臥位で膝から先を持ち上げ、床面から離すことができればMMT3以上あります(図7-a)。
そのときに足首を引っ張っても膝から先を床面から離したままでいられるかどうかで、MMT3か4か5か評価します(図7-b)。
もし、膝から先が重くて持ち上げられなかった場合は、側臥位で膝から先を曲げて踵をお尻のほうへ動かせるかどうかでみます(図7-c)。全可動域動かすことができればMMT2、わずかに筋収縮があればMMT1、まったく筋収縮がなければMMT0です。
2伸展
評価は原則坐位で行い、膝から先を持ち上げ床面から離すことができればMMT3以上あります(図8-a)。
そのときにすねを上から押しても膝から先を床面から離したままでいられるかどうかで、MMT3か4か5か評価します(図8-b)。
もし、膝から先が重くて持ち上げられなかった場合は、側臥位で膝から先を伸ばすことができるかどうかでみます(図8-c)。それで膝を伸ばし切ることができればMMT2、わずかに筋収縮があればMMT1、まったく筋収縮がなければMMT0です。
コラム:坐位での測定が可能な場合
股関節の“屈曲”の評価
- 太ももが上がり、足底が床面から離れればMMT3以上
膝関節の“屈曲”の評価
- 膝関節を屈曲したまま維持できればMMT3以上
足関節
1屈曲
足関節の屈曲は、本来は片足立ちの状態で踵が床から離れてようやくMMT3です。その姿勢で肩の上などから体を押し下げるような抵抗を加えて、MMT3か4か5を判断します。踵を床面から離すことができない場合は、側臥位で足関節の屈曲の様子を観察し、MMT2か1か0の判断をします。
実際には立位のつま先立ちは転倒の危険性があるので、図9のようにつま先の下に手を当てその手を踏んでもらうようにして筋力の程度を評価することも少なくありません。
2伸展
足関節の伸展は、立位で足を床に置いて足の親指を上げてもらい、その付け根が床面から離れればMMT3以上あることがわかります。その状態で上から押して抵抗を加えることで、MMT3か4か5か評価します。
床面から離すことができない場合には、側臥位で足関節の伸展の様子を観察し、MMT2か1か0の判断をします。
実際には図10のように、足の甲を反らすようにしてもらい、その足の甲を引っ張ることで筋力の程度を評価することも少なくありません。
MMT評価の際の注意事項
1評価等級の間隔は均一ではない
MMTはあくまで0~5の6段階の順位をつける評価に過ぎません。0より1、1より2、2より3のほうが大きい、つまり筋力があることを示しています。
ただ、気をつけなければいけないのは、順番がついているからといってMMT1から2に筋力が増えたと同じだけ筋力が増えれば、2から3になるというものではないということです。ましてや0、1、2、3、4、5のそれぞれの間の程度の差は一緒(つまり等間隔)ではないのです。
2別々の筋肉のMMTは比較できない
また再度注意しておきたいことは、MMTはあくまで「その」筋肉における筋力の相対評価であるということです。
よってMMTで同じ3だといっても、別々の筋肉で比べても意味はありません。例えば標高1,000mの山の5合目と標高3,000mの山の5合目は、同じ海抜にはなりませんね。それと同じことです。
例えば、足に関しては、見てわかるように、ふくらはぎはしっかりと筋肉がついていますが、すねの筋肉量はそれに比べたら圧倒的に少量です。ふくらはぎの筋肉を使ってする動きが足関節の屈曲です(底屈とも言いますが、「伸展」ではありませんよ!)。わずかしかついていないすねの筋肉を使っての動きは足関節の伸展(背屈とも言います)です。
ということは、下肢の力が全体的に弱くなってもふくらはぎの筋肉のほうが相対的に落ちにくいために、すねの筋肉に比べて普段よりもさらに強くなりますから、尖足位になりやすくなるのです。
MMT測定が難しい場合の評価方法
1従令できることが前提条件
MMTを測定する際には、“測定に際して「ある動作をしてほしい」という要望が相手に伝わり、それを正しく理解をしてもらうことできる”という前提が必要不可欠になります。この前提条件が確保されていないと、MMT測定そのものがまず成立しません。
2前提条件が確保できない場合
しかし、この前提条件が確保されていない場合でも、看護師の注意深い臨床観察からある程度のことが把握できることもあります。特に0から3までの評価については、本人の協力が得られなくてもわかるものもあります。
例えば臥床している患者に痛み刺激などを加えて、患者自身でそれを払いのけるようなどの動作が見られた場合、その動きが重力に抗して行えていたならば、その動きは少なくともMMTで3はあることがわかります(図11)。
一方、その動きが重力のかからない水平方向で全可動域動いていたならばMMTで2以上、筋収縮があればMMT1はあることがわかります。
また、腹臥位の患者が膝を曲げ、その足が床面から離れたとしたら膝関節の屈曲はMMT3以上あり、その足を押してみて、それでも床面につかなければMMTは4ないし5はあると判断できます。
側臥位で膝が全可動域動いていたならばMMTで2以上、筋収縮があればMMT1はあることはわかります。
しかし、腹臥位で膝を曲げて下腿を持ち上げている患者の足を押してみて足が床面に着いたとしたら、たまたまそのタイミングで患者が足を下ろしたという可能性もあります。ですから足を押してみて抵抗なく足が床面に着かなかったならば「MMTで3以上である」ことは確定できますが、足を押してみて足が床面に着いたからといって「MMTは4や5でなく、3である」とは判断できないので注意しましょう。
MMTの記録のしかた
臨床ケア実践のためには、筋肉ごとではなく動作1つずつに対して、例えば肘の屈曲右いくつ左いくつ、肘の伸展右いくつ左いくつ、と評価したほうが実践的と解説しましたが、ではそれらを記録する際にはどうするとよいでしょうか。
1一度限りの評価の場合
MMTの測定結果を1つひとつ書き並べていくと長々しくなり、わかりにくいものです。ですから表形式で記録していくのがよいでしょう。
その際、評価が一度限りであれば、表2のように、縦に肘の屈曲・伸展、手の屈曲.伸展、と列挙し、それぞれ右左を並べるように記載すれば、左右差なく同じような数字なのかどうかが一目瞭然です。片側の数字が小さいと、そちら側の力が弱いということがわかります。
2継続して評価を行う場合
一方、MMT評価が一度限りではなく、その後何度も継続される場合には、表2を少し工夫して表3のようにして記録するとよいでしょう。
縦には肘の屈曲・伸展、手の屈曲・伸展、と列挙し、それぞれさらに右左と分けておきます。そこに「何月何日はそれぞれMMTでいくつであった」と経過を追って記録をしていけば、病状の変化の様子がわかりやすくなります。
コラム:「4+」「5-」という記録をつける“キモチ”
MMTの記載に「4+」や「5-」とあるのを見かけたことがありませんか?
これは“微妙な”評価や表現の可能性があります。「4の範疇と思われるけれども、前の4よりちょっと強くなった」「5と評価すべきだろうけれど、完全なフルパワーとは言いにくいと感じる」というような場合に見受けられます(ですから「『4+』と『5-』の違いは何ですか?」と言われても微妙なのです……)。
よって「4+」か「5-」かまでの厳密な再現性は微妙なものですが、少なくとも数字のレベルで5と4と、4と3と、3と2と、2と1と、1と0というのはひっくり返ることはありません。そのレベルでやり取りしておけば、誰にとっても共通の物差しになりますから、MMTは非常に有効な評価方法なのです。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2012照林社
p.60~ 「MMT測定のポイント」
[出典] 『エキスパートナース』 2012年8月号/ 照林社