QT間隔を見る|心疾患の心電図(6)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、心疾患の心電図の6回目です。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
はじめに
まず、QT間隔とは何を意味しているか考えましょう。
QRS波は心室筋の各心筋細胞のスイッチがオンになり、活動電位が急速に立ち上がる脱分極の総和を各誘導方向で見ているものです。脱分極後の活動電位の持続から終了(再分極)までがST-Tです。
QT間隔はQRS波の開始からT波の終了までの時間ですから、脱分極開始から再分極の終了までの時間で、結局は活動電位持続時間すなわち心室筋細胞がオンになっている時間を反映しています。
活動電位の持続には多くのイオンチャンネルが関与していますので、電解質異常やチャンネルに作用する薬剤によって、活動電位持続時間やその性質が変化します。
ところで、活動電位が持続している間は基本的に不応期なので、刺激に対して反応しませんが、再分極前後は相対不応期で強い刺激には反応します。この時間帯は受攻期ともいわれ、刺激によって心室細動に移行してしまうことがあります。心電図ではT波の頂上付近が受攻期であり、ここに出現する心室性期外収縮はR on Tとよばれ心室細動を誘発することがあります。
活動電位持続時間の延長は、心電図上QT間隔の延長として認識され、延長するばかりでなく再分極付近の膜電位が不安定になるため、トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes:TdP)という、QRS波が上下に捻じれるような特殊な心室頻拍を生じることがあり、注意が必要です。
QT延長
QT間隔は心拍数によって変化し、徐脈になると長くなり、頻脈だと短くなるので、ナマのQT間隔を心拍数で補正した“補正QT間隔:QTc”という指標QTc=QT(秒)/√RR(秒)を用いて表します。どんな心拍数でも心拍数60回/分(RR間隔=1秒)の心拍数に換算したときのQT時間を意味しています。
正常値は、0.35~0.44で、0.35未満はQT短縮、0.45以上はQT延長といいますが、QTの短縮はそれほど問題になることはないので、RR間隔の半分よりもT波が右にはみ出していればQT延長としてよいでしょう。QT間隔延長を呈する病態は以下のとおりです。まず、先天性QT延長と後天性(二次性)QT延長に分けます。
先天性QT延長症候群
先天性のものには、常染色体優性遺伝で聴力障害を伴わないロマノ・ワード(Romano‐Ward)症候群と、常染色体劣性遺伝で聴力障害を伴うジャーベル・ランゲ・ニールセン(Jervell‐Lange‐Nielsen)症候群があります。
後天性(二次性)QT延長
1.徐脈
QT間隔は、RR間隔によって変化し、RR間隔の延長によってQT間隔の絶対値は延長します。高度の徐脈ではQT間隔も著明に延長し、トルサード・ド・ポアンツを生じることがあるので注意が必要です(図1)。
2.電解質異常(図2)
- 低カリウム血症:何度か出ていますね。U波の増高とST-T異常が特徴で、重症ではT波とU波が融合してTU波となり、結局QT延長をきたします。
- 低カルシウム血症:心電図の特徴は、T波の幅は不変のまま、ST部分だけが延長します。ST低下やU波は見られません。
- 低マグネシウム血症:再分極異常をきたしQT延長が見られることがあります。
3.薬剤性
心臓のイオンチャンネルに影響する薬剤は、QT延長をきたすことがあります(図3)。
とくに抗不整脈薬は注意が必要です。QT延長の形態は、低カリウム血症のような特徴はなく、また同じ薬剤を同じ量で投与しても、QT延長の程度は個人差があります。
- 抗不整脈薬:ジソピラミドなどのいわゆるⅠa群や、アミオダロンなどⅢ群
- 抗精神病薬:三環系のアミトリプチンなど
なお、抗ヒスタミン薬、抗生剤の一部にもQT延長作用があることが知られています。
4.その他
虚血性心疾患、脳血管障害、タコツボ型心筋症など、ST-T変化とともにQT延長が見られることがあります。とくに巨大陰性T波が見られる場合はQT間隔が延長します。
QT短縮
現場で問題になることはほとんどありません。
高カルシウム血症は、低カルシウム血症と逆にT波幅は変化しないまま、ST部分が短縮して結果的にQT間隔短縮となります。また、高カリウム血症も低カリウム血症と逆に、QT間隔が短縮するとともにT波のテント状の増高が見られます。
ジギタリス製剤の投与は、ST低下、陰性T波に加えてQT短縮が見られることがあります。
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心疾患の心電図を総まとめを表1に示します。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版