肺の構造とガス交換|呼吸する(3)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、呼吸器系についてのお話の3回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、身体を探る旅に出たナスカ。鼻から肺胞壁までの呼吸器系の仕組みについて知りました。
今回は、肺の構造から血管内のガス交換の世界を探検することに……。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
肺の構造
肺は右と左に分かれた、からだのなかでもかなり大きい器官の1つです。胸腔の大部分を占め、ちょうど横隔膜(おうかくまく)の上に乗っかる形をしています(図1)。左右の肺は完全に対称ではなく、大きさは8(右肺):7(左肺)のバランス。心臓がやや左よりにあるため、左肺の方が少し小さくなっています。
肺は、多角形小葉の集まりである葉で構成され、右肺は上から順番に上葉、中葉、下葉の3葉、左肺は上葉、下葉の2葉でできています(図2)。
肺の入り口は肺門とよばれ、ここには気管支のほか、肺動脈、肺静脈などの血管、さらには神経なども多数出入りしています。
肺門から入った空気は、気道を進んで肺胞に入ります。肺胞は直径0.2mmほどの小さな袋です。その周囲を網の目のように取りまくのは、肺動脈や肺静脈につながる毛細血管。肺における酸素と二酸化炭素のガス交換は、この毛細血管で行われます(図3)。
肺胞での酸素と二酸化炭素のガス交換って、どうやってするんですか
ちょっと待ってください。ガス分圧ってなんですか
複数の気体を含むガスがあったとして、その気体全体の圧力をそれぞれの比率で割った圧力のこと。化学式の前に圧力(pressure)のPを付けて表します
肺胞と血管の間のガス交換
肺胞のまわりには、肺動脈から続くたくさんの毛細血管が走り、その中には、体内を巡ってたくさんの二酸化炭素を積んできた静脈血が流れています。このとき、毛細血管の酸素分圧(PO2)は40mmHg、二酸化炭素分圧(PCO2)は46mmHgです。
これに対し、肺胞内のPO2は100mmHg、PCO2は40mmHg。血管内と比べると、肺胞内のほうが圧倒的に酸素が多く、二酸化炭素は少ない状態です。
したがって、拡散の法則により、肺から血液へと酸素が移動し、血液から肺へと二酸化炭素が移動します。いずれも、ガス濃度を均一にしようとする自然な動きです。
どれくらいのガスが移動するかは、ガス分圧の差によります。肺胞から静脈の毛細血管へは、60(100-40)mmHgの圧力で酸素が移動し、静脈側の毛細血管から肺胞へは反対に、6(46-40)mmHgの圧力で二酸化炭素が移動します。こうしたガス交換の結果、酸素をたっぷり含んだ血液は、肺静脈から心臓へと戻り、再び全身へと向かいます。一方、肺胞に移動した二酸化炭素は、肺の呼吸運動によって気道から体外へと排出されます。
こうして見て行くと、血液にとって肺胞は酸素の供給する場所であり、二酸化炭素の捨てる場所でもあるといえそうです。
同じようなガス交換は、血液と細胞の間でも行われています
血液と細胞で、ですか
そうよ。細胞内ではミトコンドリアがせっせとエネルギーを作り出しているでしょう。だから酸素がどんどん失われて、二酸化炭素はどんどん増えている。交換しないとバランスが崩れて大変なことになっちゃう
なるほど。つまり、細胞も呼吸しているというわけですね。内呼吸ですね
そういうこと
血中で二酸化炭素はイオンとして存在する
血液に取り込まれた二酸化炭素(CO2)は、肺に運ばれるまでの間に赤血球内の炭酸脱水酵素の働きで水(H2O)と反応し、重炭酸イオン(HCO3-)と水素イオン(H+)に解離します。これを化学式で表すと、以下のようになります。
組織(細胞)から血液へ→ CO2+H2O
血液中→ HCO3-+H+
重炭酸イオンと水素イオンに分離した二酸化炭素は、肺に運ばれ、そこで再び二酸化炭素に合成されて体外へと排出されます。
ところで、肺と心臓の大きな違いってなんだと思う?
肺は酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しますし、心臓は血液を循環させるポンプですよね?
それは機能上の違いね。でも、もっと根本的なところで心臓と肺は大きく違うの
根本的なところって?
心臓は自分の力で動けるけど、肺は動けないの
肺は、自分の力では動けないんですか
そうよ。呼吸をするときには胸郭の拡大、収縮を行う筋肉が働いているの。吸気はおもに横隔膜の収縮によって行われ、外肋間筋も使われているわね。呼気では筋肉が用いられず、膨らんだ肺が自然にもとに戻ろうとする力によって行われています。それと、呼吸は自分の意思である程度コントロールできるわよね。でも、心臓の動きは完全に自動調節で、意思の力ではコントロールできません
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版