鎮静レベルの評価方法には、どんなものがあるの?|人工呼吸ケア
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「人工呼吸中の鎮静レベル」に関するQ&Aです。
植村 桜
大阪市立総合医療センター看護部
人工呼吸中の鎮静レベルの評価方法には、どんなものがあるの?
医療チーム全体で、RASSやSASなどの鎮静スケールを使用して評価します。
人工呼吸中の鎮静レベルの評価
患者にとって最適な鎮静レベルを維持するためには、医療チーム全体で鎮静レベルを適切に評価し、共通認識する必要がある。
鎮静レベルの評価方法として、PADガイドライン(『PADガイドラインってなに?』)では、信頼性・妥当性が検証されているRASS*(表1)やSAS*(表2)などの鎮静スケールの使用を推奨している。
スコア | 用語 | 説明 | 刺激 |
---|---|---|---|
+4 | 好戦的な | 明らかに好戦的な、暴力的な、スタッフに対する差し迫った危険 | |
+3 | 非常に興奮した | チューブ類またはカテーテル類を自己抜去;攻撃的な | |
+2 | 興奮した | 頻繁な非意図的な運動、人工呼吸器ファイティング | |
+1 | 落ち着きのない | 不安で絶えずそわそわしている、しかし動きは攻撃的でも活発でもない | |
0 | 意識清明な 落ち着いている |
||
-1 | 傾眠状態 | 完全に清明ではないが、呼びかけに10秒以上の開眼およびアイ・コンタクトで応答する | 呼びかけ刺激 |
-2 | 軽い鎮静状態 | 呼びかけに10秒未満のアイ・コンタクトで応答 | 呼びかけ刺激 |
-3 | 中等度鎮静状態 | 呼びかけに動きまたは開眼で応答するがアイ・コンタクトなし | 呼びかけ刺激 |
-4 | 深い鎮静状態 | 呼びかけに無反応、しかし、身体刺激で動きまたは開眼 | 身体刺激 |
-5 | 昏睡 | 呼びかけにも身体刺激にも無反応 | 身体刺激 |
ステップ1
30秒間、患者を観察する。これ(視診のみ)によりスコア0〜+4を判定する
ステップ2
- ①大声で名前を呼ぶか、開眼するように言う
- ②10秒以上アイ・コンタクトができなければ繰り返す
以上2項目(呼びかけ刺激)により、スコア-1〜-3を判定する - ③動きが見られなければ、肩を揺するか、胸骨を摩擦する。これ(身体刺激)により、スコア-4、-5を判定する
スコア | 状態 | 例 |
---|---|---|
7 | 緊急不穏状態 | 気管チューブやカテーテルを引っ張る ベッド柵を越える 医療スタッフに暴力をふるう ベッドの端から端へ移動する |
6 | 高度不穏状態 | 度重なる注意にもかかわらず不穏がある 身体の抑制が必要 気管チューブを噛む |
5 | 不穏状態 | 不安あるいは軽度不穏 座ろうとするが注意すれば鎮静化する |
4 | 平静で協力的 | 平静 容易に覚醒し、命令に従う |
3 | 鎮静状態 | 覚醒困難 声をかけるか軽くゆすると覚醒するが、再び眠る 簡単な命令に従う |
2 | 鎮静過剰 | 身体刺激で覚醒 意思は通じない 命令に従わない 自発運動はある |
1 | 覚醒不能 | 強い刺激によってわずかに反応する あるいは反応しない 意思は通じない 命令に従わない |
RASSは、深鎮静から不穏・興奮状態を評価できる鎮静スケールで、せん妄のアセスメントツールであるCAM-ICU*の評価項目にも含まれている(『せん妄を早期に発見するには、どんなアセスメントツールが有用?』)。
RASSは「人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン」においても推奨されており、国内でも普及が進んでいる。
筋弛緩薬を投与されているなど鎮静スケールでの評価が困難な場合は、脳機能の客観的指標であるBIS*などの併用を考慮する。
全患者に共通した至適鎮静レベルは存在しないため、個々の患者に応じた目標鎮静レベルを設定し、医療チーム全体で共有する。
鎮静レベルの評価は数時間ごとに行うことが望ましく、鎮静薬の調整方法については、各施設の特性に応じたプロトコールを作成することが望ましい。
鎮静中は意識レベルが低下するため、中枢神経系の異常を見逃さないよう継続的に観察・評価を実施する。
- RASS(Richmond agitation-sedation scale)
- SAS(Sedation-Agitation Scale)
- CAM-ICU(confusion assessment method for ICU)
- BIS(Bispectral Index)
[文献]
- (1)日本集中治療医学会:ICUにおける鎮痛・鎮静に関するアンケート調査. 日集中医誌2012;19:99-106.
- (2)日本呼吸療法医学会人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン. 人工呼吸2007;24:146-167.
- (3)Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al. Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation,and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med 2013; 41: 263-306.
- (4)飯田有輝, 坪内宏樹:ICU患者の早期運動療法の効果. ICUとCCU2012;36:407-413.
- (5)臼杵理人, 松岡豊, 西大輔:集中治療室における急性ストレス障害(ASD)と心的外傷後ストレス障害(PTSD). ICUとCCU2012;36:181-187.
- (6)古賀雄二, 若松弘也:ICUせん妄の評価と対策:ABCDEバンドルと医原性リスク管理. ICUとCCU2012;36:167-179.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社