記銘力検査|精神科系の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、記銘力検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
記銘力検査とはどんな検査か
短期記憶と長期記憶に分けて評価する。
短期記憶
常に外界から受ける刺激は、15秒から30秒程度で消失する。意識を向けられないものは失われ、意識を向けられたものは短期記憶となる。
これらを繰り返し反復したり考え情報処理されることで長期記憶へ移行する。一時的に必要なだけ記憶する能力を検査する。
長期記憶
長期記憶は、陳述的記憶と手続き記憶に分類される。
陳述的記憶
日常の時間・空間的な個人の体験、感情などが加わって記憶されたエピソード記憶と、一般的知識と言い換えられる意味記憶がある。
手続き記憶
繰り返し体で覚えた記憶である。習得までには時間がかかるが、習得すると忘れにくい。
記銘力検査の目的
認知症、健忘の重症度、認知障害の程度を知り、診断や症状の変化を把握する。
記銘力検査の実際
数唱範囲
意味を持った記号を記憶できる情報量は、7±2桁といわれている。短時間だけ一時的に情報を保持する記憶を評価する。
コルシのブロック叩き法
数唱に対し非言語的方法で、9つの用意されたブロックを検者が1秒に1個の速度で叩き、被検者が同じ順番で叩く。
自由再生法
非言語的検査方法。9つのブロックを1秒に1個のリズムで叩き、患者は叩いた順番を記憶し同じ順番でブロックを叩く。
ブラウン・ピーターソンテスト
患者に3つの子音を視覚的、聴覚的に提示しリハーサルができないように干渉設定させながら、再生までの時間を長くしていく検査。時間を遅延させることで正答率が低下することは正常である。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
言語性認知症スクリーニング検査である。表1にあげる9つの質問について聴取する。
Mini-Mental State Examination (MMSE)
5つの言語性テスト、6つの動作性テストからなる。認知症スクリーニングテストとして用いられる。
- ①日時、季節(5点)
- ②場所(5 点)
- ③記憶:無関係な3つの単語を聞かせ復唱してもらう。(3点)
- ④7シリーズ:100から順に7を引いていく(または、「フジノヤマ」を反対から言ってもらう)。(5 点)
- ⑤想起:③を再度復唱してもらう。(3点)
- ⑥呼称:ペンと時計を見せて何か答えてもらう。(2 点)
- ⑦読字:「みんなで力を合わせて綱を引きます」(1点)
- ⑧言語理解:「右手でこの紙を持ってください」「半分に折り畳んでください」「机の上においてください」の3つの課題を口頭で伝え従ってもらう。(3点)
- ⑨文章理解:「目を閉じなさい」を読んで実行してもらう。(1点)
- ⑩文章構成:何か文章を書いてもらう。(1点)
- ⑪図形把握:図形を書き写してもらう(図1)。(1点)
記銘力検査前後の看護の手順
検査前の看護
患者は、自分が試されていると感じやすい。また、患者にとって課題が容易であると自尊心を傷つけるおそれもある。
あくまでも一般的な検査であることを説明し、無理強いはしない。また疲労を感じることがあるので、検査に耐え得る状況か確認する。
検査後の看護
検査後は疲労していることが多いので休息をはかるとともに精神症状の変化を確認する。また、検査結果と他に得た情報とあわせてアセスメントすることで看護ケアに生かす。
記銘力検査において注意すべきこと
医師、臨床心理士などと連携をとりながら日程や時間の調整を行う。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版