ドレナージにおける医療安全対策|ドレーン関連トラブルの予防・対応策は? | ドレーン・カテーテル・チ
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はドレナージにおける医療安全対策について説明します。
橋本美雪
獨協医科大学病院看護部手術部看護師長
Point
- ドレナージ管理を安全に行うためには、ドレーン留置の目的、特徴、観察項目を知り、異常の早期発見と対応ができるようにする。
- ドレーンは患者にとっては異物であることを理解し、ドレナージの必要性を理解できるように説明し同意を得る。また、医師とコミュニケーションを図り、不要なドレーン留置を避けるケアを行う。
- 安全を考慮した固定器具の選択、固定技術を習得し、ドレーントラブルに至らないような予防策(記録なども含め)を講じることが必要である。
〈目次〉
- はじめに
- ドレーン管理を安全に行うために、ドレーン留置の目的・特徴を知る
- ドレーン挿入中の観察項目を知り、異常の早期発見と対応を行う
- 安全を考慮した固定器具の選択、固定技術を習得する
- 患者の状態をアセスメントし、ドレーントラブルを防ぐ
- 記録の徹底
- 事例報告
はじめに
看護師は、ドレーン留置中の患者が日常生活の制限を可能な限りきたさないように、その設定やドレーンの固定器具の選択・固定方法の工夫が求められる。また、必要性を理解することが困難な患者が少なくないことをふまえ、トラブルが起こらないように、予防策を講じることが重要である。
日本医療機能評価機構の報告において、ドレーン・チューブ関連のインシデント・アクシデント報告数の割合が多いことがわかる(図1、文献1より引用)。
一例として、移動時のドレーン・チューブ類の偶発的な抜去事例を表1(文献2より引用)に示す。
ドレーン管理を安全に行うために、ドレーン留置の目的・特徴を知る
ドレナージは、患者を管理するにあたって臨床上きわめて重要な処置であり、種類や目的ごとに得られる情報、管理方法などについて熟知しておかなくてはならない(→ドレナージの目的と適応参照)。
事故防止のためには、①ドレーン挿入目的の理解、②ドレーン挿入部位・長さの把握、③使用される機器に関する知識・技術の習得、④起こりやすい事故とリスクの把握が理解できていることが重要である。
特に看護師は、事故発生の第一発見者となる確率が高い。そのため、医師などと連携して、事故発生時の対応をマニュアル化しておくなど、安全管理への意識を高める必要がある(図2)。
ドレーン挿入中の観察項目を知り、異常の早期発見と対応を行う
ドレーン挿入中の観察ポイントは以下のとおりである。
- ①ドレーンが逸脱していないか、迷入していないか
- ②ドレーンが破損・断裂していないか
- ③ドレーンの固定が外れていないか、屈曲していないか、ねじれていないか
- ④ドレーン接続部の外れはないか
- ⑤ドレーンの排液はあるか、閉塞していないか
- ⑥ドレーンの排液の性状は変化したか、排液増量、色調変化、異臭はないか
異常を発見したら、医師への報告を行い、適切な処置を行う。
安全を考慮した固定器具の選択、固定技術を習得する
ドレーンを固定する物品、テープの一例を図3に示す。
また、ドレーンを安全に固定する方法(よい・悪い例)を図4に示す。
患者の状態をアセスメントし、ドレーントラブルを防ぐ
ドレーン挿入中には、患者、医療者、器械トラブルなどが要因となり、「外れ」「閉塞」「抜去」「切断」などの事故が起こりやすい。特に、ドレナージ中の事故は、患者の生命の危機に直結する危険性が高いため、注意深い観察と予防策を実施することが必要である。
報告が多いトラブルと観察ポイント、予防策、発生時の対応を表2に示す。
記録の徹底
管理しているドレーンの状態がわかるように記録する。
ドレーン挿入中の患者が不穏状態などで、安全を確保するために拘束を余儀なくされた場合などには、経過表を利用して記録すると簡便かつ医師と情報共有もでき、推奨できる記録になると考える。
図5に経過表の記録の一部を紹介する。
事例報告
当院における日本医療評価機構からの報告の類似事例について以下に述べる。
- 発生日時:○年○月○日○時○分
- 報告者職種:看護師
- 報告者レベル:3a(間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例)
- リスクマネジャーレベル:3a
- タイトル:ドレーン予定外抜去
- 事例の具体的内容:ストレッチャーに移動する際に介助者は5人いたが、ドレーンが毛布に引っかかり抜けてしまった。排液量が少量で翌日抜去予定であったために処置は行わず、患者への影響はなかった。
- 事例が発生した原因や背景:
- ドレーンの固定はマニュアルに沿った固定器具を使用し、固定方法を実施していたため問題なかったと考える。
- 移動時の介助人数は十分であったが、ドレーンの固定状態や十分な長さがあるか観察が不足していた。
- 移動前に毛布などの障害物を除去するなど環境整備ができていなかった。
- リーダー役が主導し、メンバーがドレーンが抜けない位置にあることの確認を怠った。
- 実施した、もしくは考えられる改善策:
- 移動前には安全に移動できる環境整備を徹底する。
- 移動時はドレーンの長さなどに問題はないか、安全確認を徹底する。
- リーダー役が安全のための声かけと移動時の声かけを行い、メンバーはドレーンが抜けない位置にあることを確認し、声かけの合図で移動することを徹底する。
***
ドレーンの安全管理において、医療者はドレーン留置中の患者がさまざまな不安を抱えて生活していることを理解する。
トラブルを予防するためには、患者の状態を適切にアセスメントし、対応することが求められる。看護師は、ドレーンの特徴を知り、固定器具の選択および固定方法を工夫するための知識・技術を磨き、研鑽を重ね、ドレーンに関するトラブルが1件でも減ることが期待される。
[引用・参考文献]
- (1)日本医療機能評価機構医療事故防止事業部:医療事故情報収集等事業平成25年度報.2014:154.
- (2)日本医療機能評価機構医療事故防止事業部:移動時のドレーン・チューブ類の偶発的な抜去.医療安全情報No.85,2013.http://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_85.pdf(2015年6月1日アクセス)
- (3)村上美好監修:写真でわかる看護安全管理事故・インシデントの背景要因の分析と対策.インターメディカ,東京,2007.
- (4)川村治子:ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本.医学書院,東京,2003.
- (5)中島和江,武田裕,八田かずよ編:クリニカルリスクマネジメントナーシングプラクティス.文光堂,東京,2003.
- (6)永井秀雄,中村美鈴編:臨床に活かせるドレーン&チューブ管理マニュアル.学研メディカル秀潤社,東京,2011.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社