せん妄を発症した場合、どんな治療を行うの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「せん妄の治療」に関するQ&Aです。
茂呂悦子
自治医科大学附属病院看護部
せん妄を発症した場合、どんな治療を行うの?
せん妄の治療は、要因を鑑別し、取り除くことが基本となります。また、せん妄には神経伝達物質の不均衡を伴うため、抗精神病薬が用いられます。
〈目次〉
せん妄の治療
せん妄の治療は、予防ケア(『せん妄は、どのように予防すればいいの?』)を継続しながら、要因を鑑別し、取り除くことが基本となる。
せん妄には、神経伝達物質の不均衡(中枢性コリン作動物質の欠乏やドパミンの相対的過剰)を伴うため、抗精神病薬が用いられる。
理論的には、抗精神病薬のD2受容体阻害およびそれに関連するアセチルコリン放出の増加が、脳内の神経伝達物質不均衡を回復させることが期待できる。
実際には、抗精神病薬がせん妄の発症減少および期間の減少におけるエビデンスは明確にされていない1,5。
使用される抗精神病薬
ハロペリドールは、米国集中治療医学会が提示した2002年のガイドラインでは推奨されていたが、2013年のガイドラインでは有効性に関するエビデンスが不十分として推奨されていない5。しかし、ハロペリドールは呼吸・循環の抑制が少なく静脈内投与が可能であるため、一般的にクリティカルケア領域で使用されている。ハロペリドールには、発現頻度は少ないものの重篤な副作用(表1)を引き起こす危険性があり、使用に際して注意が必要である。
ハロペリドールは頭部外傷後の患者に投与すると脳損傷を悪化させる危険性があるため、オランザピンの選択が推奨される1。
オランザピンは非定型抗精神病薬に含まれ、ハロペリドールよりも錐体外路症状が少ない。
せん妄の治療で用いられる他の非定型抗精神病薬には、リスペリドンとクエチアピンなどがある。
[文献]
- (1)Ely WE. Delirium in Critical Care. New York:Cambridge University Press;2011.
- (2)Ely WE, Shintani A, Truman B, et al. Delirium as an Predictor of Mortality in Mechanically Ventilated Patients in the Intensive Care Unit. JAMA2004;291(14):1753-1762.
- (3)Pisani MA, Kong SY, Kasl SV, et al. Days of Delirium are Associated with 1-Year Mortality in an Older Intensive Care Unit Population. Am J Respir Crit Care Med2009;180:1092-1097.
- (4)Girard TD, Jackson JC, Pandharipande PP, et al. Delirium as a predictor of long-term cognitive impairment in survivors of critical innness. Crit Care Med2010;38:1513-1520.
- (5)Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al. Clinical Practice Guidelines for the Management of Pain, Agitation, and Delirium in Adult Patients in the Intensive Care Unit. Crit Care Med2013;41:263-306.
- (6)古賀雄二,若松弘也:ICUせん妄の評価と対策;ABCDEバンドルと医原性リスク管理.ICUとCCU2012;36:167-179.
- (7)卯野木健:簡単にせん妄を評価できるツールは?.EB Nursing2010;10:31-34.
- (8)Needham DM, Korupolu R, Zanni JM, et al. Early physical medicine and rehabilitation for patients with acute respiratory failure: a quality improvement project. Arch Phys Med Rehabil 2010; 91: 536-542.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社