PQ間隔が短い心電図|不整脈の心電図(6)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、PQ間隔が短い心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
副伝導路
PQ間隔の正常下限は、0.12秒つまり3コマでしたね。0.11秒以下は、PQ間隔が短いということになります。
そもそも、PQ間隔つまり心房興奮と心室興奮の時間差は、心房の興奮波が房室結節でペースダウンしてゆっくり進むために見られます。そのPQ間隔が短縮するのは、房室伝導速度が増して心室に素早く伝導されたか、房室間に別の高速ルートをもっているかどちらかです。
アドレナリンや交感神経の亢進で、房室結節の通過スピードが速くなれば、PQ間隔は短くなりますが、それでも0.12秒つまり3コマまでと考えましょう。3コマ未満まで短縮したものは、房室結節・ヒス束の房室接合部以外の房室間ルートがあると思ってください。心房と心室の間にある、房室接合部以外の伝導路を副伝導路といいます。
図1の心電図を見てみましょう。
全体を見てみると……規則正しいようです。P波はⅠ誘導、Ⅱ誘導、aVFで陽性、PP間隔は規則正しく、約20コマ、心拍数は1500÷20=75回/分で、心房は洞リズムですね。
PQ間隔はどうでしょうか。P波の始まりからQRS波の始まりまでを測ってみると、Ⅱ誘導では2.5コマくらいですね。QRS波は、幅が広く、P波に連なるように緩やかな傾斜がありますね。
このPQ間隔の短縮と、幅広QRS波は、ケント束という心房・心室間の副伝導路によるものです。
図2のように、洞結節から心房興奮までは正常ですが、房室接合部以外に房室間の伝導路のケント束があるため、心房の興奮は房室結節に進入するとともに、ケント束からも心室に伝導されます。ケント束は房室結節と違って、ゆっくり進むという特殊な性質はなく、素通りともいえる速度で心室に伝導されます。
このため、心房興奮に引き続き心室興奮が始まる、つまりP波に連なってQRS波が見られるというわけです。心室はケント束の心室側の付着部から興奮が始まります。
ところで、房室結節からの興奮は通常どおりヒス束から脚に伝導しています。つまり、心室はケント束から入ってきた興奮と、ヒス束から入ってきた興奮の両方からの興奮が伝導していきます。心室に伝導するルートが2つあるわけです。
ケント束ルートはヒス束を通らないので、心室の興奮開始タイミングこそ早いものの心室内はヒス束・脚を通らないので、ゆっくり伝導しますから、緩やかな傾斜をつくり、一方ヒス束からの興奮は鋭い幅の狭い興奮波をつくります。両方の波の合成がこのQRS波形なのです(図3)。
この興奮がケント束から心室に流入してできる緩い傾斜の部分をデルタ波といいます。
デルタはギリシャ文字のデルタで“⊿”です。緩やかな立ち上がりですよね。ですから、正確にいえば、PQ間隔ではなく、P⊿間隔(P波の開始からデルタ波の立ち上がりまで)が短縮しています。
また、ケント束は房室結節に比較して不応期が短いという特徴があります。これはより高頻度の心房興奮をも心室に伝導してしまうということを意味します。後述しますが、WPW症候群で心房細動をきたすと、ケント束の不応期が短いために、より高頻度に心室に興奮が伝導して、心室の心拍数が通常の心房細動よりも速くなります。
WPW症候群
ケント束があっても、洞調律の場合はなんの兆候もなく、心電図にデルタ波が見られるだけですが、この副伝導路は発作性上室性頻拍(PSVT)の原因になります。ケント束を有し、頻拍発作をきたしうる疾患が、発見者の名前に因んで、WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)といいます。
PSVTとは、期外収縮などをきっかけにして、房室伝導とケント束とで、心房心室間を興奮が旋回(リエントリー)する不整脈です。心房からの興奮が房室結節からヒス束~脚~プルキンエ線維をいつもの順序で伝導して、その興奮は、心室からケント束を逆方向に伝導して心房を興奮させて(逆伝導)、心房興奮は房室結節から心室へという繰り返しがリエントリーです。
