酸素療法のデバイス(マスクやカニューラ など)は、どう選ぶの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「酸素療法のデバイス」に関するQ&Aです。
露木菜緒
一般社団法人Critical Care Research Institute(CCRI)
酸素療法のデバイス(マスクやカニューラなど)は、どう選ぶの?
「酸素化を維持するために、どれくらいの酸素濃度が必要か」が選択基準です。
デバイスにより、供給できる酸素濃度が異なります。
また、酸素療法は呼吸パターンに左右されるため、Ⅱ型呼吸不全のように安定した酸素濃度管理が必要なときは、高流量システムを選択します。
〈目次〉
- 低流量システム
- 各デバイスの特徴
- 低流量システムの酸素濃度
- 高流量システム
- 各デバイスの特徴
- 高流量システムの酸素濃度
- 酸素療法の選択基準
- 安定した酸素濃度が不必要な場合
- 安定した酸素濃度が必要な場合
- 高濃度酸素が必要な場合
低流量システム
1低流量システムの各デバイスの特徴
1)鼻カニューラ(図1)
図1鼻カニューラ
鼻カニューラは、低い酸素濃度で酸素化が維持できるときに選択する。
流量が多いと鼻の不快感が強くなるだけでなく、FIO2(吸入気酸素濃度)の上昇も期待できないため、実際は3L/分程度が望ましい。
2)簡易酸素マスク(図2)
簡易酸素マスクは、35~50%程度の酸素濃度が必要なときに選択する。
マスクにとどまる呼気CO2の再吸入を避けるため、酸素流量は5L/分以上に維持する。なお、5L/分以下にするときは、鼻カニューラへ変更する。
3)リザーバーマスク(図3)
リザーバーマスクは、60%以上の酸素濃度が必要なときに選択する。
呼気中にリザーバーバッグ内に酸素をため、吸気時にリザーバーバッグ内の酸素を吸入することで高濃度酸素を吸入できるシステムである。
一方向弁がないと高濃度の酸素を供給できないため、一方向弁の有無を確認する。
リザーバーバッグが十分に膨らんでいなければ効果がない。
酸素流量10L/分未満で使用するときや、患者の換気量が多いときは、リザーバーバッグ内の酸素が不足することがある。そのときは、マスクをゆるめに装着する、一方向弁を1つ外すなど、患者が無理なく吸えるようにする必要がある。
2低流量システムの酸素濃度
低流量システムでは、酸素流量により、おおむね表1のようなFIO2が得られる。
酸素流量が1L/分増えるごとにFIO2は4%ずつ上昇するが、FIO2はデバイスの位置やフィット状況、一回換気量などに左右されるため、画一的に何%になるものではない。
一定のFIO2を維持できるのは、人工呼吸器だけである。
高流量システム
1高流量システムの各デバイスの特徴
1)ベンチュリーマスク(図4)
ベンチュリーマスクは、患者の呼吸パターンに影響されにくく、一定の酸素濃度を維持できるため、COPDなどⅡ型呼吸不全の患者に用いられる。
ベンチュリーマスクのコマ(ダイリューター)は、設定酸素濃度ごとに色分けされており、必要最小限の酸素流量が決まっている。1つのダイリューターの管径に対して、酸素濃度は1つと決まっているため、酸素流量を増やしてもFIO2は変わらない(表2)。
2)インスピロンネブライザー(図5)
図5インスピロンネブライザー
インスピロンイージーオォーター
インスピロンネブライザーは、高流量システム使用時で十分な加湿が必要なとき(人工気道留置中患者の酸素療法時、人工呼吸離脱後や全身麻酔後など)に選択する。
インスピロンネブライザーは、酸素濃度ダイヤルで設定酸素濃度を調節する。
インスピロンネブライザーでは、加湿水を継ぎ足してはいけない。なぜなら、常に外気を取り込んでおり、外気の雑菌が繁殖しやすい環境であるためである。毎回、残っている水を破棄してから、新しい加湿水を注ぐ。
最近は、加湿水がディスポーザブルになっている製品が増えている(表3)。
低流量システム (ヒューミディファイヤーシステム) |
◦アクアパック(インターメドジャパン株式会社)
|
---|---|
高流量システム (ネブライザーシステム) |
◦アクアパック(インターメドジャパン株式会社)
|
2高流量システムの酸素濃度
高流量システムで重要なのは「30L/分以上の高流量になるよう設定酸素濃度と酸素流量を決めること」である(表4-赤数字)。
通常、酸素流量計の最大値は15L/分である。100%の目盛りに合わせると、当然、酸素流量は15L/分となり、不足分(この場合15L/分)は、マスク周囲の室内気を吸入することで補うため、結果としてFIO2は低下する。
30L/分以上の総流量を得られるのは50%までであり、それ以上に設定すると供給総流量が減少し、FIO2は設定酸素濃度よりも減少する。
「高流量システムを使用しさえすれば、高濃度酸素を投与できる」と錯覚しがちだが、原理を理解し正しく使用する必要がある。
酸素療法の選択基準
まずは「安定した酸素濃度管理が必要(Ⅱ型呼吸不全の患者など)かどうか」で、低流量システムか高流量システムかを選択する。(図6)
1安定した酸素濃度が不必要な場合
低流量システムを選択する。
●5L/分未満の酸素流量であれば鼻カニューラを選択する。
●5L/分以上の酸素流量が必要であれば、簡易酸素マスクを選択する。
2安定した酸素濃度が必要な場合
高流量システムを選択する。
●人工気道を有しておらず、加湿が不要であれば、ベンチュリーマスクを選択する。
●人工気道を有し、加湿が必要であれば、ネブライザー機能付きのインスピロンネブライザーなどを選択する。
3高濃度酸素が必要な場合
酸素濃度60%以上の高濃度酸素投与が必要なときは、リザーバーマスクを選択する。
[文献]
- (1)田勢長一郎:酸素療法・酸素療法の適応と中止.丸川征四郎,槇田浩史 編,呼吸管理・専門医にきく最新の臨床,中外医学社,東京,2003:58-60.
- (2)瀧健治:呼吸管理に活かす呼吸生理 呼吸のメカニズムから人工呼吸器の装着・離脱まで.羊土社,東京,2006:95.
- (3)Kallstrom TJ. AARC Clinical Practice Guideline:Oxygen thrapy for adults in the acute care facility-2002 revision & update. Respir Care 2002; 47: 717-720.
- (4)宮本顕二:インスピロンQ&A「より安全にお使い頂くために」 Q10.日本メディカルネクスト株式会社.(2014年11月18日閲覧).
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社