呼吸音を呼吸のタイミングで分類する方法
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聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説している『聴診スキル講座』ですが、ここでちょっと一息。
ここでは、本編とは別に、聴診に関する豆知識やグッズを紹介します。
コラムの第5話は、「呼吸音を呼吸のタイミングで分類する方法」の解説です。
皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)
〈目次〉
呼吸のタイミングを意識して聴く
普段、皆さんは聴診をする際、「副雑音が聴こえるかどうか」を意識しなが聴診音を聴いていると思います。もちろん、この聴診方法は正しい方法です。しかし、認定看護師や呼吸器を専門にする看護師、エキスパートな看護師を目指す方は、呼吸のタイミングを意識した聴診を行ってみてください。
同じ呼吸音でも、呼吸音が聴こえるタイミングによって、疾患や症状は変わってきます。この呼吸のタイミングを意識した聴診方法のことを、「呼吸相を意識した聴診」といいます。
少し高度な技術ですが、普段から呼吸相を意識した聴診を行っていると、同じ副雑音でも違いがあったり、患者さんの変化に気付きやすくなったりし、疾患の鑑別にも役立つことがあります。実は、呼吸器の専門医は、呼吸相を意識した聴診を行っています。
memo呼吸相とは呼吸のどのタイミングにあたるか
呼吸相とは、吸気と呼気の時間軸で考えることです。わかりやすく言えば、「呼吸のどのタイミングにあたるか」ということです。例えば、「捻髪音が聴こえたのは息を吸い始めてすぐ」といった具合です。
このように、この呼吸相を意識して音を聴くと、同じ副雑音でも違いに気付くことができ、疾患の鑑別に役立ちます。
呼吸相を意識すると疾患がわかる
通常、間質性肺炎などの患者さんは、聴こえる副雑音が決まっています。しかし、病気が進行すると聴こえる副雑音が変化するケースがあります。この場合、教科書に書いてあるとおりの副雑音だけを意識して聴診していると、変化している副雑音を聴いた際に、患者さんがどのような状態になっているのかを把握することは難しくなります(1)。
そこで、呼吸音が聴こえるのは吸気中か呼気中か、どのタイミングで聴こえているのか、などを考える「呼吸相を意識した聴診」を行ってみましょう。
具体的には、吸気中であれば、吸気の初期・中期・後期のどのタイミングで副雑音が聴こえ始めて、吸い始めから終わりまでの間で音が強くなるか(弱くなるか)を意識して聴くということです。
捻髪音を呼吸相で分類する
代表的な副雑音の捻髪音と水泡音を、呼吸相で分類してみます。
捻髪音は、吸気時、音がだんだん大きく聴こえる特徴があります。同じ捻髪音でも、聴こえ方が変わっている2種類の音を例に挙げます(図1)。
図12種類の捻髪音を呼吸相で分類
水泡音を呼吸相で分類する
水泡音は、吸気の初めは音がせず、少し間があいてか副雑音が聴こえる特徴があります。同じ水泡音でも、聴こえ方が変わっている2種類の音を例に挙げます(図2)。
図22種類の水泡音を呼吸相で分類
このように、同じ副雑音でも呼吸相で見ると違いがあることがわかります。特に水泡音では、呼吸相の分類が違う場合、代表的な疾患も違っていることがわかります。こういった違いを覚えておくと、患者さんの状態の変化や、疾患の鑑別にも大きく役立ちます。
なお、ここでは解説していませんが、呼気時については、笛音やいびき音が、どう聴こえているかを、意識して聴診しましょう。
聴診に慣れた方は、単純に呼吸音を聴くだけでなく、どのタイミングで呼吸音が聴こえているかを意識してみてください。
同じ副雑音でも、聴こえ方によって、疾患や症状などが変わってきます。
この違いを理解できれば、聴診のエキスパート看護師に一歩近づきますよ。
[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授
[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授