洞調律では、心房から心室へ2つの伝導路で興奮が伝導して、しかもケント束を通ったほうが早く心室に到達しますのでデルタ波ができます。しかし、PSVTになると、心室への伝導は通常の房室結節、ヒス束、脚、プルキンエ線維ですから、幅の狭いQRS波となり、デルタ波はなくなってしまいます。
ケント束は、洞調律とは逆に心室から心房への逆伝導に使われ、心房を下から上に興奮させますから、Ⅱ誘導・Ⅲ誘導・aVFの下方向を陽性にする誘導では、幅の狭いQRS波の直後に陰性のP波が見られます(図4)。
ケント束の性質を房室結節-ヒス束と比較してまとめておきましょう。
- 伝導速度が速い:心室に早く到達し、デルタ波をつくる
- 不応期が短い:高頻度の心房興奮を心室に伝導する
- 逆伝導がある:心室から心房へも興奮を伝導するので、PSVTの原因となる
まとめ
- PQ間隔(P⊿間隔)が3コマ以内に短縮している
- デルタ波が見られ、QRS幅が3コマ以上になっている
- PSVTの原因になる
LGL症候群
さて、図5の心電図はどうでしょう。
P波はあって、洞性P波のようですね。PP間隔も約20コマで規則正しく、心房は洞調律ですね。心房心拍数は1500÷20=75回/分です。
PQ間隔はどうでしょう。短いですね。2コマ程度しかありません。でも一定ですね。QRS波は、幅が狭くて正常、つまりヒス束以下は正常伝導、ケント束もないということです。PQ間隔が短縮している以外は正常心電図です。
房室結節で、興奮伝導は遅れるのが普通で、短縮しても3コマ以下にはなりません。これは、心房から房室結節を迂回(バイパス)して、ヒス束に入る別の経路があるのです。この別ルート(副伝導路)は、房室結節のなかにある場合をジェイムス束(James束)といいます(図6)。
他にも房室結節とは別の部位で、心房・ヒス束をつなぐ副伝導路もあります。
房室結節以外に別の経路がありますから、WPW症候群と同様にPSVTの原因になり、LGL(Lown-Ganong-Levine)症候群とよびます。
まとめ
- PQ間隔が3コマ以内に短縮し、QRS波は正常
- PSVTの原因になる
アクティブ心臓病院看護部に例えるとどうでしょう。
正常では、洞結節総師長の命令は心房管理室を働かせ、洞性P波となります。この業務は房室結節副総師長-ヒス束病棟師長の接合部コンビから心室病棟に伝導されますが、このコンビ以外に伝達経路がある場合を副伝導路といいます。
心房管理室から心室病棟へ直接命令を伝える副伝導路がケント束で、接合部コンビよりも早いタイミングで心室病棟に命令が入るので、病棟はヒス束病棟師長からの命令を待たずに、フライングで業務が始まります。しかし通常の経路ではないので病棟内への伝達に時間がかかり、仕事の進み方がダラっとしています(デルタ波)。そのうち、正常経路からの伝達と一緒になりデルタ波+正常QRS波という形になります。
これがWPW症候群です。
同じ副伝導路でも、房室結節副総師長を迂回して、管理室から直接ヒス束病棟師長に命令を伝える経路(ジェイムス束など)をもつ場合、心室病棟は通常ルートで通るので正常QRS波となり、PQ間隔(心房管理室から心室管理室への伝達時間)のみが短縮します。
いずれの場合にも、2つのルートがあり、命令の旋回(リエントリー)を起こす可能性があり、発作性上室性頻拍(PSVT)の原因になりえます。
[次回]
- 不整脈の読み方|不整脈の心電図(1)
- 洞性P波から読み解く不整脈|不整脈の心電図(2)
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- P波がみつからない心電図|不整脈の心電図(4)
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- 心室性期外収縮|心室起源の幅広QRS波<1>|不整脈の心電図(10)
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版